合理的配慮に対して、企業はどのように考えているのか?
障害者雇用に対する企業の意識は変わりつつあります。当社が2024年に実施した「企業の障害者雇用方針の変化と展望に関する調査」※によると、企業は障害のある人材を、法定雇用率の達成だけでなく、事業活動を担う戦力として活用する意欲を高めていることが伺えました。
こうした変化の中、より合理的配慮の重要性は増してきています。合理的配慮の把握・提供は障害者雇用の推進に欠かせない取り組みですが、企業の合理的配慮の成果や課題、負担はまだ不明瞭の部分があります。
そこで本調査では、企業の合理的配慮の実施状況や成果、課題、負担を明らかにし、効果的な方策のヒントを探るために実施しました。
調査概要
調査名称 | 企業の障害者雇用における合理的配慮に関する調査 |
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調査手法 | 自社会員を用いた、インターネットによるアンケート調査 |
調査対象者 | dodaチャレンジ法人向けメールマガジンに登録している、企業の障害者雇用に取り組む担当者 297名 |
調査対象者の内訳 |
|
調査期間 | 2025年2月4日~2月11日 |
実施主体 | パーソルダイバース株式会社 |
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所記載例:パーソルダイバース「企業の障害者雇用における合理的配慮に関する調査」
調査結果
1.合理的配慮の成果と内容
8割の企業が、合理的配慮の成果を実感しており、成果事例に至っていない企業は19.2%にすぎない。
中でも、最も高かったのは「雇用の安定・定着」(63%)で、次いで「適材適所の配置の際の判断、適切な雇用管理」(48.8%)、「採用時の見極め」(39.1%)。
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N=297
従業員規模別で合理的配慮の成果を見てみると、全体の傾向として従業員規模が大きいほど、合理的配慮の成果を実感している傾向がある。
従業員規模が100人以下の企業は、「現状成果と言えるまでの事例に至っていない」が他の従業員規模と比較しても31%と最も高い。
全体 | 100人未満 | 100人~300人 | 300人~500人 | 500人~1,000人 | 1,000人以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
成果あり | 80.8% | 69% | 77.6% | 86.2% | 76.6% | 80.4% |
成果なし | 19.2% | 31% | 22.4% | 13.8% | 23.4% | 19.6% |
成果ありの内訳 | 全体 | 100人未満 | 100人~300人 | 300人~500人 | 500人~1,000人 | 1,000人以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
適材適所の配置の際の判断、適切な雇用管理 | 48.8% | 31% | 36.5% | 65.5% | 48.9% | 58.9% |
採用時の見極め (自社で受け入れ可能か判断できるようになった) |
39.1% | 24.1% | 30.6% | 48.3% | 34% | 49.5% |
就労意欲の向上 | 30.3% | 37.9% | 24.7% | 24.1% | 27.7% | 35.5% |
戦力化・活躍 | 27.6% | 34.5% | 20% | 20.7% | 23.4% | 35.5% |
その他 | 5.1% | 10.3% | 8.2% | 6.9% | 0% | 2.8% |
N=297(複数回答)
N数の内訳: 100人未満:29 / 100人以上~300人未満:85 / 300人以上~500人未満:29 / 500人以上~1,000人未満:47 / 1,000人以上:107
このように企業の8割が合理的配慮の成果を実感しているが、では企業はどのように合理的配慮を把握しているのだろうか。
採用前及び、入社後においての取り組みについて聞いた。
2.合理的配慮の把握
面接前では「人材紹介会社等から提供される情報」(70.7%)、「ハローワークや支援機関から提供される情報」(54.9%)が高く、紹介機関等を介して間接的に情報を把握するウエイトが高い。
また面接時では、76%の企業が「直接応募者本人に確認する」ことによって、情報を取得しており、多くの企業が、面接前及び面接時に、合理的配慮の把握をおこなっていることがわかった。
N=297
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入社後での取り組みでは、9割を超える企業が、入社後に合理的配慮を把握するために、面談を実施している。
定期面談においては配属先の部署による面談が多く、必要に応じての面談の場合は、人事部が多い。
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N=297
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N=272
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N=272
合理的配慮の把握のため面談の実施率を従業員規模別で見てみると、従業員規模が大きいほど、増加する傾向がある。
100人以下の面談実施率は、75.9%だが、1,000人は、99.1%まで上昇する。
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N=297
N数の内訳: 100人未満:29 / 100人以上~300人未満:85 / 300人以上~500人未満:29 / 500人以上~1,000人未満:47 / 1,000人以上:107
