企業は障害者採用を、どのように考え、進めているのか?
はたらく障害者の数は21年連続で増加し、2024年には約67万7000人※1に達しています。
2026年の法定雇用率の引き上げ※2とともに、今後も雇用が拡大していくと考えられる一方で、2023年に発表された「障害者雇用対策基本方針」では、雇用の量的拡大だけでなく「質の向上」にも取り組むものとし、雇用側の債務が明記されました※3。
雇用の「量の拡大」とともに、雇用の「質の向上」にも取り組む必要があります。
このような労働市場環境において、企業は障害者採用に対し、どのような課題を抱え雇用を進めようとしているのでしょうか。
本レポートでは、障害者採用の方針やプロセス、人材要件や配属など、企業の障害者採用に関する実態を調査し、今後の障害者採用のあり方への示唆を得ることを目的とし本調査を実施しました。
- ※1:厚生労働省(2024)「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」
- ※2:法定雇用率:企業や国、地方公共団体が達成を義務づけられている、常用労働者に占める障害者の雇用割合を定めた基準
- ※3:独立行政法人労働政策研究・研修機構(2023)
「ビジネス・レーバー・トレンド 雇用の「質の向上」に向けた債務を明確化-厚生労働省が障害者雇用対策基本方針を改正」(2023年6月号)
サマリー
障害者採用に対する見通し
法定雇用率2.7%の達成、過半数以上が「困難」と考えるも、そのような中で75.8%の企業は、障害者採用の拡大に意欲的。
企業は法定雇用率の上昇や、障害者労働市場の変化を受けて、障害者採用の拡大の必要性を感じている。
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求める人材の志向性と採用活動の取り組み(障害者側とのギャップ)
企業が多く求めるのは「安定・定着志向」の人材。採用活動では、成長・活躍に関する取り組みは少ない。障害者側の意識とのギャップも。
企業が採用時に求める人材の志向性としては、「安定・定着志向」が最も高く、45.7%。
一方で、当社が障害者向けに行った調査※では、「成長・活躍志向」が最も多く、意識差が見られる。
採用時、「任せたい業務内容や役割の具体的な提示」を行っている割合は高い。
一方、「キャリアパスの明示」や、「成長支援制度の提示」を実施する割合は低く、成長・活躍を見据えた取り組みは限定的と言える。
障害者のはたらく志向性の違い
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採用活動の実態と課題、考察
■採用活動の実態
- 【配属先】
-
- 現在及び今後の配属先では「社内の一般部署」が最多。
- 特に、管理部門での配属が多い。
- 【選考フロー】
-
- 「書類審査」(94.4%)、「人事面接」(88.2%)、「配属先面接」(80.2%)の実施率が高い。
- その中でも、「配属先面接」が42.9%と、最も重視している。
- 【採用判断で重視する選考要素】
-
- 「健康・体調面」が最も高く76.8%、「コミュニケーションスキル」が56.5%と、両者が高い。
■課題
-
- 採用課題では、「社内理解と受け入れ体制の構築(74.5%)と最多。
- 「選考時の見極め」(39.7%)、「採用後のミスマッチ」(37.9%)と、選考に関する課題も大きい。
- 選考フローにおいて、「キャリアパスの説明」(37.1%)や、「成長支援制度の提示」(25.9%)の実施割合は低い。
- 「障害のある社員のキャリア形成」への課題は、約3社に1社にあたる27.3%。
- 雇用率達成は困難でも「自社内雇用」により拡大していく意向が強い
- 安定・定着重視が中心。成長支援は限定的
- 雇用の“量の拡大”重視から、“質の向上※”との両立へ
※採用要件設計・受け入れ体制整備、障害のある社員の成長・活躍の支援など
調査レポート資料
※調査結果の詳細については、こちらからご覧ください。
「企業の障害者採用に関する実態・意識調査」(詳細)[PDF]
本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所記載例:パーソルダイバース「企業の障害者採用に関する実態・意識調査」
調査結果詳細
調査概要
| 調査名称 | 企業の障害者採用に関する実態・意識調査 |
|---|---|
| 調査手法 | 自社会員を用いた、インターネットによるアンケート調査 |
| 調査対象者 | 障害者雇用に取り組む人事担当者 dodaチャレンジに登録する企業の障害者採用担当者 501名
|
| 調査期間 | 2025年10月17日~10月24日 |
| 実施主体 | パーソルダイバース株式会社 |
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所記載例:パーソルダイバース「企業の障害者採用に関する実態・意識調査」
調査結果
1.障害者採用に対する企業の姿勢
1-1. 法定雇用率の達成状況と、法定雇用率2.7%の達成見込み
法定雇用率2.7%の達成は、半数以上が「困難」と考えている。
