作成日:2025年11月4日
障害者雇用は、障害者の安定的な雇用の促進を目的とした制度であり、一定規模以上の企業には、雇用義務があります。しかし、実際に多くの企業では、制度概要や具体的な進め方に関する知識が足りていないというケースもあるのではないでしょうか。
障害者が個々人の希望やスキルを発揮できるように、企業側は受入体制の整備などさまざまな準備が必要です。本記事では、障害者の雇い入れを実施する企業に向けて、障害者雇用の制度概要や進め方、注意点などを詳しく解説します。
- 目次
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障害者雇用の基礎知識|制度の概要を解説
企業が障害者雇用を進めていくためには、雇用する障害者と社内の従業員が効率的に業務を進められるように社内の受入体制を整える必要があります。
受入体制を整えて障害者の安定的な雇用を実現するためには、障害者雇用制度の概要や制度が設定された背景を知ることが大切です。
ここでは、障害者雇用の概要について解説します。
障害者雇用の定義と背景
障害者雇用とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づいて定められた制度のことで、心身に障害を抱える人が、企業の一般雇用とは別枠ではたらくことを意味します。狭義としては、法定雇用率を達成するために条件を満たす障害者を雇用することと定義されます。
障害者雇用制度の目的は、障害の有無に関係なく、個々人が持つスキルや希望に合わせた仕事を通して活躍できる社会、いわゆる「共生社会」の実現です。厚生労働省は、共生社会を実現するため、国や地方公共団体、民間企業などに対して雇用義務の制定や雇用促進を目的とした助成金制度を設けています。
2025年10月時点の障害者の法定雇用率は2.5%であり、2024年4月に法定雇用率2.3%から引き上げられました。この法定雇用率の引き上げが関係し、厚生労働省が公表している2024年6月時点の障害者雇用状況の集計結果によると、法定雇用率を達成した企業の割合は46.0%と対前年比4.1%低下しています。
なお、2026年7月以降、法定雇用率は2.7%へとさらに引き上げられます。
「民間企業(法定雇用率2.5% ※2024年3月までの法定雇用率は2.3%)
- 雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
・雇用障害者数は67万7,461.5人、
対前年差3万5,283.5人増加、対前年比5.5%増加、
・実雇用率2.41%、対前年比0.08ポイント上昇
- 法定雇用率達成企業の割合は46.0%、対前年比4.1ポイント低下」
法定雇用率の引き上げが続く中で、企業においては、障害者雇用率達成に向けて計画的に職場環境を整備していく必要があります。2025年11月現在の最新の障害者雇用に関する記事はこちらを参考にして下さい。
障害者雇用の対象となる人
障害者雇用の対象者は、原則として障害者手帳を所持している人です。
具体的には、身体障害者の場合は「身体障害者手帳」、知的障害者の場合は「療育手帳」を所持している人を指します。精神障害者の場合は「精神障害者保健福祉手帳」を所持しており、就労可能な程度に症状が安定している障害者を対象としています。
| 身体障害者 |
障害者のうち身体障害者があり、障害者雇用促進法が掲げる障害がある人 |
| 知的障害者 |
障害者のうち知的障害があり、省令で定める障害がある人。知的障害者更生相談所などにより知的障害があると判定された人 |
| 精神障害者 |
障害者のうち精神障害者があり、「精神障害者保健福祉手帳」を所持しており、症状が安定している |
雇用促進法では、障害者の定義について以下のように規定しています。
「障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下『障害』と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。」
円滑に障害者雇用を進めるために、企業としては対象となる障害の種類や条件について確認しておくことが重要です。
一定規模以上の民間企業には雇用義務がある
障害者雇用促進法では、民間企業の従業員に占める障害者の割合を法定雇用率以上にする必要があると定められています。厚生労働省は、40.0人以上の従業員を雇用する民間企業に対して、1人以上の障害者を常用雇用する義務を課しています。
<障害者の雇用義務となる従業員数の算出方法>
雇用義務となる従業員数=1÷法定雇用率
※小数点以下が0.5より大きい場合、切り上げ。0.0より大きい場合、1番近い0.5の倍数に切り上げ。
過去 障害者1名 ÷ 法定雇用率(2.3%) = 43,47 → 43.5人以上の民間企業を対象
現在 障害者1名 ÷ 法定雇用率(2.5%) = 40.00 → 40人以上の民間企業を対象