面談以外の合理的配慮の把握については、社内の相談窓口を設置しているのが、全体の57%で多くの企業が取り組んでいる一方で、外部機関の活用・連携(社外に相談窓口の設置や、支援機関との連携)は39%にとどまっている。
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これまで見てきたように、多くの企業は、合理的配慮を把握するための取り組みを実施していることが伺えた。
続いて、企業の合理的配慮の提供状況について聞いた。
3.合理的配慮の提供状況
合理的配慮の内容は、身体障害及び精神障害ともに、「障害特性に合わせた業務の創出、業務量の調整」と「上司、同僚からのサポート」が1位、2位を占めている。
総じて、身体障害者に比べ、精神障害者への合理的配慮の実施率が高いが、「就業環境の配慮」と「業務に使う機器の用意」の2項目だけは身体障害者への実施率が高い傾向がある。特に身体障害者と精神障害者への実施率の差は、「業務指示の方法の工夫」が最も多い(18.6pt差)。
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身体障害 N=263 / 精神障害 N=227
※労働時間の配慮:休日、休憩、時短勤務等 /就業環境の配慮:オフィス内の座席、在宅やサテライトオフィスでの勤務等 / 業務指示の方法の工夫:マニュアルの作成、メール等を使用したテキストでの業務指示 と報告等 / 上司、同僚からのサポート:定期的な面談や、日報等を用いた、業務の状況の確認等 / 人事部からのサポート:定期的な面談等 / キャリア研修形成に関する配慮:教育研修等
従業員規模で見てみると、規模が大きくなるにつれ、合理的配慮の提供の実施率は高い傾向がある。
他方、「キャリア形成に関する配慮」に関しては、いずれの従業員規模でも低い傾向だった。
障害別の合理的配慮の提供状況/従業員規模別(複数回答)
合理的配慮の内容 | 全体 | 100人未満 | 100人~300人 | 300人~500人 | 500人~1,000人 | 1,000人以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
障害特性に合わせた担当業務の創出、業務量の調整 | 69.6% | 55.6% | 64.6% | 60.7% | 76.1% | 74.5% |
業務指示の方法の工夫 | 47.5% | 33.3% | 40% | 32% | 39.1% | 62.3% |
労働時間の配慮 | 66.5% | 61.1% | 63.1% | 53.6% | 67.4% | 72.6% |
就業環境の配慮 | 67.3% | 44.4% | 69.2% | 42.9% | 58.7% | 80.2% |
上司、同僚からのサポート | 67.7% | 55.6% | 58.5% | 57.1% | 67.4% | 78.3% |
人事部からのサポート | 45.6% | 33.3% | 44.6% | 42.9% | 30.4% | 55.7% |
業務に使う機器の用意 | 44.5% | 33.3% | 41.5% | 25.0% | 43.5% | 53.8% |
キャリア形成に関する配慮 | 23.6% | 16.7% | 32.3% | 10.7% | 17.4% | 25.5% |
その他 | 6.8% | 16.7% | 9.2% | 10.7% | 2.2% | 5.9% |
合理的配慮の内容 | 全体 | 100人未満 | 100人~300人 | 300人~500人 | 500人~1,000人 | 1,000人以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
障害特性に合わせた担当業務の創出、業務量の調整 | 83.3% | 58.8% | 88.5% | 76.2% | 75.0% | 89.1% |
業務指示の方法の工夫 | 66.1% | 64.7% | 59.6% | 47.6% | 50.0% | 79.2% |
労働時間の配慮 | 70.5% | 76.5% | 71.2% | 47.6% | 66.7% | 75.2% |
就業環境の配慮 | 63.0% | 58.8% | 57.7% | 42.9% | 47.2% | 76.2% |
上司、同僚からのサポート | 76.7% | 76.5% | 75.0% | 61.9% | 67.4% | 84.2% |
人事部からのサポート | 54.2% | 35.3% | 53.8% | 38.1% | 30.4% | 62.4% |
業務に使う機器の用意 | 22.0% | 23.5% | 23.1% | 9.5% | 16.7% | 25.7% |
キャリア形成に関する配慮 | 26.4% | 17.6% | 32.7% | 14.3% | 13.9% | 31.7% |
その他 | 6.6% | 17.6% | 5.8% | 9.5% | 2.8% | 5.9% |
N=100人未満:29 / 100人以上~300人未満:85 / 300人以上~500人未満:29 / 500人以上~1,000人未満:47 / 1,000人以上:107
※労働時間の配慮:休日、休憩、時短勤務等 /就業環境の配慮:オフィス内の座席、在宅やサテライトオフィスでの勤務等 / 業務指示の方法の工夫:マニュアルの作成、メール等を使用したテキストでの業務指示 と報告等 / 上司、同僚からのサポート:定期的な面談や、日報等を用いた、業務の状況の確認等 / 人事部からのサポート:定期的な面談等 / キャリア研修形成に関する配慮:教育研修等
4.合理的配慮の課題及び負担
