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厚生労働省は6月24日に「令和3年度 障害者の職業紹介状況等」にて、2021年度のハローワークを通じた障害者の職業紹介状況を発表しました。新規求職申込件数は223,985件(対前年度比5.7%増)で2年ぶりにコロナ禍以前の水準を上回ったものの、就職件数は96,180件(前年度比7.1%増)で、コロナ禍以前の2019年と比較するといまだ6.8%減少している状態。就職率は42.9%(同比0.5ポイント増)という結果でした。

新規求職申込件数及び就職件数の推移

(出典:厚生労働省「令和3年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

障害別の就職状況 精神障害者の就職増加も成長にかげり

障害別の新規求職申込件数を見ると、精神障害者は対前年度比13.5%増となる108,251件で、コロナ前である2019年を上回る水準となっています。続いて、身体障害者は対前年度比0.6%増の58,033件、知的障害者は対前年度比1.0%増の34,651件と、いずれも増加はしているもののほぼ横ばいという状況です。

新規求職申込件数の推移(障害種別による比較)

(出典:厚生労働省「令和3年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

また、障害別の就職件数についても、精神障害者の就職件数は対前年度比13.0%増となる45,885件、身体障害者は対前年度比4.0%増となる20,829件、知的障害者は対前年度比0.8%増となる19,957件となり、前年からの増加はあるもの、コロナ前の2019年の水準までには回復をしていない状況です。

就職件数の推移(障害種別による比較)

(出典:厚生労働省「令和3年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

障害者雇用市場の全体的な傾向として、これまで雇用拡大の推進力となっていた精神障害者の就職件数の成長に、コロナ禍の影響もありかげりが見えている状況です。

多くの産業で就職件数回復、飲食サービス業などはいまだ影響あり

産業別の就職件数を見ると、多くの産業では前年度よりも増加している傾向にあります。
2019年度との対比では、「医療、福祉」、「鉱業,採石業,砂利採取業」、「農林漁業」は、コロナ以前の水準まで回復してきています。
一方で、「宿泊業,飲食サービス業」、「生活関連サービス業,娯楽業」は、引き続き2019年対比で約15%減少した状況が続いており影響が残っています。

産業別の就職状況 (人数) 2019
年度
2020
年度
2021
年度
2020年
対比
2019年
対比
サービス業 10,524 9,213 10,432 113.2% 99.1%
医療,福祉 35,744 34,417 35,888 104.3% 100.4%
運輸業,郵便業 4,732 3,798 4,163 109.6% 88.0%
卸売業,小売業 12,357 10,515 10,743 102.2% 86.9%
学術研究,専門・技術サービス業 1,997 1,826 1,904 104.3% 95.3%
教育,学習支援業 2,426 2,260 2,204 97.5% 90.8%
金融業,保険業 1,187 935 1,036 110.8% 87.3%
建設業 2,850 2,830 2,776 98.1% 97.4%
公務・その他 6,268 4,890 5,135 105.0% 81.9%
鉱業,採石業,砂利採取業 27 23 30 130.4% 111.1%
宿泊業,飲食サービス業 4,296 2,936 3,218 109.6% 74.9%
情報通信業 1,828 1,319 1,566 118.7% 85.7%
生活関連サービス業,娯楽業 2,365 1,627 1,767 108.6% 74.7%
製造業 13,418 10,357 12,270 118.5% 91.4%
電気・ガス・熱供給・水道業 125 91 91 111 122.0% 88.8%
農林漁業 1,035 1,253 1,181 94.3% 114.1%
不動産業,物品賃貸業 1,156 878 955 108.8% 82.6%
複合サービス事業 828 672 801 119.2% 96.7%

(出典:厚生労働省「令和3年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

障害者の解雇者数は減少

2021年度の障害者の解雇者数は1,656人でした。2019年度の2,074人と、2020年度の2,191人を下回り、落ち着きを見せています。月別では、200人以上の解雇者が発生した月が計3回(2021年5月、8月、2022年3月)あります。解雇理由は、事業廃止が795人、事業縮小が714人などとなっています。

障害者の解雇数 (過去3年間の推移)

障害者の解雇者数 障害種別
身体
障害者
知的
障害者
精神
障害者
2019
年度
2,074 844 636 594
2020
年度
2,191 951 641 599
2021
年度
1,656 718 468 470

(出典:厚生労働省「令和3年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

厚生労働省は今回の結果について、精神障害者の求職活動の活発化が、前年度からの就職件数の増加の主な要因となっていると指摘。新規求職申込件数が増加するとともに、障害者の就職先として比較的高い割合を占める「医療、福祉」「製造業」「サービス業」を中心に、多くの産業で求人数が増加していることがわかります。また、2021年3月の法定雇用率の引き上げに伴い、企業が積極的に障害者雇用に取り組んでいる状況も伺え、前年度からの就職件数増加につながっています。

考察:障害者雇用市場の傾向を踏まえた、今後のポイントと課題

今回の発表を振り返ると、障害者雇用市場はコロナ渦の影響から回復傾向にあり、今後の更なる法定雇用率引き上げも視野にいれていくと、企業側には引き続き障害者雇用を進めていくことが求められています。その上で、これからの障害者雇用拡大のポイントについて考察します。

法定雇用率の上昇に備え、引き続き精神・発達障害者の雇用拡大が必要

前述のとおり、2021年3月の法定雇用率の引き上げに続き、2023年4月にも雇用率の引き上げが予想されています。
障害別に見ていくと、身体障害者の多くは病気や事故などによる後天性であり、新規の労働者として障害者雇用市場に表れる数は今後も限られるでしょう。また、すでに雇用されている身体障害者の高齢化も進んでいきます。
一方、精神障害や若年層の発達障害者は今後も増加すると見られています。
法定雇用率達成のための採用拡大や、戦力としての障害者活躍のためには、労働市場の中心となる精神・発達障害者の採用、雇入れを一層進めていくことが求められるでしょう。

定着・活躍のための人材戦略が、今後より重要なポイントに

障害者雇用を推進し、継続的に法定雇用率を達成していくには、新規の雇入れだけではなく、既に雇用している人材を含めた安定就労・定着・活躍の実現が必要となってきます。
いくら積極的に採用を拡大しても、定着が難しく離職が頻発してしまうような環境では、障害者雇用の推進は困難です。
中長期的な定着・活躍のための戦略とその実行により、企業としての経験とノウハウが蓄積され、まわりまわって採用競争力の強化にもつながります。
それぞれの障害への理解を深め、特性や配慮を踏まえた業務を創出・切り出しすること。合理的配慮を十分に行い、安定してはたらける環境をつくること。その上で、自社が採用・受け入れできる人材要件を確立し、雇用し育成していくこと。
地道な活動にはなりますが、より本質的な障害者雇用への取り組みが、今後のポイントになってきます。