厚生労働省が発表した「令和4年の障害者雇用の集計結果」によると、民間企業で雇用されている身体障害者の数は357,767.5人で、全体の6割弱を占めています。
身体障害者の雇用は、1976年(昭和51年)に創設された雇用率制度により他の障害より先に法定雇用率の算定基準の対象になったということもあり、雇用が最も進んでいます。
しかし、一言で身体障害と言っても様々な障害があり、中では障害に対する正しい理解が進んでおらず、雇用受け入れが進まないものもあります。
今回はその一つと言われる「視覚障害」について考えていきます。

目次

視覚障害者の雇用状況

カテゴリ 新規求職申込件数 有効求職者数 就職件数 就職率
身体障害者全体 58,033 113,195 20,829 35.9%
視覚障害者 4,160 8,738 1,497 36.0%
重度視覚障害者 2,039 4,872 808 39.6%
精神障害者 108,251 163,064 45,885 42.4%
知的障害者 34,651 54,618 19,957 57.6%

出典:令和3年度 ハローワークにおける障害者への職業紹介状況

厚生労働省が発表した「令和3年度の障害者の職業紹介状況」によると、身体障害者全体の就職件数20,829件のうち、視覚障害者はわずか7.2%にあたる1,497件、さらに重度の視覚障害者の就職件数は4%を下回る808件と、非常に低い数値になっています。

重度視覚障害者の職業別の割合

また厚生労働省が「社会福祉法人 日本盲人会連合」に提供した「公共職業安定所における視覚障害者への職業紹介状況(平成30年度)」より、職業別就職件数を見ると、「あはき業」と言われる、あんま・鍼・灸に従事する専門職が全体の約40%を占める一方で、オフィスでの事務職にあたる「事務的職業」は、視覚障害者全体では14.8%(301件)、重度の視覚障害者は11.6%(135件)となっております。

10年前と比べて障害者の職務領域が広がる中、伝統的な職業に雇用が偏っている現状が分かります。特に重度の視覚障害者に対しては「目が全く見えない=オフィスでの仕事はできない」という考えが根強く、雇用の妨げになっているのではないかと思われます。

視覚障害の種類

視覚障害とは視覚(視力・視野など)に何らかの障害があり、日常生活や就労において不自由が生じる状態のことです。

視覚障害と一口に言っても、視力に障害があるのか視野に障害があるのかによって、見え方や不自由に感じることは異なります。
例えば、視力が良くて視野が狭い人の場合は読み書きや行動に不自由さを感じます。 反対に視力が低くて視野が保たれている人は、読み書きに不自由さを感じますが歩行や行動には大きな困難はありません。
障害の程度に加えて、これまでの就労経験等によってもできること、できないことが異なってきます。
企業は、自立して就労ができる状態を整えるために、一人ひとりがどのようなサポートが必要なのかをよく話し合い、相互に理解を深めながら支援体制を整えることが大切です。

では、視力障害にはどのような種類があるのかを見ていきましょう。

視力障害

まず、最もイメージしやすいのは「視力障害」でしょう。矯正視力が0.04以上0.3未満で、拡大鏡を使えば文字情報が読める状態を「弱視」、矯正視力が0.02以上0.04未満で、ぼんやりと物の形が分かる状態を「強度弱視」、矯正視力が0.02未満で、全く見えず、明暗が分かる程度の状態のことを「盲」と定義しています。 弱視と強度弱視では普通の文字を使いますが、盲になると主に点字を使用します。

視力障害のある方が主に不自由を感じる場面は、読み書きです。さらに全盲となると読み書きのほか、視覚的な情報は全く得ることができません。弱視の場合は拡大文字や補助器具などを利用して、視力を活用しながら読み書きができるケースもあります。
ただし視力障害とともに視野狭窄を抱えているケースや、光をまぶしく感じる、あるいは明るいところでは見えるが暗いところでは見えにくいなどの不自由を感じる場合もあるため、十分な確認が必要です。

調節機能障害

目に元々備わっている、物を見たときにピントを合わせる機能が「調節機能」です。視覚障害の認定項目の中には、調整機能についての障害も含まれています。認定基準は、調整力が通常の2分の1以下に減少していると認められた場合です。障害等級は第11級〜12級相当にあたるとされています(※障害者手帳は1〜6級の障害に交付されます)。
なお、調整力は年齢とも大きな関わりがあり、年齢別の一定基準と比較して判断されます。

