障害者雇用促進法では民間企業に対し、常時雇用している労働者の一定割合に相当する人数以上、障害者を雇用することを義務付けており、その雇用人数の算出基準となっているのが「障害者雇用率(法定雇用率)」です。2024年4月から民間企業の法定雇用率は2.5%、2026年度に2.7%へと段階的に引き上げられることになっています。この記事では、主にこれから本格的に障害者雇用に取り組む人事担当者に向けて、企業が雇用すべき人数の計算方法や、雇用率の算定対象となる障害の程度や判断基準を解説します。
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障害者雇用率制度(法定雇用率)とは
障害者雇用率制度(法定雇用率)とは、障害者雇用促進法で定められている、障害者を雇用すべき人数の割合です。
その歴史は古く、障害者雇用促進法の前身である身体障害者雇用促進法が制定された1960年に、企業や国、地方自治体における努力義務の基準として定められました。その後1976年の法改正により法的義務となり、1.5%と定められました。法定雇用率は何度か改正が行われ、段階的に引き上げられてきました。
2024年4月時点の民間企業における法定雇用率は2.5%。従業員40人以上の事業主はすべて、障害者雇用義務が発生します。
因みに、国・地方公共団体における法定雇用率は2.8%、都道府県等の教育委員会は2.7%となっています。
障害者の法定雇用率は今後も引き上げられる
厚生労働省は法定雇用率を2024年度に2.5%、2026年度に2.7%へと段階的に引き上げる方針を発表しています。引き上げによって、従業員数が37.5名以上の民間企業に障害者雇用の義務が発生することとなります。
現行 | 2024年4月~ | 2026年7月~ | |
法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
障害者雇用の対象となる 事業主の範囲 |
従業員43.5人以上 | 従業員40人以上 | 従業員37.5人以上 |
障害者雇用率(法定雇用率)の計算式
障害者雇用率は、次の計算式によって算出されます。
雇用対象となる障害者
障害者雇用率制度の対象となる障害者は身体障害者、知的障害者、精神障害者です。以前は身体障害者と知的障害者だけでしたが、2018年4月の改正により精神障害者も雇用率算定の対象に加わりました。
これらの障害のある方1人を雇ったときに何人分としてカウントするかは、障害のある方の障害の程度と、1週間に何時間はたらくかによって決まってきます。カウント方法は次のとおりです。
障害者雇用率の算出ルール
- 原則として、常時雇用労働者は1人分、短時間労働者は0.5人分としてカウントする。
- 重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人分としてカウントする。なお、重度身体障害者・重度知的障害者の短時間労働者は、1人分としてカウントする。
- 短時間労働の精神障害者に関しては、2018年4月から設けられた特別措置により、下記の要件をどちらも満たす場合は1人分、満たさない場合は0.5人分とカウントする。
<要件>
- 新規雇い入れから3年以内、または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の場合
- 令和5年(2023年)3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保険福祉手帳を取得した場合
なお、短時間労働者とみなされる労働時間要件は、従来週20-30時間とされていました。これに令和6年(2024年)度からは、週20時間までの要件も加わることとなります。
もしも、雇用すべき障害のある方の人数が2人なら、「常時雇用労働者2人」「短時間労働者2人と常時雇用労働者1人」「常時雇用の重度身体障害者1人」といった雇い方が考えられます。
ちなみに、欠勤や遅刻等で実労働時間が所定労働時間を下回る月が年間の半分以上(7カ月以上)ある場合、実労働時間が参考となります。例えば、週所定労働時間が30時間以上の常用労働者の場合、月120時間に満たない月が年間の半分以上あると、「常用労働者数」も「雇用障害者数」も0.5カウントとなります。週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者の場合では、「常用労働者数」にも「雇用障害者数」にもカウントされなくなります。
また、月によって出勤日数が異なり、所定労働時間に満たない場合があります。例えば営業日数が少ない2月のように、労働時間が120時間(80時間)を下回る場合は、「2月の労働日数×6時間(短時間労働者の場合は4時間)=所定労働時間」となります。
企業が必要な障害者雇用数の計算方法
それでは、障害者雇用率を使って、実際に自社で雇用すべき障害のある方の人数を計算してみましょう。
自社で雇用すべき障害のある方の人数は、次の計算式で求められます。
自社の法定雇用障害者数(障害者の雇用義務数)=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×障害者雇用率(2.5%)
