法定雇用率の上昇や採用競争の高まりなどにより、障害者雇用においても新卒採用に取り組む企業が増えています。そこで、新卒の障害者を採用するメリットや、一般採用や中途採用との違い、母集団形成や面接、採用後の定着において押さえておきたいポイントをまとめました。
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障害者の新卒採用基礎知識
障害者の新卒採用へのニーズや労働者市場の傾向、新卒採用に取り組むメリットや、取り組みやすい企業を紹介します。
障害者の新卒採用へのニーズ
障害者の新卒採用に取り組む企業は以前からありましたが、これまで中途採用で培ってきた障害者採用や就労定着の経験を活かし、新卒の採用にも着手する企業が増えています。また、障害者・健常者を問わず、企業として若い人材を採用し、時間をかけて、企業文化や求めるコンピテンシーを有する人材に育成するという採用方針を持っている企業は、障害者雇用においても同じ考えのもと、新卒採用に着手しています。
加えて、近い将来、これまで社内の中枢で活躍してきた多くの中高年層の退職を見据え、若年層の障害者採用・育成に着手し、長期定着を図りたいと考える企業も見られます。
新卒障害者採用市場の傾向
主な傾向として、発達障害者が増えている点が挙げられます。日本学生支援機構の調査によると、発達障害のある学生数は、ここ10年で7倍に増えていると言われています。発達障害に対する社会的認知の高まり、それによる家族や周囲の人の理解の広がりにあわせ、障害者雇用枠で就職する新卒の発達障害者の割合が、今後も増えていくと予想されます。一方、企業側としては身体障害者の採用ニーズが多く、発達障害者が多い市場傾向とのミスマッチが課題と言えるかもしれません。
出典:独立行政法人 日本学生支援機構 「平成30年度(2018年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査」
新卒採用に取り組みやすい企業は
「人材は育てていくものである」という意思や価値観を持って就労定着や活躍を見据えた人材育成に注力している企業は新卒採用に取り組みやすいでしょう。また、障害者の個別性を重視し、一人ひとりの適性や配慮に目を向け、その人に合わせたはたらき方や仕事を工夫できる企業は、企業規模に関係なく、求める新卒人材を獲得できるでしょう。個別性を重視する職種や業務内容の選択肢が複数ある企業ほど、障害者雇用の新卒採用にマッチしやすいと考えられます。
加えて、中途採用や就労定着への取り組み経験を培ってきた企業は、これまでの実績や経験を、障害者の新卒採用にも活かすことができるでしょう。
新卒障害者採用で押さえるべきポイント
ここからは、一般採用や中途採用との違い、母集団形成や面接において押さえるべきポイントを紹介します。
中途採用や一般採用(健常者採用)との違いは?
求職者の母集団は、新卒障害者より中途採用の方が大きくなります。
雇用形態については、中途採用は個別の配慮を重視するために有期雇用契約を結ぶことが多い一方、新卒採用の場合は一般採用(健常者)と同じく「正社員のみ、無期雇用契約」を前提としている企業が一般的で、中には総合職のみを募集する企業もあります。そのため、要求する人材の水準も高くなります。ただし合理的配慮の観点から、人材要件に違いを設ける企業もあります。例として、一般採用では「転勤をともなう総合職」、障害者の新卒採用では「転勤がない地域社員」という職制の違いを設けて配慮するケースが挙げられます。
採用活動においては、新卒人材の場合、在職歴がないことで、就業中に障害特性や症状がいつ、どのような時に、どのような形で表れるか、どのような難しさに直面するかがわかりにくいという点があります。そのため、就業面でどのような配慮が必要かがわからない人や、採用面接等で自分の言葉で伝えることが難しい方も少なくありません。
入社後の研修では、障害者採用と一般採用とでは研修内容に違いが生じるケースがあります。例えば宿泊を伴う研修の場合、障害特性によっては環境の変化への対応が難しく、参加が困難な人もいるでしょう。事前に本人と相談の上、必要に応じて個別対応を検討します。ただし、自分だけ個別の対応が多いことで疎外感を感じ、モチベーションが下がってしまわないよう注意します。
学生が企業選びで重視するポイントは