未来 障害者1名 ÷ 法定雇用率(2.7%) = 37,03 → 37.5人以上の民間企業を対象
民間企業における法定雇用障害者数を算出する計算式は以下の通りです。
<法定雇用障害者数の算出方法>
法定雇用障害者数=企業全体の常時雇用する労働者の総数×法定雇用率(2.5%)
※小数点以下切り捨て
雇用カウントは以下の通りです。
- 週30時間以上勤務する障害のある労働者は、1人としてカウントされます。ただし、重度の身体障害者または重度の知的障害者については、週30時間以上勤務している場合、2人分としてカウントされます。
- 週20時間以上30時間未満の短時間勤務の障害者は、0.5人としてカウントされます。ただし、重度の身体障害者または重度の知的障害者で短時間勤務(週20時間以上30時間未満)の場合は、1人分としてカウントされます。
- 精神障害者で週20時間以上30時間未満勤務する方については、当分の間、1人を1人分としてカウントする特例措置が適用されています。
※通常は0.5人としてカウントされますが、特例により1人分として扱われます。
- 一方で、週10時間以上20時間未満の勤務となる「特定短時間労働者」で、重度の身体障害者、重度の知的障害者、精神障害者については、1人を0.5人分としてカウントします。
法定雇用率が未達成の企業で、常用労働者が100人を超えている企業の場合、不足している1人当たり月5万円の納付金が徴収されます。また、一定の割合を超えて雇用数が不足している場合には納付金を支払っていても行政指導が入り、最終的には企業名が公表される場合があります。
障害者雇用は企業の法的義務であり、納付金の支払いによって雇用が免除されることはありません。制度の趣旨を正しく理解し、障害者雇用に取り組むことが重要です。
障害者雇用を進めるメリット

円滑に障害者雇用を進めていくためには、以下のようなメリットを押さえておくことが重要です。
<障害者雇用を進める主なメリット>
- 社会的責任(CSR)を果たして社会的評価の向上を図る
- 多様性のある企業文化を醸成できる
- 合理的配慮による業務見直しの契機となる
一つずつ解説します。
社会的責任(CSR)を果たして社会的評価の向上を図る
企業が障害者雇用を進めて社会的責任(CSR)を果たすことで、ブランド価値を高め、株主や取引先といったステークホルダーなどからの信頼を高めることにつながります。
障害者雇用の推進は、世界共通の目標として掲げられている持続可能な開発目標(SDGs)である「8 働きがいも経済成長も」「10 人や国の不平等をなくそう」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」にもつながります。
個々人が希望を持ってスキルに合う仕事を全うできる社会を実現することは、多くの人材を雇用する企業の重要な役割といえるでしょう。
多様性のある企業文化を醸成できる
障害の有無にかかわらず、誰もが活躍できる社会を実現するためには、企業が積極的に多様な人材を雇用することが不可欠です。
障害者雇用を進めるために職場環境を整備することで、あらゆる従業員に対してはたらきやすい環境を構築することができます。
例えば、残業配慮(定時退社)を進めていくことで、ワークライフバランスを重要視する若手社員に対してはたらきやすい環境が還元されます。他にも、突発的な休みや遅刻・早退への理解や協力を得られる環境を構築することで、親の介護を伴う従業員にとってはたらきやすい環境が実現するでしょう。
合理的配慮による業務見直しの契機となる
障害者が円滑に業務を進めるために、配慮事項について企業と障害者双方が話し合い調整する、いわゆる「合理的配慮」が必要です。障害者雇用促進法では、障害者に対する差別禁止や、障害者に対する合理的配慮の提供義務について規定されています。
合理的配慮を検討・提供していくなかで、従来当たり前に行っていた属人的な業務を見直し、業務フローの効率化へとつながることもあります。
具体的には、障害者への配慮に合わせて主に以下の施策を実施していくことで、業務効率化につながります。
<業務プロセス改善・効率化施策>
システムの導入
業務フローの再構築
<障害者雇用推進の施策>
業務の切り出し(業務設計)
<両方に当てはまる施策>
マニュアルの整備
業務の可視化・棚卸
円滑に障害者雇用を進めるための手順|募集から採用までの手順
これから障害者雇用を進める場合、事前に流れを把握しておくことが重要です。
<障害者募集から採用までの手順>
- 障害者雇用についての理解を深める
- 採用計画を立てる
- 受入準備を整える
- 障害者雇用枠で募集をかける
- 選考・採用面接
- 職場への定着を図る
一つずつ詳しく解説します。
障害者雇用についての理解を深める
初めに、障害者雇用制度の概要や進め方に関する理解を深めていきます。障害者雇用を進めている他企業の実例を参考にして、自社において具体的にどのようにして進めていくべきかを検討します。
