作成日:2025年12月26日
障害者差別解消法は、障害を理由とした差別の解消を目的とした法律です。行政機関だけでなく、企業などの事業者も対象となるため、法の内容を正しく理解し、適切に対応することが求められます。
本記事では、障害者差別解消法の目的や対象者、合理的配慮の具体例についてわかりやすく解説します。また、関連する法律である障害者雇用促進法や障害者基本法との違いについても紹介しますので、障害者対応に不安がある方はぜひ参考にして下さい。
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障害者差別解消法の概要をわかりやすく解説

障害者差別解消法に基づき必要な対応を行うためには、法律の基本的な内容を理解しておくことが不可欠です。障害者差別解消法の概要や目的、対象者や分野について解説します。
障害者差別解消法が制定された目的と背景
障害者差別解消法は、正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。障害を理由とした差別の解消を推進することを目的として、2013年(平成25年)6月に制定され、2016年(平成28年)4月1日から施行されました。
障害者差別解消法が制定された背景には、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」があります。「障害者の権利に関する条約」は、障害者の権利や尊厳を保護・促進するための国際的な枠組みを定めた包括的な条約です。
障害者差別解消法では、障害を理由とする不当な差別的扱いを禁止すると共に、障害者から申し出があった場合には、負担が過重とならない範囲で合理的配慮を行うことが求められています。
この条約の締結に向けた国内法整備の一環として、共生社会の実現を目指し、障害を理由とする差別の解消を推進するために障害者差別解消法が制定されました。
なお、その後2021年5月に改正され、2024年4月1日に改正法が施行されています。
対象範囲
ここからは、障害者差別解消法の対象範囲である障害者や事業者の定義、対象となる分野について解説します。
対象となる「障害者」の定義
障害者差別解消法における「障害者」は障害者手帳をもっている人に限りません。身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)がある人や、その他の心身の機能の障害がある人で、障害や社会的な障壁によって、日常生活や社会生活において大きな制限を受けている人が対象になります。
なお、社会的障壁とは障害者にとって日常生活や社会生活を送る上で、障害となる社会的な制度や慣行、観念、物理的環境などを指します。
対象となる「事業者」の定義
障害者差別解消法には、行政機関および事業者に対して、障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めています。この事業者については、「商業その他の事業を行う者」と定義されており、企業や団体、店舗などを指します。
法人・個人、営利・非営利を問わず、継続的にサービスを提供している場合は事業者となります。そのため、企業やNPO法人だけでなく、個人事業主やフリーランス、継続的に活動しているボランティアグループなども事業者に該当します。
対象となる分野
医療、福祉、教育、公共交通など日常生活や社会生活に関わる幅広い分野が対象になります。なお、雇用分野における障害者差別の解消については、「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」にて定められています。
差別解消措置の内容と具体例