運動障害

運動障害とは、主に「注視野」と「複視」のことを指します。注視野とは、頭を固定したまま目を動かして見える範囲のことを言います。また複視とは、物が二重に見える状態のことを指します。
注視野の広さは個人差がありますが、平均して片目で50度ほど、両目で各方面45度ほどと言われています。視覚障害の認定等級の中にある注視野の規定は、「注視野の広さが2分の1以下に減少している場合」です。認められた場合は、障害等級の11級〜12級相当にあたります。また、複視に関しては、正面視で複視が確認できた場合に等級が認定される場合があります。障害等級は10級〜13級相当にあたります。

視野障害

視力だけではなく、視野(ものの見え方)もさまざまです。「見えない」と言っても、一部が見えない人や視野の中心が見えない人、眼球が揺れて見えにくい、二重に見える、ぼやけて見える、暗いところでは見えにくい・・・など、人によって異なるのです。

重度の視覚障害でもデスクワークは可能

近年のICT技術の発展により、重度の視覚障害者でもPC入力業務などを行うことが可能になり、オフィスワークに従事できるようになっています。例えば、テキストデータは「PCトーカー」や「NVDA」といった音声読み上げソフトを使うことで把握でき、Excelを使用したデータの入力や集計、計算、調査業務も可能です。
また、電話やメールによる社外とのコミュニケーションや、語学力を生かした簡易翻訳業務も従事できます。
一方で、画像(ビジュアル)や紙媒体・書類の対応は、電子顕微鏡やルーペを使用。量が多いと負担が大きくなることもあり、周囲のサポートが必要になります。

業務内容のイメージ

  • Excelを使用したデータの入力、集計、計算
  • 調査業務(インターネットやDBを使用した情報収集)
  • 議事録や資料の作成
    ※資料はビジュアルやレイアウトのチェックをサポートしてあげてください

視覚障害者と働く上では、支援機器や適切な手段を用いて、視覚情報を音声情報や文字情報として本人が認識・把握出来るよう、「情報保障」の意識を持つことが大切です。それによって、重度の視覚障害者に対しても、デスクワークでの雇用受け入れが可能になります。

視覚障害者が業務上で抱えている悩み

視覚障害のある方が企業で仕事を続けるためには、業務上での不安や課題を具体的に把握することが大切です。一人ひとりの障害の程度を知ることはもちろん、視覚障害者に共通している不安や課題を知っておくことで、対策を講じやすくなります。

では、視覚障害のある方が抱える悩みには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

通勤面の問題

公共交通機関を利用する場合は、通勤面での不安があります。

  • 初めて通る道・初めて行く場所など、慣れていない場所では一人で移動することが困難
  • 点字ブロックの上に物や自転車が置かれているなど、転倒やけがにつながる危険がある
  • 出勤や退勤ラッシュ時に駅のホームから転落してしまいそうになる

などが通勤面での不安として挙げられます。

オフィス内のレイアウトや移動

目が見えなかったり視野が狭かったりすることで、オフィス内の移動でも不安があります。

  • オフィスが2階以上にあるがエレベーターがない
  • 自分が今いる場所が分からなくなり、尋ねたくても側に誰がいるのか分からない
  • オフィス内のレイアウトや座席、備品の場所が分からず業務が円滑に進まない
  • 会議室やトイレ、給湯室や休憩室に行きたいが、ルートが分からない
  • 通路が狭かったり物が置いてあったりすると転倒の恐れがある
  • 机の角や棚などぶつかると危険な場所がある

などが挙げられます。

社内外の人とのコミュニケーション

コミュニケーションについても悩みを抱えている方が多くいらっしゃいます。

  • 人の視線や表情が分からない、もしくは分かりづらいため、誰から話しかけられているか分からない
  • 担当者などに声をかけたいが、席に着いているのか着いていないのかが分からない
  • 書類などの読み書きが困難な場合があるため、読み上げてもらったり、詳しく説明してもらったりする必要がある
  • 個人情報を大きな声で読み上げられる

などが悩みとして挙げられます。

視覚障害のある人に対する必要な配慮と対策

最後に、視覚障害者に対する配慮のポイントをいくつか紹介します。

1.選考の際は、できることとできないことを確認しておきましょう!

例えば「PC操作ができます」という視覚障害者も、これまでの就労経験や訓練状況によりPCスキルには差があります。音声読み上げソフトを導入したノートPCをお持ちの方もいらっしゃいますので、面接以外にPC操作のデモンストレーションをしてもらうことで、PCスキルのミスマッチを防ぐだけでなく、お任せできる業務イメージを持つことができます。
また「手書き対応へ配慮すること」も、入社後の障害理解、配慮の有無をイメージする上で重要なポイントです。履歴書や筆記試験など、手書き対応が求められる選考プロセスを省くことで、視覚障害者の方々にとってのハードルは大きく下がります。

2.視覚障害の支援機器との連携をチェック!