企業選びの際に「新卒で入社した障害のある先輩社員がいるか」を重視する学生は少なくありません。障害者の新卒採用の実績がある企業であれば、新卒入社の先輩がいることをアピールすると良いでしょう。
障害者の新卒採用の実績がない企業でも、入社後の教育・育成体制と、一人ひとりの障害や配慮の違いを考慮することをアピールすると良いでしょう。
また、障害のある学生の中には通院や治療の都合上、転勤や転居の有無も重視する人もいます。転勤や転居のない職種があることや、通院や治療のために勤務日時に配慮することなども伝えましょう。
母集団形成方法と採用手法のポイント
就活フェアや就活イベント、就職サイトや人材紹介業者からの紹介や教育機関からの紹介など、障害種や採用職種、仕事内容によって異なります。
オフィスで勤務する事務系の一般職種への就職を希望している障害者は、障害者雇用専門の就活フェアや就活イベント、障害者向けの就職サイトを活用して就職活動を行います。例えば当社が運営する障害者のための転職・就職支援サービス「dodaチャレンジ」は、四年制大学や短期大学に在籍し、オフィスワークへの就職を目指す人が多く登録しています。
障害者の就活フェアや就活イベントは一定数の母集団を形成しやすいメリットがあります。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となるイベントも多いため、障害者専門の人材紹介業者を活用するなど、代替手段を検討すると良いでしょう。
工場や店舗のバックヤード系業務や、清掃作業等の業務に従事する知的障害者を採用したい企業は、特別支援学校などの教育機関から紹介を受け、定期的に採用するケースが多く見られます。特別支援学校から紹介の場合、採用後、学生の障害特性を理解している先生に相談し、支援に協力してもらえるメリットがあります。
学生は就業経験がないため、就業面における症状の発生有無や、必要な配慮を明確に理解することは容易ではありません。そのため、特別支援学校や福祉機関、障害者採用支援を行っている人材紹介事業者を「企業と学生との橋渡し役」として、障害特性の理解や求める人材とのマッチングのために活用すると良いでしょう。
面接のポイント
面接で大切なのは、個々の障害特性を把握し、必要な配慮事項を具体的に確認することです。しかし、アルバイトを含めた就業経験がないことから「はたらくイメージを持てない」「はたらいた経験がないので、職場でどのような配慮が必要になるのかがわからない」「必要な配慮をうまく言葉にして説明できない」という学生もいます。
そのため、面接では企業側の経験や知識も求められます。面接官は、自社ではどのような対応ができるか想定した上で、面接に臨む必要があります。障害者の中途採用に取り組んでいる企業であれば、学生から引き出した情報を自社の障害者雇用の実績にあてはめて、提供できる配慮を検討することもできるでしょう。
また、支援機関や障害者専門の人材紹介事業者では、採用後のミスマッチを防ぐために、求職者の学生が自分自身の障害理解や、自分の障害を自分の言葉で伝えるよう支援しています。障害者雇用の経験が十分にない企業は、こうした支援業者を活用すると良いでしょう。
採用後の就労定着のためのポイント
入社直後は「定期的に話を聞く場面を持つこと」が何よりも重要です。面談や声掛けなどを通じて「何か困ったことはないか」「疎外感をおぼえていないか」など、無理のない範囲で確認しましょう。新卒入社の場合、同期社員と比べられる機会が多いため、「自分だけが障害者である」というコンプレックスを感じる障害者も少なからずいます。周囲の人はよかれと思って配慮していることも、本人は疎外感をおぼえるケースもあり、それによりすれ違いが生じてしまうようです。そのため、あらぬ誤解やネガティブな取り違いが起きていないかを、定期的に話す機会を設けて確認することが重要です。
また、同期同士のつながりも、就労定着を図る上では欠かせません。できる限り同じプログラムを実施しつつ、どうしても難しいところは個別で配慮するというように、バランスよく個別性を実現できるとよいでしょう。
まとめ
障害者の新卒採用には、「帰属意識の高い人材が育つ」「長期定着が見込める」などのメリットがあります。障害のある学生を採用するためには、就労定着や活躍を見据えて育成に力を入れるだけではなく、「育成と個別性を両立させていく」という意識を持つことも重要です。採用後も、疎外感を持つことがないように、定期的に話す機会を設けるなど、フォロー体制の充実も図りましょう。