厚生労働省は1月、2020年6月1日現在の身体、知的、精神障害者の雇用状況について、
障害者の雇用義務のある事業主からの報告を集計した「令和2年(2020年)の障害者雇用状況の集計結果」を公表しました。
集計結果のポイントをもとに、企業の障害者雇用における課題を考察します。
雇用数・雇用率は過去最高を更新するも、伸び率は鈍化
集計結果によると、民間企業の障害者雇用数は578,292.0人(対前年比+3.2%)、
実雇用率は2.15%(同比+0.04ポイント)となりました。
法定雇用率達成企業の数は49,956社で、全体の48.6%となりました。
雇用数や実雇用率は過去最高を記録する一方、令和元年(2019年)、平成30年(2019年)と比べると伸び率は下がっています。
また、実際の雇用人数である実雇用数は479,989人と50万人を下回っており、実雇用数から見た雇用率は1.79%(同比+0.05%)と、微増に留まっています。
民間企業の障害者雇用数と雇用率、法定雇用率達成割合の推移(3年間)
2020年10月に、特例子会社2社を含む3社が第1号認定事業主として選定されました。以降は各都道府県労働局の労働局が認定を行っており、全国で認定を受ける企業が増えています。
2020 (令和2年) |
前年比 (+) |
2019 (令和元年) |
前年比 (+) |
2018 (平成30年) |
前年比 (+) |
|
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法定雇用障害者数の算定基礎となる 労働者数(人) |
26,866,997 | 281,139 | 26,585,858 | 481,024 | 26,104,834.5 | 900,115 |
障害者の数※ (人) |
578,292 | 17,684 | 560,608.5 | 25,839 | 534,769.5 | 38,975 |
実雇用数※ (人) |
479,989 | 18,178 | 461,811 | 24,279 | 437,532 | 30,551 |
実雇用率 | 2.15% | 0.04% | 2.11% | 0.06% | 2.05% | 0.08% |
実雇用数から見た 雇用率 |
1.79% | 0.05% | 1.74% | 0.06% | 1.68% | 0.07% |
法定雇用率達成企業の数/企業数(社) | 49,956/ 102,698 |
48,898/ 101,889 |
46,217/ 100,586 |
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達成割合 | 48.6% | 0.6% | 48.0% | 2.1% | 45.9% | -4.1% |
出典:厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」(令和2年、令和元年、平成30年の発表をもとに当社にて作成)
※障害者雇用状況の集計結果では、重度身体障害者と重度知的障害者は、1人の雇用をもって2人分の障害者を雇用しているものとダブルカウントされ、短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者)の場合は0.5人としてカウントされることになっています。そのため、「障害者の数」として発表される障害者雇用数値は、実際に雇用されている人数の実数値とは異なります。
精神障害者は急増、身体障害者はほぼ横ばい
雇用者を障害種別で見ると、身体障害者の雇用数が最多(356,069人)ですが、対前年増加率は0.5%にとどまっています。一方、精神障害者の雇用数は88,016人、前年と比べ12.7%増加しています。前年(令和元年 2019年)の集計結果でも、精神は前年比15.9%と急増する一方、身体は2.3%増加にとどまっていました。
ここ数年の障害者労働者市場の傾向である「精神障害者急増、身体障害者横ばい」の傾向は今年も顕著に表れています。
宿泊、飲食、生活関連サービス、娯楽業界の雇用数減少
産業別にみると、「宿泊業、飲食サービス業」を筆頭に「生活関連サービス業、娯楽業」「農、林、漁業」で雇用数が減少しており、新型コロナによる採用や事業活動への影響がうかがえます。
実雇用率では、「医療,福祉」(2.78%)、「農,林,漁業」(2.33%)
「生活関連サービス業,娯楽業」(2.33%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(2.31%)、
「運輸業,郵便業」(2.23%)が法定雇用率を上回っている状況でした。
障害者雇用市場のポイントと今後の課題
集計結果をもとに、現在の障害者雇用市場の主なポイントと今後の課題について考察します。
1. 新型コロナウイルスによる雇用の影響は来年
法定雇用率2.3%の引上げを前に企業による雇用拡大が進む中、新型コロナウイルス感染拡大による影響が注目されていました。
新型コロナウイルスによる1回目の緊急事態宣言発令や企業活動への影響が表れ始めたのは2020年春頃でした。今回の発表は2020年6月1日時点の各企業の雇用状況の集計であるため、新型コロナによる障害者雇用への影響は、次回の集計結果に表れるでしょう。
新型コロナによって、今後の経営や事業活動に深刻なダメージを受けている企業も多く、雇用拡大への取り組みや採用活動への影響が懸念されます。
2. 雇用拡大難化 問われる既存の採用、雇用施策見直し
障害者の数や実雇用数の増加数はいずれも2万人を下回り、実雇用数から見た雇用率も2%を下回っています。伸びが鈍化している大きな理由として、従来の基準による採用や雇用施策が難しくなっていることが挙げられます。今後は、新たな職域の創出や採用対象(障害種別、採用地域)の拡大、テレワークをはじめとする新たなはたらき方導入、雇用場所や雇用形態の見直し(地方拠点での雇用、特例子会社制度等の集合配置雇用)など、これまでの雇用施策の見直しが求められるでしょう。
3. 増える精神・発達障害者の受け入れ、活躍促進
身体障害者の多くは病気や事故などによる後天性であり、新規の労働者として障害者雇用市場に表れる数は今後も限られるでしょう。一方、精神障害や若年層の発達障害者は今後も増加すると見られています。法定雇用率達成や戦力としての活躍のために、精神・発達障害の受け入れをいかに拡大していけるかがポイントとなるでしょう。
4. 中小企業の雇用拡大の課題
法定雇用率未達成企業の85%が、300人未満の中小企業で占められています。2020年3月より、法定雇用率上昇に伴って雇用対象が従業員43.5人以上の企業に拡大されるほか、優良中小事業主認定制度(もにす認定制度)など、中小企業の雇用拡大のための政策が実施されていますが、現状は障害者雇用全体の拡大に直結できていないのが実情でしょう。中小企業の雇用促進のための更なる支援が求められます。