式中の「常用労働者」とは、1週間の労働時間が30時間以上の方、「短時間労働者」とは、1週間の労働時間が20時間以上30時間未満の方を指します。なお、それより1週間の労働時間が短いアルバイトやパートの方などはカウントしません。
例えば、8時間勤務の正社員が100人で、週20~30時間勤務のパート従業員が20人いる場合、自社で雇うべき障害のある方の数は(100+20×0.5)×2.5%=2.75。小数点以下の端数は切り捨てとなるので、この場合は2人となります。
雇用対象となる障害の種類や程度の判断基準
- 身体障害者
身体障害者福祉法による「身体障害者手帳」を所持している方。障害の程度によって等級が1~7級でしるされている。 - 知的障害者
都道府県知事が発行する「療育手帳」を所持している方。障害の程度によってA「最重度」「重度」B「中度」、C「軽度」に区分されている。 - 精神障害者
精神保健福祉法による「精神障害者保険福祉手帳」を所持している方。障害の程度によって等級が1~3級でしるされている。
このうち、身体障害者手帳の等級が1級・2級の人は重度身体障害者に、療育手帳の区分がAの人が重度知的障害者に該当します。なお、精神障害者には、雇用上人数のカウント方法が変わる区分はありません。
障害の把握・確認の際の注意点
障害者採用では、障害者手帳に基づき、障害の有無や程度、どのような障害特性があるのかを確認することは欠かせません。しかし、障害を確認する際には、相手のプライバシーに十分配慮することが重要です。
この点については、厚生労働省から「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が出されています。
ガイドラインで明記されているポイントをご紹介します。
<プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインのポイント>
- 採用段階で障害のある方の把握・確認を行うには、利用目的等の事項を明示した上で、本人の同意を得て、目的のために必要な情報を取得すること
- 採用後に把握・確認を行うには、雇用する労働者全員に対して、メール送信や書類の配布といった画一的な手段で申告を呼びかけることを原則とする
雇用数が法定雇用障害者数を下回るとどうなる?
企業が雇用している障害のある方の数が、本来雇うべき法定雇用障害者数に届いていない場合、事業主は障害者雇用納付金として不足1人につき月額50,000円を納める必要があります(※1)。ただし、この納付金は企業間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るために納めるもので、罰金ではありません。納付金を払っても障害のある方を雇用する義務がなくなるわけではないので、その点は注意してください。
なお、逆に法定雇用障害者数を超えて雇用している場合は、超過1人につき月額29,000円が支給されます(※2)。
※1 適用対象は常用労働者100人超の事業主。ただし、常用労働者が100人超200人以下の場合は月額40,000円になります。
※2 適用対象は常用労働者100人超の事業主。常用労働者が100人以下の事業主は別途報奨金制度があります。
必要な法定雇用障害者数に満たない状態が続くと、ハローワークより雇用達成のための指導が入ることがあります。それでも達成できない場合が続いた場合、企業名が公表されることがあります。
企業の障害者雇用状況と今後の課題
法定雇用率は2026年には2.7%まで引き上げられるため、企業は継続して障害者雇用の推進に取り組んでいく必要がありますが、企業の雇用状況はどのようになっているのでしょうか。
厚生労働省が2023年12月に発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の障害者雇用数と実雇用率は過去最高を更新する結果となりました。実雇用率が法定雇用率(集計当時の法定雇用率は2.3%)を超え、今後の段階的な法定雇用率の引き上げに向けて、積極的に雇用を推進している様子が表れています。ただし、法定雇用率を達成している多くは大手企業であり、従業員500人未満の中小企業の半数以上は法定雇用率に達していない状況です。
企業規模による雇用格差の是正や、採用対象層の拡大、多様な特性や能力を持つ障害者が定着・活躍できる業務創出やマネジメントなどが求められています。
国は障害者の雇用量から達成企業の割合を重視
内閣府が発表した「第5次障害者計画」によると、数値目標に「雇用量」を置くことをやめ、「達成企業の割合」への置き直しが図られています。
この改訂の意図は、法定雇用率を達成している企業の内訳にあると考えられます。現状では大企業の達成率が高くなる一方、中小企業における達成率は比較として低くなる傾向にあります。これからは中小企業の法定雇用率達成を増やすことを見据え、本格的なテコ入れが図られていきそうです。
まとめ:必要な雇用人数を把握し、自社の状況を分析しましょう
一定数以上の従業員を雇用する事業主は、法定雇用率以上、障害者を雇用をしなければならない義務があります。 この記事を参照に、まずは自社で障害のある方を何人雇用する義務があるのか、法定雇用障害者数を計算することから始めてみてはいかがでしょうか。