<障害者雇用に対する理解を深める手段>
- 他企業の見学会
- 各種セミナーに参加
- 障害者雇用に関する事例集などから情報を得る
見学会やセミナーに参加して他社の事例を確認したものの、具体的な進め方が分からない場合は、支援機関に相談することを推奨します。
その他、障害のある人に適したはたらき方を知るためには、就労移行支援事業所や特例子会社を見学させてもらうことがおすすめです。
採用計画を立てる
一度に多くの障害者を採用してしまうと、受入体制が整わず混乱を招く恐れがあります。3~5ヶ月の長期採用計画として企業全体で採用計画を立てていくことを推奨します。
採用計画にあたっては、以下のような点に留意しておく必要があります。
<採用計画における留意点>
- 雇用すべき障害者数の把握
- 業務選定(業務の創出・切り出し)
- 雇用形態の検討
- 配属先、組織形態の検討
まず、自社で雇用すべき障害者数を正確に把握していくことが重要です。また、受け入れ部門や業務量に応じ、年度ごとに何人採用するかといった点を検討していきます。
次に、採用後に担当してもらう業務の選定を行います。採用する障害者とのミスマッチが起きると、休職や早期退職につながりかねません。障害特性を考慮した上で必要な能力や提供できる配慮を踏まえて、慎重に検討することが大切です。
業務を選定したら、雇用形態を検討します。実雇用率をカウントするためには、障害者が常用雇用労働者であることが条件となります。常用雇用労働者とは、1週間の所定労働時間が20時間以上で1年を超えて雇用されており(見込みを含める)、一定の要件を満たす人のことです。要件に該当する「正社員」や「契約社員」、「嘱託社員」、「アルバイト等」が対象者にあたります。
その他、雇用形態には、障害者トライアル雇用があります。ハローワークまたは雇用助成金を取り扱う職業紹介事業者等の紹介を受けた障害者を一定期間試行雇用して業務の適性を図るものです。
また、勤務形態としては、オフィス勤務が困難な障害者が自宅などで仕事をする在宅勤務を取り入れている企業もあります。
雇用形態や勤務形態を検討したら、配属先を検討します。
受入準備を整える
社内の人的・物的な受入準備を整えることで、障害者雇用におけるさまざまな混乱を抑止できます。特に社内における障害者雇用への理解を広めていく取り組みが不可欠です。担当者の配置や従業員への説明、研修の実施などにより、障害者を受け入れる従業員の不安を払拭することが円滑な障害者雇用に欠かせません。
また、障害のある社員が円滑にはたらくために支援機器を導入するためにはコストがかかる場合もあります。高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)から機器を借りることで、ある程度のコストを軽減することが可能です。
障害者雇用枠で募集をする
社内の受け入れ準備を整えたら、募集を開始します。採用計画策定を通して明確になった採用ターゲットに対して、主に以下の募集方法から最も合う方法を見極めることが重要です。
<障害者雇用で活用できる募集方法>
- ハローワークによる職業紹介サービス:専門職員が求人に合う障害者を企業に紹介
- 特別支援学校への求人票提出:特別支援学校に在籍する生徒に向けて求人情報を提供
- 民間職業紹介業者の活用:厚生労働大臣の認可を受けた民間の職業紹介業者が、求人に合う障害者を企業に紹介
- 障害者を対象とした合同面接会:就職を希望する障害者に向けた合同面接会において求人情報を提供
選考・採用面接
次に、企業に応募した障害者に向けた選考・採用面接を実施します。一般的に、選考方法には、筆記試験や適性検査、面接があります。
障害者雇用において、職場適性を見極めるために、職場実習のような形で障害者を受け入れるケースがあります。採用面接だけで判断できない場合、実習による選考が有効です。
採用面接では、本人の性格や意欲、仕事への関心度などを基に能力や希望を判断していきます。その他、業務遂行に与える影響や、また入社後の労務管理を考慮して、本人の同意を得た上で、障害者雇用の採用面接では以下のような項目についても確認します。
<採用面接で確認する主な項目>
- 現在の障害の状況
- 通院状況
- 服薬状況
- 必要とする合理的配慮
障害者と企業とのミスマッチを避けるために、採用面接では配属先の責任者も同席することを推奨します。
職場への定着を図る
採用後は、雇用継続と職場への定着を図るためにソフト面とハード面による施策を実行していきます。
障害者雇用において定着率を高めるための施策としては、主に以下が挙げられます。
<定着率を高めるために効果的な施策>
- 理解を広げる
- 障害特性への理解
- 社内コミュニケーションの強化
- 社内制度の整備
- 支援機関との連携
支援機関は、採用後に企業を訪問して、障害者を雇用した企業の課題に対して適切な支援を実施します。
