厚生労働省は2026年6月、ハローワークを通じた「令和7年度(2025年度) 障害者の職業紹介状況等」を公表しました。
今回の発表では、新規求職申込件数が3年連続で増加し過去最高を更新した一方、全体の就職件数はわずかに減少に転じるなど、市場の変化を感じさせる結果となっています。
2026年7月、民間企業の法定雇用率は2.7%へと引き上げられましたが、雇用に取り組む企業はこの傾向をどう読み解き、今後の障害者採用・定着戦略に活かすべきでしょうか。直近のデータ推移を比較しながら対策を解説します。

パーソルダイバース株式会社
事業戦略部 法人マーケティンググループ マネジャー
安原 徹

新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社。営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。関西RAマネジャー、中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーを担当。

目次

障害者求職申込件数:過去最高を更新も、就職件数は微減

新規求職申込:労働市場に参加する障害者は増加傾向

はじめに、ハローワークにおける障害者の新規求職申込件数、就職件数、就職率の推移について、直近のデータと比較して紹介します。

新規求職申込の全体件数は過去10年、概ね増加傾向にあり、労働市場に参加する障害者の数は拡大傾向にある様子が伺えます。精神障害者や発達障害者を中心に、一般企業への就労を希望してハローワークへ新規に登録する求職者の総数は着実に増えています。

就職件数・就職率:全体では減少、障害種別では精神障害のみ増加

一方で、これまで過去最高を更新し続けていた全体の就職件数は、2025年度に微減へと転じました。全体の就職率も41.4%(前年度差1.7ポイント減少)に低下しています。
直近3年間の推移を障害種別で見ると、身体障害(5.5%減)や知的障害(1.0%減)の就職数が落ち込んでいるのに対し、精神障害者の就職件数は66,580件(1.6%増)と唯一増加を維持しています。市場における精神障害者の存在感はさらに高まっていることがわかります。

■障害者の就職件数・就職率の推移

障害種別

2023年度

(件/就職率)

2024年度

(件/就職率)

2025年度

(件/就職率)

就職件数と就職率における前年度比
身体障害 22,912件/
38.7%
22,704件/
37.7%
21,463件/
36.3%

5.5%減/

(就職率1.4pt減)
知的障害 22,201件/
59.2%
22,449件/
55.6%
22,215件/
56.5%

1.0%

(就職率0.9pt増)
精神障害 60,598件/
43.9%
65,518件/
42.8%
66,580件/
40.3%

1.6%

(就職率2.5pt減)
その他 5,045件/
34.0%
4,938件/
34.7%
4,920件/
34.1%

0.4%

(就職率0.6pt減)
合計 110,756件/
44.4%
115,609件/
43.1%
115,178件/
41.4%

0.4%

(就職率1.7pt減)

なぜ求職者が増えたのに就職件数は減ったのか

新規求職者が増えているにもかかわらず、全体の就職件数が減少した要因について、厚生労働省は「就労継続支援A型事業所への就職件数が前年度に比べ減少したこと等の影響」と分析しています。福祉就労(A型事業所など)側の経営環境や受け入れ枠の変化が、全体の数値を押し下げた形になったようです。

【産業別の傾向】民間企業における障害者採用ニーズは依然として高水準

産業別の就職件数では、例年通り「医療、福祉」「製造業」「サービス業」「卸売業、小売業」が上位を占めています。2023年~2024年度と比較した2025年度の動向は以下の通りです。

・令和5年(2023年)度〜6年(2024年)度の動向:
2024年4月の法定雇用率引き上げ(2.5%)を背景に、これまで障害者雇用に慎重だった業界も含め、民間企業全体で求人数が大きく増加しました。

・令和7年(2025年)度の動向:
福祉分野(A型事業所など)への就職件数が鈍化したことで全体の数値は横ばい・微減ですが、民間企業における「一般雇用」の枠組みにおいては、依然として活発な採用活動(激しい人材獲得競争)が継続しています。

【解雇者数の動向】2024年度の「A型事業所大量解雇の波」はいったん沈静化へ

ハローワークに届け出のあった障害者の解雇者数は、直近の3年間で最も大きな変動を見せました。

2023年度 2024年度 2025年度
2,407人

9,312人

(過去最高)