入社前に社内で使用しているメールソフト、業務システム、ソフトウェアが支援機器で使用可能かチェックするようにしましょう。使用上の問題があれば、代替機器や業務フローの検討など、対策が必要となります。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による支援機器の貸し出しサービスがあります。

3.ラッシュ時間帯を避ける通勤方法を検討する

朝夕ラッシュ時の通勤は視覚障害者にとって多くの危険があり、ストレスも大きくなります。
フレックスタイムの活用や個別の時差通勤配慮など柔軟な対応を頂けると安心して就労することが出来ます。

4.オフィス内のレイアウトやよく使う場所の確認

フロアの入口から自席までのレイアウトや移動の際の手かがりについて、詳しい説明をしながら本人と確認します。これを「環境認知」と呼びます。この時に、本人が分かりづらい点を確認したり、不自由がないかを確認することで、働きやすい環境を整えることに繋がります。初めて行く場所へ誘導する際には同様の配慮をお願いします。
エレベーターや会議室、トイレ、入退室管理の方法など、よく使う場所ははじめに案内し、使い方を説明してください。同じような部屋がたくさん並んでいる場合は、入口の近くに部屋の番号や名称の点字ラベル、識別可能なシールを貼っておくと良いでしょう。

また、視覚障害のある方の座席を入り口付近にする、担当者を定めて近くに配置するなどオフィスのレイアウト変更も大切です。本人が移動しやすいように、通路や付近の整理整頓も心がけておくと良いでしょう。
やむを得ずレイアウト変更や座席や備品の移動があった場合は、必ず場所を説明し、本人と一緒に確認することを忘れないでください。

5.白杖を使用している方の誘導・サポート方法を知る

白杖を使用している方の誘導・サポート方法を知る

白杖を使用している方の場合は、白杖を持つ手の反対側に立ちましょう。曲がる際や段差など、その場の状況を説明しながら誘導します。誘導の際には、誘導者の肘または肩に手をかけてもらい、半歩先を歩くことで進む方向やスピードを把握します。また、白杖を頭上に掲げているような動作は「白杖SOSシグナル」と呼ばれています。この動作を見かけた場合は、「お手伝いしましょうか」と進んで声をかけてください。

白杖を使用している方を誘導・サポートする際の注意点は、以下の通りです。

  • 声をかけるときは、視覚障害者の方が驚かないようできるだけ前方から話しかけましょう。
  • 誘導の際は背中を押さず、視覚障害者の方のペースに合わせて歩きましょう。
  • 白杖は視覚障害者の方の身体の一部です。白杖を持ったり引っ張ったりはしないでください。
  • 手をかけてもらった方の腕は、自分の身体から離したり前後に振ったりしないよう意識しましょう。
  • 段差や傾斜などがある場合は、事前に声をかけましょう。階段の昇り降りの際には「昇ります(降ります)」と声をかけ、昇り(降り)きったら「これで終わりです」と声をかけましょう。手すりがある場合は使用してもらうと良いでしょう。
  • 狭い場所を通るときには「ここから狭くなります」と声をかけ、手をかけてもらっている手を背中側にまわしましょう。この場合は縦一列になり歩く形になります。

6.声をかけるときは、名前を名乗る!

声で誰なのかを判別する為、声をかける時には自分の名前を名乗るようにしてください。
「○○さん、■■(自分の名前)です。」
離席する際や戻ってきた際に一声かけることで、近くの席の社員の状況も把握することが出来ます。
「■■(自分の名前)ですが、××に行って来ますね。」

7.口頭で説明するときの伝え方

口頭で説明するときの伝え方

「これ」「それ」など指示代名詞を避け、「右」「前」など具体的に伝えましょう。 また、時計の文字盤をイメージして、「3時の場所に○○があります。」という伝え方も分かりやすいです。

業務の指示をする際は、まずは全体像が掴める様に、業務の目的や関係する部署、出来上がりのイメージについて説明をしましょう。その上で具体的な作業内容を伝えることで、担当業務の前後関係を掴みながら仕事をすることができます。

そして、口頭で伝えた内容は記録に残せるように(見直せるように)、メール等の電子データでも伝えると親切です。その際に、件名は要件が分かりやすいように記載し、署名の前には「以下署名」と記載しておくと、音声読み上げソフトを使って理解する障害者にとって分かりやすくなります。

また、業務上やむを得ず書類上の記入や、読み上げソフトに対応していないデータのやりとりが発生する場合があります。その際は書類を省略せずに読み上げ、必要であれば記入のサポートも行うと良いでしょう。個人情報が関わる内容の際には大きな声で読み上げることは避け、本人に配慮した対応を心がけましょう。