法定雇用率の上昇によって採用拡大に課題を抱える企業が増えています。特に、東京や大阪などの大都市圏に本社を持つ企業にとっては、首都圏での採用競争激化によって、求める人材の採用が年々難しくなっています。
このような中、採用対象地域を大都市圏だけではなく、地方都市に広げる企業も増えています。そこで今回は、大都市圏と地方都市での採用市場の違いや、地方都市での採用活動を成功させるポイントを紹介します。
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地方都市の障害者採用市場傾向(大都市圏との比較から)
なぜ今、地方都市に目を向ける企業が増えているのか、地方都市の障害者採用市場の傾向から、その理由を解説します。
大都市圏の障害者採用難易度の差
出典:厚生労働省 「平成28年度 障害者新規求人数に占める障害者就職数の割合」(グラフは当社にて作成)
上の図は厚生労働省が発表している、都道府県別の障害者求人の充足率を表したものです。
最も充足率が低いのは東京となっており、愛知や大阪、福岡などの充足率も40%を下回っています。一方、地方都市の充足率は高い傾向が表れています。
採用における充足率とは、10件の求人を出した際にすべての求人で採用ができれば充足率100%、5件で採用ができれば50%、という意味になります。つまり、東京では求人を出しても3割弱しか採用できていないということになります。このように、大都市圏と地方都市では採用難易度に差があることが分かります。
また、下の表は、厚生労働省の発表資料をもとに、当社で三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県)とその他34道県での障害者労働市場の違いを推計したものです。
区分 | 三大 都市圏※1 |
その他 34道県 |
合計 (平均) |
---|---|---|---|
ハローワーク 有効求職者数※2 |
129,992 | 110,752 | 240,744 |
母集団化可能数※3 | 66,955 | 57,045 | 124,000 |
対象企業数 | 50,970 | 40,054 | 91,024 |
500人超の企業数 | 5,615 | 2,058 | 7,673 |
求職倍率(求職者) | 2.6 | 2.8 | 2.6 |
求職倍率(母集団) | 1.3 | 1.4 | 1.4 |
大手一社あたりの 求職倍率※4(求職者) |
23.2 | 53.8 | 31.4 |
大手一社あたりの 求職倍率※4(母集団) |
11.9 | 27.7 | 16.2 |
平成28年度 障害者の職業紹介状況(各都道府県)、平成29年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)を基に当社が推計
- ※1 三大都市圏は、①首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)、②中京圏(愛知県・岐阜県・三重県)、③近畿圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)を指す)。
- ※2 ハローワーク有効求職者数は、18歳未満・65以上の障害者、就労中や、何らかの理由で就労ができない・職業訓練中を除く障害者数の推定値。
- ※3 母集団可能化数は、ハローワークの有効求職者数のうち各社の採用活動の対象者数の推定値。
- ※ハローワーク有効求職者数と母集団化可能数は都道府県の人口比で按分。
- ※4 求職倍率は、求人している企業に対する有効求職者の割合を推定した、当社独自の指標。
各地域で障害者雇用を担う対象企業数をみると、三大都市圏では50,970社であるのに対し、その他34道県では40,054社で、約10,000社少ないことがわかります。対象企業のうち、障害者雇用の大半を担っている従業員数500人超の企業数では、三大都市圏の5,615社に対し、その他34道県は2,058社となっています。これらの数値を基に、三大都市圏とその他34道県の「大手一社あたりの求職倍率(求人企業に対する有効求職者の割合)」を比較すると、その他34道県は三大都市圏より2.3倍高いという結果になります。
つまり、500名以上の企業にとって、その他の34道県での障害者採用は三大都市圏の2.3倍、求職者を集めやすい・・・言い換えると、障害者採用に取り組む大企業数が多い三大都市圏での採用は、その他34道県より2.3倍、難易度が高い、ということになります。
求める人材に出会え、採用ミスマッチを防ぐ
上述の通り、三大都市圏では採用の競争度が高く(売り手市場傾向)、反対にその他の34道県は企業の選択権が大きい(買い手市場傾向)傾向があります。地方都市は大都市圏と比べて法定雇用率対象企業の絶対数が少なく、就職機会や、職種・企業の選択の幅が限られるため、希望する企業や業種を選べない障害者や、高い職務能力を活かしてはたらきたい障害者と出会える可能性が高いといえるでしょう。
