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パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース) は、2022年8月に実施した「障害者雇用の課題に対する取り組みと成果に関する調査」の結果をもとに、「社内意思決定ステージ」「採用ステージ」「受け入れ環境や定着ステージ」の3つの雇用ステージごとの課題や具体的な取り組み、成果を分析しました。今回の記事では、障害者雇用の取り組みによる企業活動への貢献や成果に関する調査結果も新たに追加しています。
障害者雇用の課題:「採用ステージ」に課題がある企業は9割を超える
図1にあるように、障害者雇用におけるステージごとの課題について、「社内意思決定ステージ」に課題がある企業は8割に達し、雇用の検討段階から課題を抱えている企業が極めて多いことがわかりました。
また、雇用方針が決まれば実際の採用活動に移りますが、「採用ステージ」に課題がある企業は9割と、その割合はさらに大きくなっています。業務の創出や求める人材を採用する段階において、課題を抱えている様子がうかがえます。
続いて、採用活動の前後に並行して行われる「受け入れ環境や定着ステージ」に課題がある企業は7割という結果でした。障害のある社員の入社時や就業において、職場定着や活躍のための環境整備などで様々な課題が顕在化し、頭を悩ませている現状が浮き彫りとなっています。
ステージごとの課題における具体的な内容
「社内意思決定ステージ」では、「配属先の受け入れや管理上の負担増」と「会社全体の雇用理解促進」について6割近い企業が課題を感じていることがわかりました。障害者雇用では、企業として障害者を採用する意義や雇用に伴う負担増などを想定し、経営層をはじめとした企業全体で障害者雇用への理解を深めることが重要です。しかし調査結果からは、雇用を本格的に進めるうえでの難しさがうかがえます。
「採用ステージ」では、「採用時における適性や能力の把握」が6割の企業で課題になっています。その背景には、採用対象や地域、採用数の拡大、テレワークの普及によるはたらき方の変化によって、求める能力や適性、人物像を採用段階でどのように見極めるかという重要課題があります。また、DXの推進により業務内容や職域の激変も予想され、「新たな職域、業務の創出」に課題を感じる企業も5割を超えているのが現状です。
「受け入れ・定着ステージ」では、回答にバラつきがあるのが特徴的です。障害特性は人によって異なり、必要な配慮事項や対応策の内容とその強弱も人それぞれで、課題も一様にはならないためだと考えられます。また、他のステージに比べて該当企業の割合が低い理由として、「合理的配慮の提供」や「労働条件等の提示」は法的義務があるため、すでに実施済みとし、課題としては認識されにくいためだと推測できます。
障害者雇用の課題に対する取り組みは、「業務指示やプロセスについての工夫」が最も多い
「採用ステージ」に課題があると9割の企業が回答したものの、課題に対する取り組みとしては「業務指示やプロセスについての工夫」が82.3%と最も多く、「採用活動における工夫」は67.9%と順位を落とし対策を講じられていない実情が伺えます。
また、「定着段階に何らかの課題がある」企業は7割でしたが、「定着支援・マネジメントの工夫」に取り組んでいる企業は65.6%と若干少なく、「柔軟なはたらき方のための環境整備」も43.2%でした。これらの結果より、課題は感じ定着への対策を講じるものの、「柔軟なはたらき方のための環境整備」にまで対応が追い付いていないのかもしれません。
取り組みにおける具体的な内容
障害者雇用の課題に対して企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。図4は、障害者雇用の課題に対する様々な取り組み内容をまとめたものです。
採用活動における工夫(67.9%の企業が対策を実施)
採用活動では、「障害者雇用専門のエージェント活用」に取り組んでいる企業が56.1%に達しています。エージェントを活用する場合、求める人材要件を明確化でき、職務能力や適性に合った対象者の絞り込みや、母集団形成を容易に進められるという理由があるためと思われます。次いで、「所属部署上長や教育係の面接同席」(40.5%)については、採用・配属後のミスマッチ軽減につながる工夫として取り組む企業が多いようです。
業務指示やプロセスについての工夫(82.3%の企業が対策を実施)
採用後に取り組む業務指示やプロセスについての工夫としては、「業務上の配慮(内容、量など)」が70.6%と最も多く、「業務内容の明確化」が58.8%と続きます。しかし、同じ業務関連の工夫でも、「作業工程の単純化・業務の見える化」(37.2%)や「コミュニケーションツールやシステム等の導入」(20.9%)といった業務改善や業務体制の整備などに着手すると答えた企業は少なくなっています。
定着マネジメントの工夫(65.6%の企業が対策を実施)
定着マネジメントの工夫は、体調・業務・要望などに関する「定期面談の実施」が65.1%と最も多く、「外部支援機関との連携」「メンター、ジョブコーチ等の配置」も3割を超えています。障害のある社員の中には、急な体調変化や、自ら相談を申し出たり不安を言葉にして伝えたりするのが苦手な人もいます。そのため、定期的な面談やメンター・ジョブコーチを通じて状態や調子の変化を把握しておくことが大切です。また、障害者の特性をより理解する支援機関や医療機関などと、連携できる体制を整えておくとよいでしょう。
柔軟なはたらき方のための環境整備(43.2%の企業が対策を実施)
柔軟なはたらき方のための環境整備としては、短時間勤務やフレックス制などの「労働時間の配慮」に取り組むと回答した企業は65.5%、「休暇取得への配慮」については52.4%でした。課題に対する取り組みを行っている企業では、上述のようなはたらき方の多様化が進んでいる一方、対策を行えてない企業も半数以上(100% - 43.2%)にのぼり、企業による対策の温度差が浮き彫りとなりました。
7割の障害者雇用担当者が取り組みに対する成果を認識
図5で示すように、障害者雇用の取り組みが「企業活動に貢献しているか」については、69.9%の障害者雇用担当者が「そう思う」と回答。理由として最も多いのが「多様な人材の採用拡大」で、約半数の企業が成果を認識しています。従来は特定の障害特性や能力、雇用形態などに採用ニーズが集中して偏りが見られましたが、採用対象を拡大すると同時に、障害者が持つ多様な能力や個性を活かそうとする動きが出てきているものと思われます。
また、具体的な成果としては「D&Iの浸透・理解促進」(34.9%)、「助け合いの風土の醸成」(23.9%)、「業務最適化・効率化」(22.4%)、「業務アサイン、業務指示の改善」(19.1%)が挙げられます。他にも、「企業のイメージアップ・価値向上」が29.8%となり、3社に1社は成果を感じていることがわかりました。
障害者雇用推進の取り組みにより、会社全体の業務の最適化・効率化につながる
雇用の検討段階から課題を抱えている企業が極めて多い障害者雇用では、はじめに障害者雇用に取り組む目的や方針を明確にすることが重要です。経営層を含めた企業としての方針に沿って全社で進めることで、法的義務の達成だけでなく、定着や戦力化、企業全体への貢献などの価値創出につながります。
また、今回の調査で、7割の担当者が「障害者雇用を推進する取り組みが企業活動に貢献している」と感じていることがわかりました。「業務改善」や「業務体制の整備」をより積極的に進めることで、障害のある社員だけではなく、会社全体の業務の最適化・効率化への効果も一層期待できるでしょう。
- <調査概要>
- ■調査名:障害者雇用ステージごとの課題に対する取り組み・成果に関する調査
- ■実施期間:2022年8月22日(月)~8月28日(日)
- ■実施対象:障害者雇用を実施している全国の企業担当者(採用担当者が7割)
- ■有効回答数:389人