障害者雇用政策や社会的潮流により「多様なはたらき方を推進」。短時間勤務者の雇用に注目
厚生労働省は、週の所定労働時間20時間以上30時間未満の精神障害者を1人としてカウントする特例措置「精神障害者の算定特例」について、2023年4月以降も継続する方針を明らかにしました。
また、2024年4月からは「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」の改正に伴い、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度の身体障害者・知的障害者及び精神障害者も、実雇用率の算定対象に加えることを決定しています。
上記のように、障害者側の多様な就労ニーズを踏まえたはたらき方が推進される中で、短時間勤務での雇用が注目されてきています。
そこで本調査では、障害のある方を雇用する企業担当者を対象に、障害者の短時間雇用に関する企業の意識や取り組みの動向を明らかにするため、調査を実施しました。
調査概要
調査名称 | 障害のある短時間労働者の雇用に関する調査 |
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調査手法 | 自社取引先に対するWEBアンケート調査 |
調査対象者 | 障害者雇用に取り組む人事担当者 有効回答数:141名 |
実施主体 | パーソルダイバース株式会社 |
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所記載例:パーソルダイバース「障害のある短時間労働者の雇用に関する調査」
調査結果
1. 各障害の労働時間別の雇用状況
障害者雇用を推進する企業担当者141名の回答をもとに、自社での障害種別ごとの雇用状況と1週間あたりの勤務時間をまとめた。結果、1週間あたりの勤務時間については、いずれの障害種別でも「30時間以上」が9割を占め、「~20時間未満」は1割程度となっている。
その中で「20時間以上30時間未満」の勤務に着目すると、特例措置があるために法定雇用人数1人としてカウントできる「精神障害者」のみ3割を超え、他の障害種別よりプラス10ポイント以上となった。
障害種別と雇用状況 | 回答数 | 割合(%) |
---|---|---|
身体障害のある方を雇用している | 131 | 92.9% |
精神障害のある方を雇用している | 113 | 80.1% |
知的障害のある方を雇用している | 71 | 50.4% |
勤務時間 | 回答数 | 割合(%) |
---|---|---|
~20時間未満 | 9 | 6.9% |
20時間以上30時間未満 | 24 | 18.3% |
30時間以上 | 122 | 93.1% |
勤務時間 | 回答数 | 割合(%) |
---|---|---|
~20時間未満 | 12 | 10.6% |
20時間以上30時間未満 | 38 | 33.6% |
30時間以上 | 96 | 85.0% |
勤務時間 | 回答数 | 割合(%) |
---|---|---|
~20時間未満 | 5 | 7.0% |
20時間以上30時間未満 | 16 | 22.5% |
30時間以上 | 62 | 87.3% |
2.「精神障害者の算定特例」の活用状況
「精神障害者の方を雇用している」と回答した企業のうち、2018年4月から施行された特例措置を活用した企業は、約3割にとどまった。一方で活用していない企業は6割を占め、特例措置が十分に活用されていない状況が浮き彫りとなった。
3.「精神障害者の算定特例」活用にあたり感じた課題
「精神障害者の算定特例活用した」と回答した企業に、活用にあたり感じた課題や成果などを複数回答で尋ねると、「対象社員と就業意識のすり合わせが重要」では、「そう思う」が約8割を占めた。
※なお、ここでいう「就業意識」とは、 「短時間からフルタイムへの移行」「業務内容や量」についてである。
「精神障害者の算定特例」活用企業からのコメント(抜粋)
- 「条件とのマッチング・会社方針について」
- これまでに障害者雇用の事例がなく、短時間の方から始める方針とした(100~499人、サービス)
