パーソルダイバースが実施した調査の結果、障害のある方の就労意識が「安定・定着」だけでなく、「成長・活躍」へと広がっていることが明らかになりました。また、企業側の義務である合理的配慮に対する実態や課題も浮かび上がってきました。
企業はこの変化をどう受け止めればよいのか。障害者の成長や活躍に向けて、合理的配慮や雇用施策はどうあるべきなのか。パーソルダイバースで障害者の転職・就職や企業の雇用支援を担う担当者が、支援現場での実情を踏まえて解説します。

パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション統括本部 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 ゼネラルマネジャー
田山 亜綾乃

2017年入社。企業人事として新卒・中途・障害者雇用の採用・労務・研修業務を担当。その後、障害者雇用領域のキャリアアドバイザーとして、主に中部・西日本エリアの障害者への新卒・中途採用支援に従事。現在は障害者専門の転職・就職サービス「dodaチャレンジ」の責任者として、どのような障害があったとしてもはたらく可能性を最大限に拡げる支援に奮闘中。

パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション統括本部 人材ソリューション本部 コンサルティング事業部 マネジャー 臨床心理士 公認心理師
田村 一明

臨床心理士として心療内科クリニックやNPO法人にてカウンセリングやリワーク支援に携わる。パーソルダイバース入社後は障害のある方の就労専門相談員として従事。現在はその経験を活かし、障害者雇用促進を考えている民間企業向けに、採用の為の受入準備、採用、雇用後のマネジメントまでを、現場に根差した方法論で幅広くご支援している。

目次

はじめに:調査から見えてきた障害者の就業志向と合理的配慮の現状

パーソルダイバースは2025年8月、障害者のための転職・就職支援サービス「dodaチャレンジ」登録者720人を対象に、「はたらく障害者の就業実態・意識調査2025」を実施しました。
調査結果から、障害のある方々の「はたらく志向」に大きな変化が見えてきました。また、企業の法的義務となっている「合理的配慮の提供」に対する実情や要望も上がっています。

障害者雇用の調査結果:4割近くが「成長・活躍」を志向

パーソルダイバース株式会社独自調査「はたらく障害者の就業実態・意識調査2025」、はたらく志向性の割合(円グラフ)

調査結果から、障害のある方々の「はたらく志向」に大きな変化が見えてきました。
これまで、障害者は「安定・定着志向」が中心と思われがちでしたが、実際には「成長・活躍志向」が38.1%と最も高く、安定・定着を求める37.8%を上回っています。さらに「安定の中でも工夫をしたい」という「バランス志向」も24.4%を占めており、障害者のキャリアに対する考え方が多様であることが明らかになりました。安定を求める人ばかりではなく、キャリアアップや自己成長を望む層が確実に存在していることがわかります。

合理的配慮の課題:企業の配慮と障害者本人の希望にギャップ

一方で、職場で提供されている合理的配慮については、「上司や同僚からのサポート」(34.2%)や「就業環境の整備」(30.9%)、「労働時間の配慮」(27.8%)といった受け入れ体制に関するものが中心となっていました。これに対し、「業務指示の工夫」(13.6%)や「キャリア形成への配慮」(7.5%)は少なく、具体的な業務面の支援は行われていない、配慮が実感されていないことがわかります。
今後改善してほしい合理的配慮としては業務面・受け入れ体制に関する要望が多い一方、「キャリア形成に関する配慮」を求める声も28.1%と、一定数存在します。現在提供されている合理的配慮と、今後改善してほしい合理的配慮を比較すると、「キャリア形成に関する配慮」で20.6pt、「障害特性に合わせた業務」で15.6ptもの差が生じています。

パーソルダイバース株式会社独自調査「はたらく障害者の就業実態・意識調査2025」、改善してほしい合理的配慮と現在提供されている合理的配慮(棒グラフ)

はたらく障害者と企業、双方の実態から見えてくること -障害者の転職・就職支援の現場から

では実際に、障害者の就職支援の現場ではどのような声が上がっているのでしょうか。また、こうした変化や不安の要因はどこにあるのでしょうか。
パーソルダイバースが運営する障害者専門の就職・転職サービス「dodaチャレンジ」で障害者の就職支援に携わる田山亜綾乃さんが、はたらく障害者の意識の変化や合理的配慮について解説します。

