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厚生労働省は2024年12月、民間企業や公的機関における「令和6年(2024年)障害者雇用状況の集計結果」を公表しました。
障害者雇用義務のある事業主は、身体、知的、精神障害者の雇用状況について、毎年6月1日時点で報告することが義務付けられており、これらをまとめた集計結果です。
集計結果をもとに、障害者雇用の現状と、今後の課題とポイントについて考察します。
雇用数・実雇用率ともに引き続き過去最高を更新
集計結果によると、民間企業の障害者雇用数は677,461.5人(対前年比+5.5%)、実雇用率は2.41%(同比+0.08ポイント)となりました。障害者雇用数は21年連続、実雇用率も13年連続で過去最高を更新しています。法定雇用率達成企業の割合は46.0%(対前年比-4.1ポイント)となりました。
令和5年(2023年)の集計では、はじめて実雇用率(2.33%)が法定雇用率(2.3%)を超え話題となりました。2024年の集計でも雇用数・実雇用率は引き続き伸長しているものの、2024年4月の法改正で法定雇用率が2.5%に引き上がったことを受け、「法定雇用率達成企業の割合」は前年比でマイナスという結果となりました。
全ての障害種別で雇用数は増加、精神障害者の伸長に注目
障害種別ごとの雇用数の推移を見ると、全ての障害種別で雇用数は増加しています。その中でも精神障害者については対前年比15.7%増という結果となり、コロナ渦を抜けて伸長回復のピークを迎えた前年からは少し落ち着いたものの、引き続き高い伸長率を示しています。
出典:厚生労働省「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」をもとに、当社にて再集計
企業規模別の雇用状況
2024年4月の法定雇用率引き上げと同時に、「障害者の雇用義務」が発生する企業の対象範囲が広がり、常用労働者数が40.0人以上の企業からに変更されました。
新たに対象に加わった常用労働者数が40.0~43.5人未満規模の企業では、雇用している障害者数は4,962.5人、実雇用率は2.10%、法定雇用率達成企業の割合は33.3%でした。
従来から報告対象であった規模の企業においては、雇用人数と実雇用率は全ての企業規模で前年より増加しているものの、「法定雇用率達成企業の割合」は前年より低下しています。
また、実雇用率と法定雇用率達成企業の割合は、企業規模別でバラつきがあり、常用労働者数が少ない企業群ほど法定雇用率(2.5%)、法定雇用率達成企業の割合の目標(第5次障害者基本計画では56.0%)に対して差分が大きい状況となっています。
【企業規模別の雇用状況】
企業規模 | 障害者の数 (前年値) |
実雇用率 (前年値) |
法定雇用率 達成企業の割合 (前年値) |
40.0~43.5人未満 (2024年4月より対象) |
4,962.5人 | 2.10% | 33.3% |
43.5~100人未満 | 73,31 7.5人 (70,302.5人) |
1.95% (1.95%) |
45.4% (47.2%) |
100~300人未満 | 124,637.0人 (122,195.0人) |
2.19% (2.15%) |
49.1% (53.3%) |
300~500人未満 | 57,178.5人 (54,084.5人) |
2.29% (2.18%) |
41.1% (46.9%) |
500~1,000人未満 | 76,515.5人 (73,435.5人) |
2.48% (2.36%) |
44.3% (52.4%) |
1,000人以上 | 340,850.5人 (322,160.5人) |
2.64% (2.55%) |
54.7% (67.5%) |
産業別の雇用状況
産業別にみると、障害者の雇用数は全ての業種で前年よりも増加しました。 一方で、法定雇用率引き上げの影響に伴い、法定雇用率を実雇用率が上回ったのは「医療、福祉」(3.19%)のみとなりました。
後述もいたしますが、産業・業種の観点では、現状除外率の対象となっている業種に関して、2025年4月に除外率の10%引き下げが予定されています。こちらも大きなポイントとなってきます。
障害者雇用市場の動向と今後のポイント