また、地方都市では大都市圏ほどライバル企業が多くないため、採用活動のステップをじっくり進められるのもメリットです。企業と障害者双方が時間をかけて向き合うことで、採用後のミスマッチを防ぐことにも繋がるでしょう。
地方拠点での採用にシフトする大手企業が増加
障害者雇用に取り組む企業の多くは、人事・総務・経理といった管理部門がある本社での雇用から進めています。管理部門は内勤業務が比較的多く、障害のある社員のフォローがしやすいためです。しかし、長年にわたって障害者雇用に取り組んできた大手企業では、従来の部署でこれ以上の雇用受け入れが難しくなったことで、本社以外の地方拠点に雇用をシフトする動きが見られます。こうした傾向から、地方都市の拠点で採用に取り組む大手企業が増加しています。
地方で本社を構えている地元企業の採用アドバンテージ
地方で本社を構えている地元企業は、人事・総務・経理だけでなく、製造や営業、物流など部署・業務のバリエーションが豊富なため、首都圏に本社を構える企業が単一の営業拠点で採用する場合と比較すると採用のチャンスが高いといえるでしょう。
1つの就職先でさまざまな職種を選択できるのは、求職者にとって魅力となります。また、本社が地方にあるからこそ、処遇を高く設定できるなどのアドバンテージもあり、スキルのある障害者を雇用するチャンスが高いと考えられるでしょう。実際に当社がご支援した地方都市在住の障害者の中でも、地元企業からのオファーの方が高かったという方も少なくありません。
地方都市での障害者採用を成功させるポイント
それでは、実際に地方都市での障害者採用を進める上でのポイントを3点、紹介します。
- 現場が求める人材や、評価される人材の要件を明らかにする
- 地方拠点の障害者雇用に関する意識や理解を高める
- 地域で採用支援する人材紹介業者や支援業者を活用する
(1)現場が求める人材や、評価される人材の要件を明らかにする
地方都市での障害者採用を成功させている企業では、本社と地方拠点では仕事内容や規模感も違うと捉え、拠点によって採用要件や人材要件を変える傾向にあります。地方拠点では制約も多く、その中でどのような配慮を提供できるのかも踏まえて、それらの要件をすり合わせ、明確化することが重要です。拠点のキーマンとなる現場責任者に「この拠点ではどのような人材が必要か?」「この営業所では、どのようなスキルを求めているのか?」と確認し、人材要件の合意形成を図ることが大切です。
(2)地方拠点の障害者雇用に対する意識や理解を深める
地方拠点で、障害に対する基本的な知識や、障害者と共にはたらくことに対する理解を深める取り組みも必要です。研修や説明会を通じて「障害は個人差があり特性が違う」こと、「障害名ではなくその人自身と向き合って、強みや配慮を理解する」ことなどを説明し、障害に対する偏見や障害者とはたらくことへの固定観念を取り除くことが大切です。同時に、実際の現場で同僚になる人たちと一緒に設備面を確認するなど、対面でのコミュニケーションを図ることで、受け入れる現場の意識や納得感を醸成できます。
採用前後で本社の人事が候補者に何度も直接会う必要はありませんが、現場でのフォロー体制について直接確認するなどのアプローチが大切です。
(3)地域で採用支援する人材紹介業者や支援業者を活用する
地方都市採用では人材紹介業者に相談することでさまざまなメリットがあります。ハローワークを通じた採用の場合、求職者の自己申告を基にした情報しか得られず、ミスマッチや、採用可否の判断が難しいことがあります。当社パーソルダイバースでも、ご支援の際は必ず求職者本人と面談の上、配慮事項を確認し、文書で企業に提供しています。そのため、採用企業にとっては採用を判断するための客観的な情報をより多く集められ、情報の精度も高まるため、採用のミスマッチを軽減することができるでしょう。特に職務能力の高い人材や専門性の高い人材はハローワークではなく職業紹介サービスに登録する人が多いため、サービスを運営する業者を活用すると良いでしょう。また、地方で本社を構える地元企業にとっては、こうした業者を活用することで、ライバルとなりうる大都市圏の大手企業の採用動向情報を得られるメリットもあるかもしれません。
まとめ
法定雇用率の引き上げや、首都圏での採用競争の激化により、地方都市での障害者雇用を検討する企業が増えています。地方で採用活動を行うメリットには、ライバル企業が少ないことやスキルの高い人材と出会えるチャンスなどがありますが、採用に至るまでには、地方拠点との人材要件のすり合わせやフォロー体制の構築が欠かせません。また、地方都市での採用を成功させるために、人材紹介業者や支援業者の活用を検討してみても良いでしょう。