なお、企業にとって必要な施策は、企業や雇用された障害者の特性によって異なります。そのため、ハローワークやジョブコーチ支援制度(安定的な雇用のための職場環境づくりをサポート)などを活用して継続的な支援を受けながら障害者雇用を進めていくことが有用です。
障害者雇用を進めるために企業側が押さえておきたい注意点

障害者雇用を円滑に進めるためには、いくつか注意点を押さえておく必要があります。
ここでは、企業が押さえておくべき注意点について解説します。
障害者差別とならないような受入体制の整備
障害者雇用を進めていくためには、従業員に対して理解を深めてもらうことが重要です。障害者差別にあたる行動についてきちんと説明するなど、受入体制を整備する必要があります。
併せて、障害に配慮した職場環境づくりも不可欠です。前述した通り、障害者が円滑にはたけるように機器を整備する必要も出てきます。コストとの兼ね合いを考慮して、社内環境の整備を進めていきましょう。
ミスマッチ防止のための面接でのすり合わせ
雇用する障害者との間でミスマッチが起きないように、面接ですり合わせを行う必要があります。個々人の障害の程度に応じて、仕事内容を調整しなければなりません。
面接においては、雇用しようとする障害者が「できること」「できないこと」「体制を整えればできること」を明確に把握することが重要です。また、雇用が決まった後も、障害の程度に応じたフォローときめ細やかな説明が欠かせません。
従業員の負担とならないような業務フローの見直し
障害者雇用を進めるにあたって、周りの従業員のサポートや理解が不可欠です。一方、従業員としても、障害者差別とならないような配慮やコミュニケーションが求められ、大きな負担がかかるケースもあります。
障害者雇用に対する社内理解を深めることも重要ですが、従業員の負担を軽減できるような環境整備も求められます。障害者を雇用した後も、障害の程度によって業務の状況が変化することも考えられます。周囲の従業員に対するストレスをかけないように、障害者の業務の状況についても継続的にフォローしていくことが大切です。
障害者雇用状況報告の義務と罰則
従業員数40人以上を雇用する企業には、毎年6月1日時点の障害者の雇用状況をハローワークに報告する義務が発生します。対象の事業者に送付される「障害者雇用状況報告書」に必要事項を記入して提出しましょう。
障害者雇用状況報告に関して、未提出、あるいは虚偽の報告に対して30万円以下の罰金が課せられることが、障害者雇用促進法に規定されています。前任の担当者より業務を引き継いだものの、過去5年分の提出内容が同一であり正しい内容を申告出来ていなかったケースや、そもそも提出を行っていなかったというケースも企業によってはあるようです。その場合、まずは速やかに管轄のハローワークに相談することをお勧めします。
障害者雇用を進める際に活用できる相談先

障害者雇用においては、外部機関に相談しながら必要なサポートを得ることでより効率的に進めることができます。
<障害者雇用における相談先機関>
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 民間の障害者就業支援サポート
一つずつ詳しく解説します。
障害者求人の紹介を行う「ハローワーク」
ハローワーク(公共職業安定所)は、仕事を探している人や求人募集している企業に対して、雇用に関するさまざまなサービスを無償で提供している国の機関です。全国に500ヶ所を超える事業所があります。
障害者求人の受付や紹介、障害者雇用に関する管理上の配慮についての相談を受け付けている他、一部助成金の申請などにも対応しています。
<ハローワークが実施している主な支援内容>
- 障害者雇用に対する理解を深めるセミナーの実施
- 障害者に任せる業務の切り出しや職務の選定など
- 求人票の作成支援
- 求職者を探すサポート
- 事業主と求職者が集まる就職面接会の開催
障害者の雇用管理に関する相談・援助等を行う「地域障害者職業センター」
地域障害者職業センターは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営している施設です。障害者の雇い入れ計画や必要な配慮、業務指導方法、助成金の申請受付などについて専門的な観点から助言をしています。
他方、障害のある人には、職業評価や職業指導、職業準備訓練、職場適応援助などを提供しています。
障害者の生活支援を行う「障害者就業・生活支援センター」
障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活における自立を図ることを目的として、障害者の身近な地域で就業面や生活面における支援を行っています。全国に設置され、雇用や保険、福祉、教育などの関係機関と連携を図り、一体的なサポートを提供していることが特徴です。
障害者を雇用する企業に対しても、雇用や配慮に関する支援、雇用後の定着を促すための支援を実施しています。
