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厚生労働省は6月25日に「令和6年度 障害者の職業紹介状況等」にて、2024年度のハローワークを通じた障害者の職業紹介状況を発表しました。新規求職申込件数は268,107件(対前年度比7.5%増)、そして就職件数は115,609件(対前年度比4.4%増)で、ともに過去最高だった前年度の実績を上回りました。一方で就職率は43.1%で対前年比1.3ポイント減という結果でした。

障害別の就職状況 障害者雇用全体を牽引する精神障害者
障害別の新規求職申込件数を見ると、精神障害者は対前年度比11.1%増となる153,223件、知的障害者は対前年度比7.7%増の40,385件と2021年以降増加しています。
一方で、身体障害者は対前年度比1.8%増の60,252件となり、前年度比で増加はしているものの、2019年以前の水準までには回復をしていない状況です。

就職件数は2年連続で過去最高を更新しており、障害別に見ると対前年度比で8.1%増の65,418件となった精神障害者の就職が全体を牽引しています。新規求職申込件数の傾向とあわせて見ても、引き続き精神障害者が今後の障害者雇用市場において主力の採用対象となっていきそうです。

大多数の産業にて就職件数増加
産業別の就職件数を見ると、大多数の産業にて前年度よりも増加しています。
一方で障害者の就職先として例年比較的高い割合を占める「医療、福祉」の就職件数は増加しているものの、2021・2022年度と比較すると前年対比での増加率は下がっています。
また同じく就職件数の多い「卸売業、小売業」では、これまでの増加傾向から微減・横ばいの状況となりました。

障害者の解雇者数が過去最高を上回る
障害者の解雇者数は9,312人(前年度2,407人)となり、解雇者数が過去最高だった2001年度実績(4,017人)を大きく上回りました。障害別でみると精神障害者の解雇者数が4,244人と全体の45.5%を占めています。
2024年度の解雇者数9,312人のうち、78%の7,292人が就労継続支援A型事業所(※1)の利用者でした。
就労継続支援A型事業所の利用者で再就職(※2)が決まった方は2,171人、再就職を予定している方も含めて就労継続支援B型事業所に移行する方が3,834人、全体の約8割が再就職または就労継続支援B型事業所への移行となっています。
※1:就労継続支援A型事業所は各月内に10人以上の解雇が発生した事業所に限る。約9割は生産活動収支が赤字の事業所。
※2:2024年4月末時点での把握状況

厚生労働省は今回の就職件数の増加要因として、前年度に引き続き精神障害者を中心とした新規求職申込件数が増加するとともに、法定雇用率の引き上げなどの影響で障害者雇用に取り組む企業が増え、求人数が増加したことが影響しているであろうと発表しています。
考察:障害者雇用市場の傾向を踏まえた、今後のポイントと課題
障害者の就職件数は、2年連続で過去最高を更新しました。さらに、今後も法定雇用率引き上げが決定しており、企業には引き続き雇用の拡大が求められます。こうした状況をふまえ、これからの障害者雇用拡大において押さえておきたいポイントについて考察します。
法定雇用率の上昇に備え、重要となる精神・発達障害者の雇用拡大
2024年4月の法定雇用率の引き上げに続き、2026年7月には2.7%に引きあがることが決定しております。
現在の障害者雇用の市場感を障害別に見ると、身体障害者の多くは加齢に伴う病気や事故などによる後天的に障害者手帳を取得された方が中心となっており、新たな求職者の増加は限定的と考えらえます。また、すでに雇用されている身体障害者の高齢化も進んでいきます。
一方、精神障害者や発達障害者は若年層を中心に増加傾向にあり、今後も求職者数の伸びが見込まれます。法定雇用率達成に向けた採用拡大、長期的な就労が可能な人材の確保を目指す上でも、労働市場の中心となる精神・発達障害者の採用が重要になってくるでしょう。
受け入れ態勢の構築 定着・活躍に向けた取り組み
障害者雇用を推進し、継続的に法定雇用率を達成していくためには、採用の拡大だけではなく、すでに雇用している人材を含めた安定就労・定着の実現が重要なポイントです。
しかし、雇用を進める中で特に精神障害者の雇用にあたって、「なかなか定着しない」といった課題を抱える企業が多いことも事実です。
雇用定着のための重要な観点としては以下があげられます。
・それぞれの障害特性への理解を深めること
・管理者・人事だけではなく、共に働く同僚・組織全体で取り組むこと
・必要な合理的配慮を行い、安定してはたらける環境を整えること
いくら採用を積極的に進めても、定着が難しく離職を繰り返してしまうような環境では、障害者雇用の推進は持続できません。
中長期的な定着・活躍を見据えた戦略的な取り組みによって、企業内に経験とノウハウが蓄積され、それが結果として採用競争力の強化にもつながります。
職務能力や必要な配慮の異なる障害者が、長く定着できるための枠組みを作ることが、障害者雇用における重要な視点となるでしょう。