- 本人の希望勤務時間と特例措置が一致するケースが多く、対応すべきと判断(1,000人以上、卸売・小売り)
- 「就業意識のすりあわせに関する知見について」
- 最初からフルタイムを希望する方に対して、まず短時間から勤務に慣れてもらうことが可能となった。フルタイムを希望する方には、状況を見て延長可能であることを伝え安心感を持ってもらった(1,000人以上、卸売・小売り)
- 「特例措置を活用した成果について」
- 短時間労働のため社内理解が厳しかったが、特例措置を意識した社内になってからは障害者雇用に対する理解も少しずつ変化してきた(500~999人、運輸業・郵便)
- 「特例措置を活用するにあたっての課題・意見について」
- 会社も障害者の方も様子見できるという点で、利用しやすい制度だと思う。特例措置期間が過ぎた後、勤務時間を増やしていくか検討が必要だが、会社全体として業務の効率化が進んでいることもあり、ご本人の症状や能力を考慮すると新たな業務の掘り出しが今後の課題(499人、サービス)
4.短時間雇用労働者の新規雇用意向
2024年4月からの法改正により、実雇用率算定対象となる「週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体障害者・知的障害者及び精神障害者」の雇用を検討したいかについて、「そう思う」と回答した企業は3割強だった。
他方で、「どちらとも言えない」と中立的な回答も3割強と、ほぼ同率であった。
活用意欲はあるものの、制度に対する知識や理解不足などがあると推測される。さらに、「そう思わない」が2割強という結果だった。
5. 障害のある短時間労働者の雇用を検討しない理由
障害のある短時間勤務者の雇用を検討しない理由を尋ねると、「業務の確保が難しい」が7割近くとなった。
次いで「定着・活躍できる職場環境・仕組みが整っていない」が約6割の結果だった。
障害のある短時間勤務労働者の雇用を検討しない理由(フリーコメント ※抜粋)
- 「業務の確保・業務内容に関する課題」
- 週20時間未満で任せられる、障害者の方が執務可能な担当業務を切り出せない(製造業、100人~499人)
- 賃金形態の整理が難しい。障害の有無に関わらず任される仕事の難易度が高く、短時間勤務であればなおさら業務の振り分けが難しい(金融・保険、1,000人以上)
- 「体制に関する課題」
- 現在、部内に新たにグループを作り集合型として精神障害者を雇用しているが、定着への支援体制がギリギリの ため、重度の障害者を対応できる人員を確保できないと思われる(金融・保険、500~999人)
- 「障害のある短時間勤務労働者の雇用に関する質問や相談、ご意見」
- 長時間で1名採用できるほど仕事量がない場合が多いが、短時間であればもう少し柔軟に対応できそうに思う(製造業、500人~999人)
調査結果考察
「精神障害者の算定特例」の活用状況は3割弱ではあるものの、勤務時間が「20時間以上30時間未満」では、精神障害者の就業者が他の障害種別より多い
精神障害者の職場定着率を進める観点から導入が進められた本特例であるが、まだまだ短時間労働での雇用は進んでいないことが、本調査によって分かった。
一方で「20時間以上30時間未満」で雇用されている障害種別を見ると、精神障害者が他の障害種別より10ポイント以上高い結果となり、一定の成果もあることが読み取れた。
障害者の短時間勤務労働者の新規雇用を検討しない理由は「業務確保」と「職場環境と仕組み」の2つ。まだまだ受け入れ側である企業には課題が山積
今後の短時間雇用労働者の新規雇用については、検討しない企業が大多数であった。
その理由としては、「業務の確保が難しい」が最も多く、次いで「定着・活躍できるための職場環境や仕組みが整っていない」であった。
雇用される障害者にとっては多様なはたらき方の選択肢になるため魅力的だが、受け入れ側となる企業にとっては、業務創出やマネジメントをどのようにするのか等、新たな課題が出てきているようにも思える。今後、短時間雇用の推進するにあたっては、企業側の雇用課題をどのように解決するのかが非常に重要な点になると思料される。
調査レポート資料
※調査結果をまとめた資料を提供しています。下記よりダウンロードいただけます