自社に合う支援を受けられる「民間の障害者就業支援サポート」
公的支援の他に、民間企業による障害者就労支援サポートを受けることが可能です。支援内容はさまざまであり、自社が必要とする支援を受けられます。
<民間企業による障害者就業支援サポートが実施する代表的なサポート内容>
- 雇用マッチング支援
- 職場定着支援
- 障害の特性に応じた専門的なケア
企業独自に障害者雇用を進めていくとなる場合、対応の幅が広がる一方で、さまざまな準備や調整が必要となることもあります。公的な支援窓口を積極的に活用したり、必要に応じて民間企業によるサポートを受けることで、円滑な障害者雇用を推進することができます。
パーソルダイバースでは、人材紹介にとどまらず、業務・制度の設計や定着支援・研修、特例子会社の設立まで、企業の障害者雇用の全てのフェーズに合わせた多彩な支援メニューをご用意しています。
障害者雇用で活用できる主な助成金

障害者雇用を進めるためには社内の環境整備の他、従業員や雇用する障害者へのフォローが必要です。結果として、費用面での負担が大きくなるケースもあります。コストを抑えて、かつ効果的に進めていくためには、助成金の活用が有用です。
<障害者雇用で活用できる主な助成金と目的>
| キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) |
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| 障害者雇用納付金制度に基づく助成金 |
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| 障害者トライアル雇用助成金 |
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| 特定求職者雇用開発助成金 |
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一つずつ、より詳しく解説します。
キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
キャリアアップ助成金は、障害者雇用の促進と職場定着を図るために、一定の要件を満たした事業主に助成されます。具体的には、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善などに取り組んだ事業主が対象です。支給を受けるためには、キャリアアップ管理者を置いて、キャリアアップ計画書の作成や提出を行うことが条件とされています。
1年間で33万~120万円の助成金が支給されます。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金
障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、施設設備や雇用管理に関して特別な措置を講じなければ、雇い入れや雇用継続が困難な場合に支給されます。障害者を雇用する企業の一時的な経済的負担を軽減し、障害者雇用の促進、雇用の継続を目的とする助成金です。
具体的には、以下の種類があります。
<障害者雇用納付金制度に基づく助成金の種類>
- 障害者介助等助成金:介助者の配置に対して支給
- 重度障害者等通勤対策助成金:障害特性による通勤などの課題を軽減・解消
障害者トライアル雇用助成金
障害者トライアル雇用助成金とは、障害者を試行的に雇い入れた事業主、また障害者短時間トライアルコースは、週20時間以上の勤務が難しい精神障害者・発達障害者を、20時間以上の勤務を目指して試行雇用を行う事業主に対して助成されるものです。
障害者トライアル雇用は、雇用対象者とのミスマッチを防ぐために有効な制度です。雇用対象者の適性を判断して、職場定着を図ると共に、障害者雇用にあたっての企業の不安を解消することにつながります。
ただし、障害者トライアル雇用については、求人票の出し方など雇い入れに関する条件があるため、注意が必要です。制度導入を検討する場合は、ハローワークや都道府県労働局に確認することを推奨します。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、障害者や高年齢者など、就職が特に困難とされる人を「継続雇用」として雇い入れる事業主を対象とした助成金です。
ここでは、障害者雇用に関わる「特定就職困難者コース」について解説します。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、身体・知的・精神障害者や60歳以上の高年齢者について、継続雇用を前提として雇用する事業主に支給されるものです。
受給の際は、ハローワーク、または民間の職業紹介事業者などの紹介による雇い入れが必要となります。