現在の法定雇用率2.5%以上を達成している企業は、半数をやや上回る52.7%。
2026年に引き上げが見込まれる法定雇用率2.7%を「達成」と答えた企業は47.4%
(「達成見込み」(26.2%)、または「既に達成」(21.2%)の合計)
一方で、達成を「困難」としている企業は、「困難」「やや困難」を合わせて52.6%となっている。
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1-2. 障害者採用の方針
半数以上の企業は、採用活動の方針を「収益業務で活躍してもらうため」としている(52.3%)。
企業が障害者採用をする際の目的は、「自社の収益業務で活躍してもらうため採用する」が最多(52.3%)。
「法令順守(雇用率達成)のみを重視し、その他は十分検討できていない」は17.6%にとどまる。
この傾向は「今後重視したい方針」でも同様。
法定雇用率の上昇に伴い、障害者にも収益貢献を期待している様子がうかがえる。
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1-3. 障害者採用拡大への意向
企業は障害者の採用者数だけでなく、障害種別や地域、職域など、障害者採用を多様に拡大させていく意向を持っている。
こうした中で、75.8%の企業が、障害者の社員数を増やすだけでなく、採用対象や採用地域、配属先などを広げる(以下「採用の拡大」)としている(「拡大したい」が35.3%、「できれば拡大したい」が40.5%)。
法定雇用率の上昇や、障害者労働市場の変化を受けて、障害者採用の拡大の必要性を感じているのがわかる。
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1-4. 企業が求める障害者のはたらく「志向性」
「安定・定着志向」の人材を求める割合が最も多い(45.1%)。
障害者の就業への意向や目的、職業経験は様々であるため、企業側がどのような意向を持つ人材を採用したいのかを調査した。
結果、企業が、最も求める人材は「安定・定着志向」を持つ人材(45.1%)である一方で、「成長・活躍志向」を求める割合は18.2%、両者の中間に位置する「バランス志向」が36.7%存在している。
両者を合わせた54.9%の企業は「収益業務での活躍」も期待している様子がうかがえる。
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1-5. 企業が求める人材の志向性と、障害者のはたらく志向性の違い
「障害者のはたらく志向性※は「成長・活躍志向」が最多で、企業の求める人材とギャップがある。
当社が過去に調査した「障害者のはたらく志向性」※と、企業が求める人材の志向性を比較した。
結果、企業が「成長・活躍志向」の人材を求める割合は18.3%である一方、「成長・活躍志向」である障害者の割合は、38.1%と、20%弱の差がある。
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2. 障害者採用活動の実態
2-1. 現在の配属先
現在の配属先では、8割強が「自社内の一般部署」。特例子会社や、雇用代行サービス等の「自社以外」での雇用は少ない。
現在雇用している配属先は自社内の一般部署が最多(86.2%)。
配属先部門は、「総務部門」(68.3%)、「人事部門」(58.3%)など、管理部門への配属が多い。
当社が障害者を対象に行った調査※1では、現在の職位は「一般社員」が80.1%、「係長」が4.2%、「課長・部長・役員」が3.1%と回答。配属先や職位に偏りがあることがうかがえる。
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2-2. 今後拡大させたい配属先
「集合配置部署」「雇用代行など」での拡大を検討する企業が増加している。
「自社内の一般部署」が最多(80.6%)だが、“現在”と比べると5.6%減少している。
一方で、「自社内の集合配置部署」が6.8pt、「自社以外(雇用代行などの外部サービス)」が3.0pt増加している。
自社内の一般部署での雇用拡大を前提としつつも、集合配置部署や雇用代行などの外部サービスなど、多様な選択肢を模索していることがうかがえる。
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2-3. 各採用段階での担当部署・選考フロー
採用計画の策定では人事部が担当するケースが多いが、人物像やスキルの整理、採用活動のオペレーションでは、配属先事業部も参画する割合が増加する。
「採用計画の策定」では、人事部が行うことが大半だったが、「求める人物像の整理、労働条件の設定など」及び「採用計画のオペレーション」については、人事部と配属先の事業部が共同で行う割合が40%強と高くなっている。
選考フローでは、「書類選考」「人事面接」「配属先面接」の実施割合が高い。
「配属先面接」を採用内定に特に重視する割合が高く、採用の段階から、人事と配属先現場が連携して採用活動を進めている姿がうかがえる。