障害者差別解消法において定められている差別解消措置は以下の3つです。
- 不当な差別的取扱いの禁止
- 合理的配慮の提供
- 環境の整備
それぞれ詳しく解説します。
「不当な差別的取扱いの禁止」の内容と具体例
「不当な差別的取扱いの禁止」とは、障害を理由として障害者を不当に差別的に扱うことによって、障害者の権利や利益を侵害することを禁ずるものです。「不当な差別的取扱い」の具体例としては、以下のような対応が挙げられます。
- 補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬)を理由にお店(飲食店含む)に入ることを拒否する
- 障害があることを理由に受付対応やサービスの提供を拒否する
- 本人が意思表示できるにもかかわらず本人を無視し、介助者や支援者など付き添いの人だけに話しかける
ただし、客観的に見て、正当な理由がある場合には例外的に認められる場合もあります。正当性の有無は画一的に判断できるものではなく、最終的には個別の事案ごとに総合的に考える必要があります。
「合理的配慮の提供」の内容と具体例
「合理的配慮の提供」とは、障害者から社会的な障壁を取り除くための対応を求める意思表示があった場合に、負担が過重とならない範囲でその障壁を取り除くために必要な調整を行うことを指します。
合理的配慮の提供は、民間事業者については当初は努力義務でしたが、2024年4月の改正法により義務化されています(雇用分野では障害者雇用促進法により、2016年に合理的配慮の提供が義務化)。
必要な配慮は障害の特性や具体的な場面・状況によって異なるため、柔軟に対応することが重要です。合理的配慮の提供の例は、以下の通りです。
【身体障害者の合理的配慮の例】
飲食店で「車椅子のまま着席したい」との申し出があり、机に備え付けの椅子を片付け、車椅子のまま着席可能なスペースを確保した。
【精神障害者の合理的配慮の例】
障害の状況によってはセミナー参加中に体調不良になる可能性があるとの申し出があり、体調不良になった時に、落ち着くまで一人になれる場所をつくり、移動して休むことができるようにした。
【知的障害者の合理的配慮の例】
店舗案内図の漢字が読めないため、ふりがなを振って欲しいという申し出があり、ふりがなを振った店舗案内図を提供した。
【発達障害者の合理的配慮の例】
周囲の物音に敏感なため気が散り、集中して学習に取り組めないとの申し出があり、教室内での耳栓使用・別室への移動にて、学習に集中し取り組める環境を用意した。
なお、「過重な負担の範囲」については、個別の事案ごとに以下の要素などで総合的に判断することになります。
- 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
さらに、合理的配慮は次の3つを満たすものでなくてはならず、条件を満たさない申出については、合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます。
- 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
- 障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
- 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。
「環境の整備」の内容と具体例
「環境の整備」とは、不特定多数の障害者を主な対象として、合理的配慮を適切に提供できるようにするための事前的な改善措置を指します。
環境の整備には、施設のバリアフリー化といったハード面の整備だけでなく、コミュニケーション支援や介助などの人的支援、障害者が情報を円滑に取得・利用・発信できるようにする情報アクセシビリティの向上、社員や職員を対象とした研修やマニュアルの整備など、多岐にわたる取り組みが含まれます。
合理的配慮を必要とする障害者の訪問や利用が頻繁に見込まれる場合は、個別に対応するだけでは負担が大きくなります。そこで、あらかじめ環境の整備を行うことで長期的にはコストの削減にもつながります。
なお、「不当な差別的取扱いの禁止」および「合理的配慮の提供」は、障害者差別解消法において事業者に課せられた法的義務です。一方で、「環境の整備」は努力義務とされています。そのため、法的義務である合理的配慮の提供を確実に実施するためにも、環境整備は努力義務ですが、可能な範囲で進めることが望ましいです。
| 民間事業者 | 行政機関等 | |
| 不当な差別的取扱いの禁止 | 法定義務 | |
| 合理的配慮の提供 | 法定義務 | |
| 環境の整備 | 努力義務 | |
環境の整備の具体例としては、下記のようなものがあります。
- 飲食店において、車椅子のままでも着席できるようにカウンター席の一部を改装し、席の1つを可動椅子に変更した。
- 銀行や携帯電話ショップなどの窓口において、意思の疎通を図ることが難しい方に対して、わかりやすい表現で説明ができるように研修を実施したり、本人が理解しているか確認できるチェック表を作成するなど、対応方法を事前に周知した。
- セミナー会場において、視覚情報に敏感な方が集中しやすいように、ホワイトボード横にある掲示物の位置を変更し、視界に入らないようにした。
罰則規定
企業が障害者差別解消法に違反した場合でも、直ちに罰則を課せられるわけではありません。しかし、障害者の権利の侵害に当たるような差別的取扱いを繰り返し行い、自主的な改善が見られない場合は、事業を所轄する大臣が該当企業に対して報告を求めることができます。
この報告の求めに対し、虚偽の報告を行った場合や報告を怠った場合には、20万円以下の過料(行政的な罰金のようなもの)が課せられる可能性があります。
障害者差別解消法への対応要領と対応指針

障害者差別解消法には「対応指針」と「対応要領」が定められています。
どちらも不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例・望ましい事例を示し、障害者差別の解消に向けた取り組みを促すためのものです。ただし、対応指針と対応要領では、対象と定める機関が異なります。
| 定める機関 | 対象 | |
| 対応指針 | 事業を所管する省庁 | 民間事業者 |
| 対応要領 | 国・都道府県・市区町村などの行政機関 | 行政機関ではたらく職員 |
ここでは、それぞれの概要と違いについて解説します。
対応指針
対応指針の対象は、企業・店舗などの民間事業者です。対応指針は、事業を所管する省庁が、障害者の意見も踏まえて策定します。事業者は、この対応指針を参考に、障害者差別の解消に向けて自主的に取り組むことが求められます。
対応要領
対応要領の対象は、国・都道府県・市区町村などの行政機関ではたらく職員です。各行政機関が自ら対応要領を定め、職員はその内容にしたがって適切に対応することが求められます。
障害者差別解消法に関するよくある質問