障害者の状況や企業規模などに応じ、1~2年間で30万~240万円の助成金が支給されます。
なお、障害者に関する助成金には、「特定就職困難者コース」の他に「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」があります。ただし、「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」は障害者手帳を保有しない「発達障害者・難治性疾患患者」を対象としたコースです。つまり、障害者雇用として入社となった人には本コースを適用するケースは少ないという点に注意が必要です。
障害者を雇用した後に活用できる支援制度

助成金以外にも、障害者雇用を進める企業を支援する制度があります。
ここでは、企業が障害者を雇用した後に利用することができる支援制度について解説します。
障害者と企業双方に助言を行う「ジョブコーチ(職場適応援助者)」
ジョブコーチは、雇用される障害者の職場適応に課題がある場合、企業と障害者の双方に向けたアドバイスを行う存在です。企業に対しては、雇用した障害者の特性に応じた雇用管理を支援します。ジョブコーチには、3つの種類があります。
<ジョブコーチの種類>
- 配置型ジョブコーチ:地域障害者職業センターに在籍
- 訪問型ジョブコーチ:社会福祉法人などに在籍
- 企業在籍型ジョブコーチ:障害者雇用企業に在籍
一般的に、ジョブコーチ支援では、就労当初に週3~4日程度の集中的支援を実施した後、週1~2日の支援に移行していきます。最終的には、数週間から数ヶ月に一度のサポートに入ります。
ジョブコーチの詳しい支援内容については、こちらの記事でも解説しています。
専門家が雇用管理に関する助言を行う「障害者雇用支援人材ネットワーク事業」
障害者雇用支援人材ネットワーク事業は、障害者の雇用管理に関して具体的な支援を求める企業に対して助言を行う仕組みのことです。労務管理や医療、建築などさまざまな分野の専門家が、障害者雇用に関する相談を受け付けています。
障害者雇用支援人材ネットワークシステムで、専門分野や障害の程度、地域などの条件に合うサポーターを検索して依頼することが可能です。
よくある質問

ここまで、障害者雇用を円滑に進めるためのノウハウを紹介してきました。しかし、実際に障害者雇用を進めるとなると、さまざまな疑問や悩みが聞かれます。
ここでは、障害者雇用に関するよくある質問を3つ紹介します。
障害者雇用では解雇できない?
基本的に、雇用した障害者を解雇してはいけないという制限はありません。ただし、雇用する障害者に対しては、一定の配慮が必要となるため、一般の従業員と比べて慎重に検討すべきといえます。
客観的にみて合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当である場合は、障害者雇用の場合でも解雇することはできます。
障害者に無期転換ルールは適用される?
障害者雇用においても、一般雇用と同様に、無期転換ルールは適用されます。つまり、採用時に有期雇用者として障害者を雇用した場合であっても、契約更新後、通算5年を超えると無期雇用に転換されます。
障害者を雇用する場合は、有期雇用契約で雇い入れる場合であっても、無期転換となることも視野に入れておきましょう。
障害者の労働時間に上限はあるの?
法的には、雇用した障害者の労働時間に上限はありません。一般の労働者と同じく、1日8時間、週40時間を超える場合は労働基準法に基づく規定が適用されます。
ただし、障害の程度や状況によっては、健康面や精神面に配慮することが必要です。一般の労働者と同じように残業をさせてしまうことで、大きな負担がかかる危険性があります。
まとめ

本記事では、障害者雇用の概要や進め方、専門機関による支援内容などについて解説しました。
障害者雇用制度の目的は、個々人が持つスキルに合わせた仕事を通して活躍できる社会の実現です。障害者雇用を進めることには、多様性のある企業文化の醸成、ひいては企業価値向上やステークホルダーからの信頼の獲得といったメリットがあります。
ただし、メリットを享受するためには、雇用義務をきちんと果たしていくことが必要です。そして、雇用する障害者と従業員がストレスなく働ける環境を整備する必要があります。
本記事で紹介したポイントに留意して、障害者雇用を積極的に進めていきましょう。

◆監修者 安原 徹
パーソルダイバース株式会社
法人マーケティンググループマネジャー
◆経歴
新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社し、営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。2021年に関西RAマネジャーに着任。2023年より中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーとして勤務。