合理的配慮の課題について聞いたところ、54.9%の企業が、 「課題は大変大きい」(17.2%)、「課題はやや大きい」(37.7%)としている。他方、「負担は許容できる(82.8%)」、あるいは「負担以上の効果がある(9.8%)」とし、合理的配慮の有効性を感じている。
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N=297
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N=297
合理的配慮の課題について従業員規模別で見ると、「課題は大変大きい」「課題はやや大きい」と回答する割合は従業員規模が大きくなるほど高くなる傾向にあった。特に1,000人以上では「課題は大変大きい」「課題はやや大きい」の割合が70%を超える。
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N=297
N=100人未満:29 / 100人以上~300人未満:85 / 300人以上~500人未満:29 / 500人以上~1,000人未満:47 / 1,000人以上:107
合理的配慮の負担を従業員規模別で見ると、100人未満の場合は「負担は許容できる範囲を超えている」は0%になる。その他の従業員規模では、10%弱で推移している。
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N=297
N=100人未満:29 / 100人以上~300人未満:85 / 300人以上~500人未満:29 / 500人以上~1,000人未満:47 / 1,000人以上:107
合理的配慮の課題の具体的な内容として最も多かったのは「社内に障害者雇用に関する専門人材の不足」(48.7%)、続いて「社内への周知・理解が進んでいない」(43.0%)と、人材と受け入れのための社内体制に関する課題があげられた。
3番目には「合理的配慮に該当するかの判断が困難」(40.1%)が選ばれており、障害特性に応じて求められる合理的配慮の多様性と必要性の線引きの困難性が浮き彫りになっている。
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N=297
5.合理的配慮の成果で、「戦力化・活躍」を選択した企業の特徴
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業の取り組みについて見ていくと、合理的配慮の把握のための面談の実施率は100%。
また外部機関を通じた面談の実施率も、「定期面談」「必要に応じた面談」ともに全体より高く、外部機関との連携を積極的に行っていることが伺える。
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N=82
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N=272
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N=272
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業は、身体障害及び精神障害ともに、合理的配慮の各取り組みへの実施率が、全体と比べて高い。特に「キャリア形成に関する配慮」との差が最も多く、身体障害では21.7ptの差、精神障害では16.5ptの差だった。
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全体/N=297
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業/N=82
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全体/N=297
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業/N=82
一方で、合理的配慮の課題についてみてみると、全体と「戦力化・活躍」を選択した企業では、大きな差はなかった。
負担に関しては、「負担以上の効果がある」及び「負担は許容できる範囲である」の割合が97.5%に達しており、若干全体より高い数値だった。
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全体/N=297
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業/N=82
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全体/N=297
合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業/N=82
調査結果考察
合理的配慮の把握・提供は、これからの障害者雇用の成功には欠かせない。
企業の半数は、合理的配慮の「課題が大きい」とし、特に1,000人以上の従業員規模の場合では70%以上だった。このように課題がある一方で、合理的配慮の成果を実感している企業も80%と、障害者雇用の促進にも寄与していることが伺えた。
特に、合理的配慮の成果で「戦力化・活躍」を選択した企業の場合、より積極的に合理的配慮の把握・提供を行っている実態が明らかとなった。
これは、合理的配慮の目的を「業務を遂行し、成果を出すためのもの」として捉えるのか、あるいは「雇用上の単なる義務」として捉えるのかで、合理的配慮の提供内容やその質、社内体制をどのように構築していくのかは、大きく変わってくるためだと考えられる。
合理的配慮の提供を通じて、どのように“障害者雇用を成功”させていくのか。業務を成果としていくのか。雇用の質向上を求められる社会の潮流の中、この視点が今後より重要になっていくと思料される。
調査レポート資料
※調査結果をまとめた資料を提供しています。下記よりダウンロードいただけます