ここからは、障害者差別解消法に関するよくある質問について紹介します。
障害者から求められる配慮に応えることが難しい場合はどうしたらいい?
合理的配慮の提供を求められた場合でも、事業内容や体制上どうしても対応が難しいケースも存在します。
例えば、飲食店において障害者から食事介助を求める申出があった場合でも、食事介助を事業の一環として行っていないことを理由に断るケースがあります。
このケースでは合理的配慮の提供義務に反しないと考えられますが、単に申出を断るのではなく、問題点の解決に向けて建設的な対話を重ねることが重要です。建設的な対話を行い、お互いの情報や意見を伝え合うことで、対応可能な代案を見つけられる可能性があります。
「障害者雇用促進法」における合理的配慮の提供とは?
障害者の合理的配慮を求める法律は、障害者差別解消法の他に障害者雇用促進法があります。
障害者雇用促進法とは、障害者の職業の安定と雇用機会の促進を図ることを目的とした法律です。障害者差別解消法と同様に、障害者雇用促進法でも行政や事業者に対して、「不当な差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の提供」を求めています。
しかし、障害者差別解消法と障害者雇用促進法とでは対象分野や対象者、配慮の求め方などに違いがあります。主な違いは以下の通りです。
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障害者差別解消法 |
障害者雇用促進法 | |
| 対象分野 | 日常生活全般(教育、医療、福祉など) | 雇用(採用・職場環境・人事管理等) |
| 対象者 |
サービスを受ける障害者 ※障害者手帳の有無は問わない ※障害児を含む ※対象が女性の場合、性別も留意する |
障害のある従業員 ※選考中の人も含まれる。 ※障害者手帳の有無は問わない |
| 合理的配慮の提供の条件 |
本人からの申出があった場合に、過重な負担とならない範囲で対応 ※障害者の家族や介助者が本人を補佐して行う意思の表明も含む |
本人からの申出があり、業務の本質を損なわず、過重な負担とならない範囲で対応。また雇用後、本人の申出がなくても障害に気付いた場合は配慮を検討する必要がある(対応には本人の同意が必要) |
| 義務化の時期 | 2024年4月から | 2016年4月から |
障害者差別解消法では、障害者手帳の有無を問わず、サービスを受ける障害者が対象となりますが、障害者雇用促進法では、雇用される障害者(選考中の人を含む) が対象となります。
また、障害者差別解消法では、教育・医療・福祉など日常生活全般が対象分野になるのに対し、障害者雇用促進法は、採用・職場環境・人事管理など雇用分野に限定されています。
さらに、障害者差別解消法では、本人からの申出があった場合に過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供しますが、障害者雇用促進法では申出がない場合でも、障害に気付いた場合は配慮を検討する必要があります(ただし実際に配慮を行う際には、本人の同意が必要)。
障害者差別解消法と障害者雇用促進法の合理的配慮の相違点や共通点について、さらに詳しく知りたい人は、無料で視聴できる法人向けセミナー動画もご用意しておりますので、ぜひご覧下さい。
また、企業で行う合理的配慮の提供の流れやポイント、具体例については以下の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご確認下さい。
「障害者差別解消法」と「障害者基本法」・「障害者雇用促進法」は何が違う?
障害者に関する法律は複数存在しますが、それぞれ目的や性質が異なります。いずれの法律も障害者の権利を守り、社会への参加を促すという大きな枠組みは共通していますが、役割は明確に分かれています。
まず、障害者基本法は、障害者が基本的人権を享有し、社会の一員として尊厳ある生活を送れるようにするための、基本的な理念と施策の方針を定めた法律です。
教育、雇用、福祉など幅広い分野における国や地方公共団体の責務を示しており、障害者施策全体の土台となる「総合的な基本法」と位置づけられています。いわば、社会全体が向かうべき方向性を示す法律です。
一方、障害者差別解消法は、障害を理由とする差別を禁止し、行政機関や事業者に合理的配慮の提供を求める法律です。差別の排除や社会的障壁の解消に特化し、具体的な行動義務を定めている点が特徴です。
さらに、障害者雇用促進法は、障害者が職業生活において自立し、安定してはたらき続けられるようにすることを目的とした法律です。企業に対しては法定雇用率の達成を義務づける他、雇用分野における差別禁止や合理的配慮の提供を求めています。
また、企業の雇用環境整備を支える具体的な仕組みとして、下記のような制度が設けられています。
- 法定雇用率制度
- 障害者雇用納付金制度
- 職業リハビリテーション
障害者差別解消法を正しく理解し、適切に対応しよう

障害者差別解消法は、相互に人格と個性を尊重しあいながら共に暮らす「共生社会」の実現を目的とした法律です。
以前は努力義務とされていた合理的配慮の提供も2024年4月から義務化されており、企業には法に基づいた適切な対応が求められます。対応に迷わないように、不当な取扱いや合理的配慮の内容を社内で正しく共有しておくことが重要です。
なお、雇用分野では障害者雇用促進法に基づいた対応が必要となるため、併せて確認しておきましょう。

◆監修者 安原 徹
パーソルダイバース株式会社
法人マーケティンググループマネジャー
◆経歴
新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社し、営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。2021年に関西RAマネジャーに着任。2023年より中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーとして勤務。