キャリアアップ志向は着実に増えている

障害があってもキャリアアップをしたい、仕事の幅を広げたいという声は、日々の支援の中でよく耳にします。今回の調査で、はたらく障害者の4割近くが仕事を通じた成長・キャリアアップに意欲的だというのは、支援現場の感覚とも一致している数字だと思います。 特に直近4~5年の間で、障害者雇用枠の中でも転職やキャリアアップを目指したいという声が増えてきました。背景にはコロナ禍を含めた社会の変化や、2018年から精神障害のある方が雇用義務の対象となったことで雇用が増えた点があげられます。3~4年前に初めて障害者雇用枠へ転職した方が、次のステップを考える時期に入り、再び転職を検討するケースが増えています。 障害種別による違いは必ずしも大きくありませんが、転職市場に関心を持って動く方は精神障害のある方に比較的多い傾向があります。“仕事の幅を広げたい”という理由で、当社に相談に来られる方も少なくありません。

「本当は辞めたくないのに・・・」合理的配慮が“足かせ”になっている人も

合理的配慮に対する要望や不安の声も少なくありません。入社当初は会社側と本人がしっかり確認したうえで合理的配慮が行われていたとしても、勤続年数が経つといつの間にか形骸化してしまうという話をよく耳にします。
 

また、転職を考える方の中には、今の会社に不満はなく本当は長くはたらき続けたいものの、今の職場ではこの先も同じ仕事しかできないことに不安を感じる方や、障害者であることで周囲から特別扱いされ続けるのが苦痛だ、という方もいます。合理的配慮に過剰な目線を持つあまり、合理的配慮が“ハンデ”となってしまい、評価や仕事の与え方、マネジメント、社員のキャリアメイクができなくなっているのではないでしょうか。
 

合理的配慮は一度整えれば終わりではなく、人や状況の変化に合わせて見直していく必要があります。変わること、変えることを前提として、企業と本人が対話を重ね続けること、得手不得手に着目し、できることにフォーカスすることが、社員の定着や持続的な成長につながる重要なポイントだと思います。

障害者雇用のリアルと企業の課題 -企業支援の立場から

はたらく障害者の就業や合理的配慮への意識に対し、雇用する企業側はどのように受け止めているのでしょうか。そして、今後の合理的配慮や人材育成はどのように行う必要があるのでしょうか。
パーソルダイバースで法人企業の障害者雇用支援を担当する田村一明さんが、企業側の実情をもとに解説します。

企業が抱える「合理的配慮」と成長支援のジレンマ

企業の担当者から寄せられる相談のひとつに「合理的配慮の匙加減が難しい」「どこまでが必要な配慮で、どこからが“わがまま”なのか迷う」といったものがあります。「どこまでやればいいのだろう」「落としどころをどう見つければいいのだろう」と悩まれているのだと思います。

また、実際に本人の意欲に応えようとマネジメントやコミュニケーションを工夫しても、評価制度の仕組み上、他の社員との相対比較になり昇進や昇給につなげにくい、といったご相談もあります。本人が頑張りたい、成果も出している。ただし会社全体の伸び率や制度上の限界があって、本人の希望するキャリアのスピードに追いつけない——そうした場面で悩まれている企業は少なくありません。
 

一方で、障害のある社員が転職を検討する段階で初めて「成長したいと思っていたのか」と企業が気づくケースもあります。特に大企業では部署ごとの管理にとどまり、社員のキャリア志向を継続的に把握できない点が課題です。こうした状況を受け、最近では成長や活躍を前提に、目標設定や評価、業務の広がりを意識した仕組みづくりに取り組む企業も増えてきました。多様な志向に対応する柔軟性がある仕組みが求められると思います。

合理的配慮は「ともに作り上げる」もの

私たちがご支援を通じて企業様にお伝えているのは、障害の有無に関わらず「成長したい」「活躍したい」という想いは誰しも持っているという前提を忘れないでほしい、ということです。そして、成長と言っても、スキルや職域を右肩上がりに伸ばしていきたいと考える人も入れば、安定の中で少しずつ積み重ねたい人もいます。多様な志向を前提に会社としてできることと本人がやりたいことを対話で擦り合わせることが重要です。合理的配慮を“法的義務だからやるもの”や“安全配慮観点”にとどまらず一人ひとりの成長のための配慮と捉え、従業員との対話を通じて探っていってほしいと思っています。
 

また、合理的配慮は「やってあげる」のではなく「ともに作り上げる」ものです。たとえばある企業では、視覚障害者向けに伝票ラベルを色分けしたことで、他の社員の作業スピードもあがり、結果的に部署全体の効率が向上しました。こうした小さな改善が、組織全体のはたらきやすさにつながることもあるのです。
 

もちろん、個別性にすべて応じるのは難しいため、部署単位で抱え込まず会社全体での指針を整えることが求められます。合理的配慮は特別扱いではなく、多様なはたらき方に共通するテーマです。私たちに寄せられる相談の数は増加していますが、今は「義務だからやる」から「共にはたらく“良いはたらき方”をつくる」へと企業の意識が変わりつつあります。こうした土壌づくりが、今後の障害者雇用の成否を分けるでしょう。