厚生労働省の研究会である「労働政策審議会 障害者雇用分科会」では現在、自社での雇用拡大に課題を抱える企業の間で利用が広がっている「障害者雇用ビジネス」(雇用代行サービス)への議論が続いています。
サービスを利用する企業への実態把握や、障害者雇用の理念と照らした妥当性について議論が進められており、現在は具体的な対策の検討が最終局面を迎えています。
本記事では、障害者雇用ビジネスを巡る最新の行政動向と、企業への影響について解説します。

パーソルダイバース株式会社
事業戦略部 法人マーケティンググループ マネジャー
安原 徹

新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社。営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。関西RAマネジャー、中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーを担当。

目次

障害者雇用ビジネス(雇用代行サービス)とは何か?

「障害者雇用ビジネス」(雇用代行サービス)とは、自社で障害者雇用を進めることが難しい企業に対し、外部事業者が、就業環境や業務、雇用管理を提供し、実質的に雇用を「代行」するサービスを指します。企業は外部事業者に対して雇用にかかる費用を支払い、はたらく障害者に給与が支払われます。

主な特徴は以下の通りです。

•就業場所の提供: 
自社オフィスではなく、運営会社が用意した農園やサテライトオフィスで就労する。

•業務の切り出し: 
本業との関連の薄い軽作業や農作業を、パッケージ化された業務として受託する。

•雇用管理の外部委託: 
採用から日々のサポート、定着支援までを代行業者が主導する。

近年、こうしたサービスは「任せられる仕事がない」「採用ノウハウがない」という企業にとって即効性のある解決策として利用が増えている一方、障害者団体や行政からは「法定雇用率を満たすためだけの仕組みで、雇用や労働とは言えないのではないか」などの厳しい指摘が寄せられています。

厚生労働省での議論…なぜ障害者雇用ビジネスが問題視されているのか

厚生労働省が障害者団体や支援側、企業側の代表や専門家などを集めて定期的に開催している「労働政策審議会 障害者雇用分科会」では、企業によるサービス利用の広がりや、雇用主としての責任が形骸化している現状が指摘されています。2026年4月に行われた第137回労働政策審議会では、その論点を以下のように整理しています。

論点1. インクルージョンの欠如(隔離雇用の懸念)
障害のある社員を一般社員から物理的に切り離し、専用施設のみで雇用する形態は、障害者雇用促進法の理念である「共に働く(共生社会)」の姿から乖離しているのではないか、という意見が強まっています。

論点2. 雇用管理の空洞化
業務指示や体調管理を代行業者に依存しすぎることで、雇用主側にノウハウが蓄積されず、障害者の適切な能力開発やキャリア形成が阻害されている実態が懸念されています。

論点3. 労働の「有為性(意味のある仕事)」の疑義
成果物が事業に貢献せず、単に「雇用率達成」のみを目的とした作業は、はたらく側の意欲を減退させ、真の職業的自立につながらないのではなか、という指摘があがっています。

翌5月に行われた第138回労働政策審議会では、農園型やサテライトオフィス型などによる障害者雇用支援事業者らによって設立された一般社団法人日本障害者雇用促進事業者協会に対するヒアリングも行われています。

今後の方向性 「報告義務化」と「適正化指針」に向けて議論が進む

労働政策審議会では今後、雇用代行ビジネス自体を直ちに禁止するのではなく、「透明化」と「適正化」を求めることを目指し、議論を進めていく方針です。その具体的な施策として、以下の2つの実施が検討されています。

A. 障害者雇用状況報告(ロクイチ報告)の改定
毎年6月に提出する報告書において、自社施設外での就業実態や、委託しているサービス内容、具体的な業務内容の記載を求める方向で議論が進んでいます。

B. 「適正運営ガイドライン」の策定
企業が当該サービスを利用する際、雇用主として果たすべき責任(直接の面談や適正な業務指示等)を明確にするよう求める見通しです。

これらが実施された場合、いわゆる「名目上の雇用」に対して、行政によるチェックが強化される方向で議論が進んでいます。

「数合わせ」のみの障害者雇用が直面する「3つのリスク」

こうした行政の動向を受けて、企業側は今後どのように雇用を進めていくべきでしょうか。ここからは、自社での障害者雇用を推進する立場から、企業が留意すべきポイントを解説します。

法定雇用率の引き上げにより障害者採用を拡大させる必要がある一方で、業務創出やこれ以上の受け入れが難しい、雇用ノウハウが限られているなどの理由で、障害者雇用代行ビジネスを活用して雇用に取り組む企業が増えています。しかしながら、企業が法定雇用率の達成“のみ”に重点を置き、これらのサービスを利用することは、経営上の大きなリスクも孕んでいます。

企業側が直面するリスクとしては、以下の3つがあげられます。

【リスク1】:コンプライアンスリスク(行政指導・企業名公表)

現時点では制度の方向性は検討段階にあるものの、仮に、雇用管理の実態が「適切でない」と判断された場合、ハローワークによる指導・勧告の対象となる可能性があるでしょう。さらに、改善が見られない場合は企業名の公表に至ることも考えられ、法令遵守の観点から深刻な事態を招く可能性もあるでしょう。

【リスク2】:レピュテーションリスク(社会的評価の低下)

人的資本経営やESGが重視される中、投資家や求職者から「形式的な雇用で雇用率を達成しようとしている」とみなされることは、ブランド価値を大きく毀損します。特に人的資本経営の開示が求められる現在、雇用の「質」は厳しくチェックされています。

【リスク3】:出口戦略の不在とコスト増

規制強化に伴うサービス利用料の上昇や、将来的な「自社内雇用への切り替え」を迫られた際の体制構築コストは、後手に回るほど経営の負担となります。

法定雇用率達成の「先」を見据える

障害者雇用ビジネスは、短期的には「数」の課題を解決するかもしれません。しかし、今後の障害者雇用は、障害者も企業活動を担う人材として、自社の業務を通じて活躍する「質」(雇用の質的向上)が求められています。
企業がなぜ障害者雇用に取り組む必要があるのか。障害者雇用をテコに、企業の何を変えていくのか。そのような観点で考えると、障害者雇用は必ずしも「法的義務の達成」だけの取り組みではなくなります。

労働力不足が進むなか、本業に資する業務で障害者が活躍することにより、人材不足の解消と事業持続性、収益的な貢献にも繋がります。

“障害者”と一言で言っても、その特性やはたらく意識、能力は多様であり、「障害者のための仕事」ではなく、企業として必要な仕事ではたらくことができればーーどんな障害者が、どうしたらはたらけるのか、という観点で業務や雇用環境の構築ができればーー障害者も企業活動を担うことは十分に可能です。

また、障害者がはたらきやすい環境を整えることは、障害者に限らず、あらゆる人にとってはたらきやすく、また、生産性を上げるきっかけにもなります。

法定雇用率の引き上げや労働市場が変化するなか、企業に求められているのは、企業として障害者雇用に取り組む理由や成果を、長期的な視点で捉えることです。そのうえで、外部サービスを利用する際は、単なる雇用率達成の手段として利用するのではなく、自社雇用のノウハウを蓄積するための「準備期間」として戦略的に活用することが望ましいでしょう。

★自社で任せられる業務を再発掘する
★サテライト型の雇用を利用しながらも、自社社員との交流や評価体制を構築する
★障害者と共にはたらくことへの社内理解を得ながら、少しずつ自社雇用を拡げていく

雇用のあり方を再定義し、「数」の達成の先にある、自社雇用による障害者の活躍と企業価値の向上を目指すことが大切です。