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厚生労働省は2023年12月、民間企業や公的機関における「令和5年(2023年)の障害者雇用状況の集計結果」を公表しました。
障害者雇用義務のある事業主は、身体、知的、精神障害者の雇用状況について、毎年6月1日時点で報告することが義務付けられており、これらをまとめた集計結果です。
集計結果のポイントをもとに、現状の障害者雇用が抱える課題と今後について考察します。
雇用数、実雇用率ともに過去最高を更新
集計結果によると、民間企業の障害者雇用数は642,17 8.0人(対前年比+4.6%)、実雇用率は2.33%(同比+0.08ポイント)となりました。障害者雇用数は20年連続、実雇用率も12年連続で過去最高を更新しています。法定雇用率達成企業の割合は50.1%、対前年比1.8ポイント上昇となりました。またはじめて実雇用率が法定雇用率(2.3%)を超え2.33%となり、目前に迫った段階的な法定雇用率の引き上げ(2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%)に向けて、企業の積極的な障害者雇用の推進が見受けられます。
全ての障害種別で雇用数は増加。精神障害者の伸長率も回復
障害種別ごとの雇用数の推移を見ると、全ての障害種別で雇用数は増加。その中でも精神障害者については対前年比の伸び率も回復し、昨年まで微減傾向が続いていたところから伸長しています。
出典:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」をもとに、当社にて再集計)
産業別の雇用状況:多くの業界で雇用は維持 雇用数が減少した産業も
産業別の雇用状況では、「農、林、漁業」「鉱業、採石業、砂利採取業」「金融業、保険業」以外の全ての業種で、前年よりも雇用者数が増加しています。
産業別に実雇用率を見ると、「医療,福祉(3.09%)」「生活関連サービス業,娯楽業(2.46%)」「電気・ガス・熱供給・水道業(2.41%)」「運輸業,郵便業(2.39%)」「農、林、漁業(2.38%)」「製造業(2.32%)」が法定雇用率を上回る結果となりました。
障害者雇用市場のポイントと今後の課題
集計結果をもとに、現在の障害者雇用市場の主なポイントと今後の課題について考察します。
障害者雇用の目標値「法定雇用率達成企業の割合」から考える
令和5年度(2023年度)の法定雇用率達成企業の割合50.1%は、直近25年の中でも最高値となり、民間企業における障害者雇用の推進状況は一見順調なように見えます。
しかしながら2023年度から始動した「第5次障害者計画」においては、民間企業における障害者雇用状況の目標が、従来の「雇用数」ではなく「法定雇用率達成企業の割合」に変わり、2027年度の目標値として「56%」が掲げられています。
法定雇用率達成企業の割合は、法定雇用率の引き上げ直後に下がる傾向にあり、2027年度目標「56%」を達成する場合、以下のグラフのような推移を描く必要があります。2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%まで段階的に引き上がることを考慮すると、2026年度時点において目標値を上回る水準(58~60%)が求められます。直近50年を遡ってみても過去最高値は1986年度の「53.8%」であるため非常に高い目標であることが分かります。その高い目標設定から、社会全体でスピード感をもった障害者雇用の推進が求められているとも言えます。
※2026年の「障害者雇用状況の集計結果」は、2026年6月時点であり、法定雇用率は2.5%が適応される。
※2023年度までの「障害者雇用状況の集計結果」をもとに、当社にて推計
求められているのは中小企業における障害者雇用推進
これまで障害者雇用は従業員規模の多い大手企業によって牽引されてきました。「企業規模別の雇用状況」を見ても、従業員規模別の実雇用率で現状の法定雇用率2.3%を達成できていないのは、「500人未満」の企業群です。
【企業規模別の雇用状況】
企業規模 | 障害者の数 (前年値) |
実雇用率 (前年値) |
法定雇用率 達成企業の割合 (前年値) |
43.5~100人未満 | 70,302.5人 (66,001.0人) |
1.95% (1.84%) |
47.2% (45.8%) |
100~300人未満 | 122,195.0人 (117,790.0人) |
2.15% (2.08%) |
53.3% (51.7%) |
300~500人未満 | 54,084.5人 (52,239.5人) |
2.18% (2.11%) |
46.9% (43.9%) |
500~1,000人未満 | 73,435.5人 (69,375.5人) |
2.36% (2.26%) |
52.4% (47.2%) |
1,000人以上 | 322,160.5人 (308,552.0人) |
2.55% (2.48%) |
67.5% (62.1%) |
障害者の雇用状況の目標値を「法定雇用率達成企業の割合」へと変更した背景には、大手企業と中小企業群の「障害者雇用推進状況の格差」を是正していきたいという国の意図が感じられます。
今後「法定雇用率の未達成企業」に対しては、従来とは異なるスピード感をもった障害者雇用推進が求められます。2023 年度目標に対する中間評価でも、「未達成である企業」「障害者の雇用をまだ行ったことがない企業」に対し、必ず接触を図り可能な限り事業所訪問を行い、障害者雇用に対する理解を促すとともに、各企業における障害者雇用の取組における課題を明らかにして、的確な指導等を行うという明言もあります。
すでに法定雇用率を達成している企業においても、2024年4月2.5%、2026年7月2.7%に向けた雇用推進が引き続き必要になり、まだ法定雇用率が達成できていない・障害者雇用の推進の手がかりがつかめていない企業においては、自社の状況把握・課題の洗い出しからはじめても良いかもしれません。
また、国としても雇用率引き上げを後押しできるよう、雇入れや雇用管理に関する相談時に活用できる「障害者雇用相談援助助成金」を用意しています。各種支援・助成金を積極的に活用することで雇用推進を進められてはいかがでしょうか。