3,692人

(対前年度比5,620人減)

2024度に解雇者数が9,312人と突出し、市場に「大量解雇の波」が起きたのは、同年に実施された障害福祉サービス等報酬改定にともない、経営悪化に陥った一部の「就労継続支援A型事業所」による大規模な閉鎖や事業縮小(大量解雇)が主な要因でした。
解雇者数は2025年度には3,692人まで減少しており、福祉事業者側に起因する大量解雇の動きは沈静化に向かったと言えます。ただし、報酬改定前の2023年度(2,407人)水準と比較すると依然として高く、一般企業へ移行した層を含め、雇用管理や適応・定着における課題は依然として残されている点には留意が必要です。

【見通しと対策】法定雇用率「2.7%」引き上げに伴う今後の市場予測と必要な対策

これら3年間のデータ推移を踏まえ、今後の障害者採用市場はどう変化するでしょうか。
2026年7月より、民間企業の法定雇用率が「2.7%」へと引き上げられました。今後、対象となる企業(従業員37.5人以上)が活発に採用活動に取り組むことで、民間企業の求人数はピークに達し、ハローワークにおける新規求職者数・就職件数はともに再び増加(過去最高水準への回復)へと向かうことが予想されます。
採用競争が激化するなか、法定雇用率を達成し、雇用の拡大を図るために、企業の人事担当者が今すぐ取り組むべき対策を解説します。

対策1: 身体障害者から「精神・発達障害者」へのシフト

新規求職者数・就職件数ともに減少傾向が続く「身体障害者」の獲得競争は、今後さらに激化します。従来の、身体障害者“のみ”を対象とした採用活動や、前例のある定型業務“だけ”の職域・業務に固執していては、母集団形成すら困難になるでしょう。

今後は、市場の主流である精神障害者や発達障害者の受け入れを進める必要があります。しかし、精神、発達障害者の雇用ノウハウや従事する業務が少ないことや、雇用管理がうまくいかず職場定着が進まないなどの課題も見られます。
雇用知見やリソースが限られている場合は、外部支援機関や障害者雇用支援業者を活用し、研修を通じた社内理解や、採用活動(人材要件策定や母集団形成、採用選考サポートなど)、マネジメントなどのサポートを受けながら、雇用知見を蓄積していくと良いでしょう。

厚生労働省では、障害者雇用実績のない企業や法定雇用率の達成が難しい企業に向け、無料で雇用の相談を受けられる「障害者雇用相談援助事業」を行っています。こうした制度をうまく活用することも有効です。
また、週10時間以上20時間未満の「特定短時間労働」の枠組み(精神・発達・身体障害者は0.5人分としてカウント可能)を有効活用し、フルタイム勤務は難しくとも短時間であれば安定してはたらける層をターゲットに据え、社内の業務切り出しやマニュアル化を進めることが有効な解決策となるでしょう。

対策2:「質の向上(定着・戦力化)」を前提とした雇用施策への投資

現在、行政や社会全体から、法的義務による「雇用数の達成」だけでなく、障害者も企業ではたらく人材として活躍をはかるための「雇用の質の向上」を求める要請が強まっています。また、福祉就労から一般企業への移行を希望する就労意欲の高い求職者が増えているなか、一般企業の環境へ適応し定着・活躍するためには、合理的配慮の提供を含め、丁寧なフォローが不可欠です。
入社初期の定期面談の実施はもちろん、ハローワークや就労移行支援事業所などの「外部支援機関」と密に連携した3者体制での定着支援スキームをあらかじめ構築しておくことが、早期離職を防ぎ、中長期的に安定した雇用率を維持するための鍵となります。

まとめ:採用活動と雇用受入体制の見直しを

2027年以降の障害者雇用市場は、法定雇用率2.7%への引き上げによって採用競争のさらなる激化が予想されます。最新のデータが示す通り、これからの障害者雇用市場のテーマは「いかに身体障害者を採用するか」ではなく、「いかに精神・発達障害者の活躍環境を整え、外部と連携して定着(質の向上)を図るか」へとシフトしています。
自社の採用活動と雇用受入体制の見直しを、今から進めていくことをおすすめします。