障害者雇用における「質の向上」に関する議論が続いています。厚生労働省の研究会である「労働政策審議会 障害者雇用分科会」では、法定雇用率2.7%への引き上げに伴う「雇用人数の確保(量的拡大)」と、「障害者雇用の質の担保(質的向上)」の両立を制度の根幹に据える議論が本格化しています。特に質的向上については、雇用の質を評価する指標案が提示されました。

企業は法定雇用率の達成にとどまらず、障害者の能力発揮やキャリア形成など、質の向上のための雇用施策が強く求められることになります。そこで本記事では、質の向上に対する最新の行政動向を紹介するとともに、企業が直面している雇用課題と具体的な対策について解説します。

パーソルダイバース株式会社
事業戦略部 法人マーケティンググループ マネジャー
安原 徹

新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社。営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。関西RAマネジャー、中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーを担当。

目次

障害者雇用の「質」とは?審議会で示された5つの重要指標

障害者雇用の“質の向上”とは、「障害者を、企業活動を担う人材として、その能力や特性を最大限に発揮し、活躍するための雇用施策を講じること」とされています。

厚生労働省が障害者団体や支援側、企業側の代表や専門家などを集めて定期的に開催している「労働政策審議会 障害者雇用分科会」では、以下の5つの要素を軸に、企業が雇用の質向上に適正に取り組んでいるかを評価する方向性が示されています。

•能力発揮の促進: 
障害に応じた適切な職務配置を行い、個々の能力を最大限に引き出すためのスキルアップ支援ができているか。

•適正な雇用管理: 
相談体制の構築に加え、改正障害者雇用促進法に基づく「合理的配慮」の提供プロセスが形骸化せず、明確に運用されているか。

•正当な評価と反映: 
適性な評価制度に基づき、成果に応じた昇級・昇格など、長期的なキャリアパスが整備されているか。

•成果の事業活用: 
障害者が従事する業務が、一時的な作業創出ではなく、自社の利益や事業運営に直接的に貢献されているか。

•雇用の安定: 
本人の意向を尊重し、継続的かつ安定的な「直接雇用」が維持されているか。

障害者雇用の認定制度拡大と、雇用の質に関する報告が厳格化

厚生労働省は、雇用の質に対する取り組みを可視化し、評価する施策の検討を進めています。労働政策審議会 障害者雇用分科会では、2つの具体的な施策案が示されました。

1. 認定制度「もにす認定」の拡大
これまで主に中小企業を対象としていた、障害者雇用に関する認定制度「もにす認定」の枠組みを拡大する議論が進んでいます。
大企業も対象に、多角的な評価指標を盛り込むことで、障害者雇用への質の高い取り組みを評価し、雇用推進を後押しする制度として活用されることが期待されています。

2. 雇用状況報告(6.1報告)における記載項目の追加
従来の人数報告に加え、今後は「就業場所」「職務内容」「能力開発の実施状況」などの項目を追加することが議論されています。
追加されると、雇用の質の取り組みが可視化されることになりますが、その一方で、報告内容から「雇用はしているが業務実態が伴わない」と判断された場合は、何らかの指摘や指導が入る可能性も考えられます。

今後、議論をもとに質の向上をはかる指標や評価方法が策定され、企業側に要請される見通しが高まっています。企業は法定雇用率の達成に留まらず、質の向上のための具体的な活動が求められる可能性があります。

【解説】障害者雇用「質の向上」を阻む課題と解決へのアプローチ

質の向上は、これからの障害者雇用において避けて通れないテーマとなっていますが、企業側では質の向上を阻む様々な課題が存在します。

当社パーソルダイバースは企業が自社で障害者雇用を推進するためのご支援を行っています。ここでは、支援の現場で雇用担当者から寄せられる課題とその要因を紹介します。

【雇用環境の課題】本業との組織的分断と雇用拡大の限界

従業員1,000人規模を超える大手企業では、特例子会社の設立や集合配置雇用の促進、サテライトオフィス等の活用により法定雇用率の達成や雇用拡大が進んでいます。
しかし、本社やメインの事業部から切り離された環境での定型業務(データ入力、郵便仕分け、資料封入封緘などの事務作業、清掃、農作業、軽作業など)は、安定した雇用を生む一方で、はたらく障害者が「自社の事業成長に貢献している」実感を得にくい構造を作っています。
また、法定雇用率の引き上げで採用数が急増することで、雇用を受け入れる配属部署の負担が増え、新たな受け入れが難しい課題も多く見られます。