2024年は法改正・法定雇用率の引き上げもあり、障害者雇用において大きな動きのある年となりました。ここでは改めて、2024年に変更となった内容、2025年において重要なポイントを押さえておきましょう。そのうえで、今後の障害者雇用における課題を考察していきたいと思います。
2024年:法改正のおさらい、2025年:除外率の10%引き下げ
2024年には以下の法改正・変更が実施されました。
法定雇用率の引き上げ | 法定雇用率は2.3%→2.5%へ | 対象事業主の範囲も従業員数が「43.5人以上」から「40.0人以上」へと拡大されました |
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雇用率算定対象の拡大 | 特定短時間労働者も雇用率算定対象に | 週の労働時間が10時間以上20時間未満で働く重度の身体障害者・知的障害者、また精神障害者についても雇用率の算定対象とし、対象者1人につき「0.5人」としてカウントすることになりました |
障害者雇用調整金・報奨金の減額 | 一定数を超えた場合に調整(減額) | 2024年度の実績に基づく2025年度の支給から、一定数を超えた場合に調整(減額)されることが決まっています |
助成金の新設・拡充 | 新たな助成金の新設、一部の既存助成金も拡充 | 2024年度より新たな助成金が新設され、既存の助成金も一部拡充されています |
2025年に変更される大きなポイントとして、除外率の引き下げがあります。
障害者の就業が困難とされる業種では、障害者雇用義務の負担を軽減するために除外率が設定されています。社会全体での障害者雇用の推進のために、2025年4月よりこの除外率が10ポイント引き下げられ、以下のように変更されます。なお、現行の除外率が10%以下の業種については除外率制度の対象外となります。
障害者雇用の目標値「法定雇用率達成企業の割合」と法定雇用率2.7%から考える
2024年に2.5%となった法定雇用率ですが、2026年7月には2.7%まで引き上げられことがすでに決定しています。
ここで注目したいのが国が障害者雇用の目標値としている数値です。2023年度から始動した「第5次障害者基本計画」においては、民間企業における障害者雇用状況の目標が、従来の「雇用数」ではなく「法定雇用率達成企業の割合」に変わり、2027年度の目標値として「56%」が掲げられています。
「法定雇用率達成企業の割合」は当然のことながら法定雇用率の値に影響を受けることから、第5次計画のゴールである2027年に目標値を達成するためには以下のグラフのような推移を描く必要があります。達成企業の割合は法定雇用率の引き上げ直後に下がる傾向にあり、2026年度時点においては目標値を上回る水準(58~60%)が求められます。直近50年を遡ってみても過去最高値は1986年度の「53.8%」であるため非常に高い目標であることが分かります。その高い目標設定から、社会全体でのスピード感をもった障害者雇用の推進が求められているとも言えます。
※2026年の「障害者雇用状況の集計結果」は、2026年6月時点であり、法定雇用率は2.5%が適用される。
※2024年度までの「障害者雇用状況の集計結果」をもとに、2025年以降は当社にて推計
一方で、パーソルダイバースが企業の障害者雇用担当者に対して行った独自調査においては、6割弱(57.9%)の企業が法定雇用率が2.7%へ引き上がった場合「達成は困難」「やや困難」と回答しており、企業側の観点ではその難易度の高さも伺えます。
これからの障害者雇用における課題
前述した企業規模別の実雇用率を見ると、大手企業と中小企業における格差など、全体を見た時の課題は引き続きあります。一方で、全ての企業において共通することとしては、「これまでの障害者雇用」から一歩先へ進んでいかなくてはならないという示唆です。国の政策とその目標値からは、社会全体での障害者雇用のさらなる推進を強く求めるメッセージが感じられます。
法定雇用率の引き上げに伴い、障害者雇用市場における採用競争も以前に増して激しくなっています。2026年の法定雇用率2.7%への引上げを迎えるにあたっては、採用活動のみならず、障害者が定着・安定就労できる環境を整え、中長期的に自社の障害者雇用を拡大する雇用計画が必要になってきます。以下の関連資料もあわせてご参考ください。