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2-4. 重視する選考要素
障害者採用においては、「健康・体調面」を重視する企業が最も多い。
企業が最も障害者採用において重視するものは、「健康・体調面(就労の安定性)」(76.8%)が最も高い。
2番目には「コミュニケーションスキル」(56.5%)であり、就労の安定性や、周囲とのコミュニケーション面をより重視しているのがわかる。
一方、「募集職種に関する職務経験」は3番目の34.1%、「その他、募集職種に関する資格・専門スキル」は5.4%と、就労の安定性がスキル面より重視されている。
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2-5. 障害者採用に当たって、実施している取り組み
採用時の取り組みでは、キャリアパスや成長支援制度の説明の実施割合が低い。
採用時の、求職者への取り組みでは、「任せたい業務内容や役割の決定・明示」(61.1%)が高い一方、「キャリアパスの説明」と「成長支援制度の提示」の実施割合は低い。
採用活動での連携の実施割合も総じて高く、採用活動に直結した取り組みは行えているものの、“採用後”を見越した採用活動までは、対応できていない可能性もある。
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2-6. 障害者採用を進める上での課題
「社内理解と受け入れ体制の構築」の課題が、最も高い(74.5%)。
障害者採用を進める上での課題では、「社内理解と受け入れ体制の構築」(74.5%)が多い。
続いて、「母集団の形成」や、「選考時の見極め」、「採用後のミスマッチ」、「業務内容の決定・創出」と、選考に関する課題が選ばれている。
他方、「評価や処遇・待遇の見直し、改善」、「障害のある社員のキャリア形成」は20%代にとどまっていることから考えると、まず「社内体制」および「採用」に関するものが、喫緊の課題と感じている可能性がある。
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2-7. 障害者採用を進める上での課題 | フリーコメント(抜粋)
法定雇用率2.7%の達成は、半数以上が「困難」と考えている。
【キャリア開発や評価】や【社内との連携】に関するコメントが多かった。
【キャリア開発や評価】では、キャリア形成支援の必要性は感じつつも、その困難を感じていることがわかる。
【社内との連携】では、「会社としてもの障害者採用の進め方、方針」に対する認識のすり合わせに困難がある様子がうかがえる。
- 【キャリア開発や評価に関する課題】
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- 障がい者のキャリア形成、能力に応じた処遇の見直し、昇格などは今後の大きな課題と感じます。(金融業・保険業、10,000人以上)
- 障害者には実施可能なレベル感があり、単純作業から総合職志望など、個々人に応じたキャリアプランを用意する必要がある。 (サービス業、5,000人~10,000人)
- 特にキャリア形成について,モデルになるような層が存在せず,手探りであるため。 (製造業、1,000人~5,000人)
- 業務限定でご入社いただくため、入社後のキャリアアップ形成が難しい。(電気・ガス・熱供給・水道業、1,000人~5,000人)
- 正社員登用制度はあるが、判断基準があいまいであり、入社の際に明確なキャリアパスを示していないため(運輸業・郵便業、1,000人~5,000人)
- 多くの人数を一つの部署で受ける際に、業務の切り出しやサポート体制を整えるのに苦労する。また、候補者の適正にあったキャリアパスが描けるか、適正な業務にアサインできているか悩ましい時がある。(サービス業、1,000人~5,000人)
- 【社内との連携に関する課題】
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- 採用実績があまりないのでノウハウがなく、受け入れる側への障害者雇用への理解と協力の体制をしっかりしないといけないと考えている。(製造業、100人~300人)
- しくみはあっても実際は誰がサポートするのか、しくみと現場の意識の乖離がある(公的機関、300人~500人)
- 社内・経営層の理解はあるものの実際に配属となった場合、部署内でのマネジメントは現実的に厳しい(教育・学習支援業、500人~1,000人)
- 現場側が押し付けられたではなく、主体的に採用活動に参画できる取り組みが課題と感じています。 (生活関連サービス業・娯楽業、100人~300人)
- 経営陣の方は障害者雇用に関しては否定的とまではいかないが、積極的な姿勢ではないのでまずはそこの理解を深めてて行かなければ、社内で仕事の切りだしすらできず先に進まない為(卸売業・小売業、500人~1,000人)
3.求める「はたらく志向性」別の採用活動の特徴
3-1. 各採用段階での担当部署|志向性別
「成長・活躍志向」の人材を求める企業ほど、配属先事業部が障害者採用に関わる割合が高い。