【職域・業務の課題】AI、DXによる職域の変化と業務切り出しの難化

これまで、障害者雇用における業務は、業務手順が明確で難易度が低い定型業務が主流でしたが、今後はAIやDXの推進により、従来の定型業務の創出が難しくなることも考えられます。企業では、AIなどのテクノロジー活用を前提とした新たな職域、業務の創出が模索されています。
また、業務における一人ひとりの役割が広く「マルチタスク」である場合、業務を細分化して切り出す余裕がなく、「任せられる仕事がない」という問題が生じることもあります。

【リソースの課題】環境整備・先行投資へのハードルと「属人化」の壁

中小規模の企業では、大手企業と比べて人的・資金的なリソースが限られていることから、バリアフリー化や支援機器の導入、専門コンサルティングの活用など、質の向上に必要な取り組みがみづらい傾向が見られます。
また、専任のジョブコーチを配置する余裕がなく、現場リーダーが通常業務の傍ら手探りで対応しているケースや、特定個人に雇用に関する業務が集中することで「属人化」し、担当者の異動や退職によって雇用が不安定になるリスクも見られます。

【社内理解、ノウハウの課題】精神、発達障害者雇用への理解、ノウハウの不足が現場を疲弊させる

障害者採用市場の主な対象は身体障害者から精神、発達障害者へと変わってきています。しかし、精神、発達障害者の雇用ノウハウが十分にない企業では、マネジメントや健康管理をどのようにすべきか分からないといった声や、社内理解が十分でないことが、就業定着を阻む壁となっているケースも散見されます。

また、職場で共にはたらくメンバーや責任者が、障害についてや、障害者本人に対する理解が十分でないことで、障害への過度な配慮やトラブルを恐れるあまり、職場のコミュニケーションがうまくいかない、適切なフィードバックを控えてしまうなどのケースが見られます。その結果、「障害者とはたらくのは難しい」といった印象や、障害者本人の成長やはたらく価値を高める機会を阻害することにもなります。

【人事評価、育成の課題】安定・定着への偏りと、キャリアアップを阻む構造

障害者雇用枠ではたらく社員には、体調を整えながら安定してはたらき続けたい一方で、成長やキャリアアップを望む人も多く存在します。しかし、「就業安定・定着」だけを前提とした雇用施策によって、企業内に一般社員のようなキャリアアップの道筋や、様々な仕事に従事できる機会、勤怠だけではなく成果を評価する評価制度が用意されていないケースが多く見られ、その結果「頑張っても処遇が変わらない」という行き止まりや、「知識やスキルをもとに新たな業務にチャレンジしたい」という意欲を削いでしまう様子も見られます。

課題解決のアプローチ・・・障害者雇用ではなく、企業競争力向上のための雇用施策を

このような課題に対処し、質の向上を進めるアプローチとして、どのような対策が考えられるでしょうか。

はじめに、障害者雇用の質の向上に取り組む目的と、得るべき成果を考えることが大切です。
障害者一人ひとりが能力や特性をもとに最大限に力を発揮し、業務で活躍することは、事業の収益や持続性といった「企業競争力」の向上に貢献します。さらに、そのような成果を得るための仕組みや環境を整えることは、障害者に限らず、企業全体での生産性にも繋がるでしょう。

そのような目的、成果を得るためには、従来の「障害者のための仕事を作る」発想から、DX推進に伴うデータ業務やバックオフィス支援など、本業の競争力を高める職域への創出・拡大が求められます。定型業務だけでなく、本業に資する業務に挑戦し、活躍できる機会やキャリアパスの設計、評価制度の明文化が求められます。

また、雇用知見やリソースが限られている企業は、外部支援機関や障害者雇用支援業者のサポートを受けることも有効です。外部の支援機関を「人事の外部パートナー」としてフル活用し、雇用知見を蓄積していくと良いでしょう。

厚生労働省では、障害者雇用実績のない企業や法定雇用率の達成が難しい企業に向けて、無料で雇用の相談を受けられる「障害者雇用相談援助事業」を実施しています。こうした制度を活用し、スモールステップで雇用を作り、広げることが有効です。

まとめ:障害者雇用を「数」から「質」にアップデートする

障害者雇用は今、「義務(コスト)」を果たすフェーズから、「多様な人材を活かして組織を強化する戦略(ベネフィット)」のフェーズへと移行しています。
行政による「質の規定」が進む中で、質の向上を一つの転換点とし、自社の障害者雇用への取り組みを「数」から「質」へとアップデートしてみてはいかがでしょうか。

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