「採用活動の策定」においては、人事部が決定するケースが両者ともに高い。
一方、「求める人物像やスキルの整理、労働条件の設定など」、「採用活動のオペレーション」では「成長・活躍志向」の人材を求める企業ほど、配属先事業部が関わる割合が高い。
採用後の成長と活躍を見越し、配属先事業部を巻き込んだ採用活動が実施されている可能性がある。
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3-2. 選考フロー|志向性別
「成長・活躍志向」の人材を求める企業は、「配属先面接」を重視する割合が高い。
成長・活躍志向の人材を求める企業の採用活動では、全ての選考フローの実施割合が高い。
採用決定に特に重視する項目は、安定・定着志向の人材を求める企業において、「人事面接」と「配属先面接」が同程度の割合になっている。
一方、成長・活躍志向の人材を求める企業においては、「配属先面接」を特に重視している割合が高い。
求める人材によって、採用活動や、重視する点が異なっているためだと考えられる。
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3-3. 重視する選考要素|志向性別
「成長・活躍志向」の人材を求める企業は、就労の安定性だけでなく職務経験やスキルを持った人材を重視している。
両者ともに「健康・体調面(就労の安定性)」を求める割合が最も高い。
成長・活躍志向の人材を求める企業においては、「募集職種に関する職務経験」を求める割合が50.5%と2番目に高い。
「IT関連スキル」、「その他募集職種に関する資格・専門スキル」も高く、総じてスキル面をより重視していることがわかる。
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3-4. 障害者採用に当たって、実施している取り組み|志向性別
成長・活躍志向の人材を求める企業は、「はたらきやすさの整備」、「キャリアパスの説明」や「成長支援制度の提示」の実施割合が高い。
「勤務場所や、勤務時間、通勤の配慮等のはたらきやすさの整備」が、成長・活躍志向の人材を求める企業では57.1%。安定・定着志向の人材を求める企業の27.9%より高く、29.2ptの差がある。
同様に、「キャリアパスの説明」では、前者が44%に対して後者は18.6%と、25.4ptの差、「成長支援制度の提示」では、前者が33%に対して後者は12.4%と、20.6ptの差がある。
成長・活躍志向の人材を求める企業ほど、より障害のある社員の戦力化を図っていることがうかがえる。
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3-5. 障害者採用を進める上での課題 | 志向性別
「成長・活躍志向」の人材を求める企業では“採用面”の課題が多い。「安定・定着志向」の人材を求める企業は“社内の体制”に関する課題が多い。
成長・活躍志向の人材を求める企業において、採用面での課題が大きい。
「障害のある社員のキャリア形成」の課題は、成長・活躍志向の人材を求める企業よりも
安定・定着志向の人材を求める企業で課題感が高い。
安定・定着志向の人材を重視し採用してきた企業ほど、キャリア形成に課題を感じている様子がうかがえる。
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調査結果考察
「雇用の量の拡大」重視から、「雇用の質」との両立へ。
目指すのは、社員の「成長・活躍」による事業貢献を見据えた採用活動。
多くの企業が、法定雇用率2.7%の達成に「困難さ」を感じている一方で、7割を超える企業が今後の障害者採用拡大に「意欲的」と回答している。課題を抱えつつも、採用を増やしていこうとする企業姿勢が浮き彫りとなった。
本調査では、配属先が管理部門に偏りがちであること、また「安定・定着志向」の人材を求める傾向が強いことも明らかになった。採用活動においては、多くの企業が「任せたい業務内容・役割の具体化」は進めているものの、「キャリアパスの明示」や「成長支援制度の整備」など、成長・活躍につながる取り組みは十分ではないといえる。
こうした傾向からは、障害者採用が「量の拡大」を優先して進められている側面が見て取れる。
一方で、企業からは、「適性に応じたキャリアパス設定や配置が難しい」、「能力に応じた処遇や昇格の仕組みづくりが課題」といった声も多く、障害者雇用の「質の向上」に向けた課題感も強い。
企業は今、障害者雇用の「量的拡大」と「質的向上」という二つの軸の両立を求められている。
障害のある社員を企業を担う人材として位置づけ、長期的に成長・活躍してもらうためには、「安心してはたらける環境整備」に加え、キャリアアップの機会や成長を支える制度が欠かせない。
雇用後ではなく、採用段階から、成長・活躍を見据えた人材要件の整理や選考活動を進めること、配属先の協力を得て、全社一体となって進めていくことが求められるだろう。
調査レポート資料
※調査結果の詳細については、こちらからご覧ください。
「企業の障害者採用に関する実態・意識調査」(詳細)[PDF]