短時間ではたらく障害者は「0.5人」と算定することになっていますが、精神障害者の短時間労働者の場合、2023年3月末日までの特例措置として、「1人」と算定することになっています。対象となる精神障害者には、「1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者」など、主に3つの要件があります。この記事では、精神障害者の雇用ノウハウや定着実績がない企業、短時間勤務ではたらく精神障害者の雇用を検討している企業向けに、特例措置施行の背景や算定基準、対象/対象外それぞれのケース、企業での短時間勤務者の雇用状況などについてまとめました。
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精神障害の短時間労働者に対する特例措置の背景
2018年4月、法定雇用率が引き上げられた際に精神障害者の雇用が義務化され、雇用率算定基準に加えられました。しかし、精神障害者の職場定着率は身体障害や知的障害者と比べて低いという課題がありました。
以下のグラフは障害者の一年後の職場定着率を表したものですが、精神障害者の定着率は半数以下の49.3%となっています。
【障害者の職場定着率】
(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター発表「障害別にみた職場定着率の推移と構成割合」を基に当社作成)
また、厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、精神障害者の平均勤続年数は3年2カ月(発達障害者では3年4カ月)で、身体障害者や知的障害者の半分以下となっています。
さらに、精神障害者の職場定着率を勤務時間別に見ると、「週20~30時間勤務」の場合が最も高く、また、精神障害者は知的障害者に比べて、就職時に短時間勤務であっても、就職後に30時間以上勤務に移行する割合が高いというデータがあります。
就職時 | 3カ月後 | 1年 | |
20時間未満 | 100% | 67.0% | 53.2% |
20 - 30時間 未満 |
100% | 82.5% | 60.4% |
30 - 40時間 未満 |
100% | 72.2% | 50.8% |
40時間以上 | 100% | 63.8% | 42.4% |
(厚生労働省 第74回労働政策審議会障害者雇用分科会「障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則の一部を改正する省令について 資料1-2」を基に当社作成)
こうした背景を踏まえ、精神障害者の職場定着を進める観点から、精神障害者である短時間労働者に関する雇用算定を、一人あたり「0.5人」から「1人」に引き上げるという特例措置の実施が決定しました。
【精神障害者の定着についてもっと詳しく!】
精神障害のある方の就業安定、職場定着のために、企業が採用準備段階で押さえておくべき人材要件のポイントを、当社パーソルダイバースでの採用事例とあわせて紹介します。
短時間障害者雇用の特例給付金制度
精神障害者に限らず、短時間ではたらく障害者を雇用する場合、「週20時間未満の労働者を雇用する企業への給付」という特例給付金制度が定められています。これは、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者(特定短時間労働者)を雇用する事業主を対象とした制度です。従業員100人以下の企業には5,000円/人月、100人以上の企業は7,000円/人月が支給されます。
【週20時間未満の障害者を雇用する企業への特例給付金についてさらに詳しく!】
2020年4月より、改正障害者雇用促進法に基づく「週20時間未満の労働者を雇用する企業への給付」と「中小企業を対象とした認定制度」の2つの新制度が施行されました。新制度の内容と注意点、企業が活用する方法について詳しく解説します。
精神障害の短時間労働者に対する特例措置の算定方法と注意点
ここからは、算定方法や注意点を解説します。
「1人」と算定される精神障害者の要件は
以下の要件をすべて満たす精神障害者は、雇用実人員1人につき「1人」として算定されます。
- 精神障害のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者
- 新規雇入れから3年以内、または精神障害者保健福祉手帳の交付日から3年以内の精神障害者
- 2023年3月31日までに雇用され、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害者
こんな時はどうなる?特例措置の主な対象/対象外のケース
雇用形態や障害者手帳の交付時期などの条件によっては、特例措置の対象とならないケースがあります。特例措置の対象となるケースと算定条件、対象外となるケースの主な例をまとめました。
【対象となるケースと算定条件】
- ■3年以上前に一般雇用枠で雇入れられ、その後に精神疾患を発症した労働者で、2年前に精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた場合(現在は短時間勤務)。
- →精神障害者保健福祉手帳の取得から3年を経過するまでの今後1年間が特例措置対象となります。
- ■発達障害があり、3年以上前の雇用時から療育手帳を所持しているが、その後精神疾患を発症し、1年前に精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた場合(現在は短時間勤務)。
- →精神障害者保健福祉手帳の取得から3年を経過するまで今後2年間が特例措置対象となります。
- ■療育手帳を取得していた人が、新たに発達障害により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた場合。
- →発達障害に対しても一定の配慮を受けていたと想定されることから、知的障害の判定が行われた日を、精神障害者保健福祉手帳の取得日とみなして算定されます。
- ■一旦フルタイム勤務に移行した後、再び短時間勤務に戻ってきた場合。
- →その他の要件を満たせば特例措置対象となります。
【対象外のケース】
- ■精神障害者手帳を有する精神障害者であっても、週の所定労働時間が20時間未満の場合
- →雇用率制度上カウント対象となる短時間労働者に該当しないため、対象外となります。
- ■退職後3年以内の労働者
- →「事業主都合による解雇」「期間満了による雇止め」「本人都合による退職」など、離職理由に関わらず、対象外となります。
- ■雇用していた精神障害者が退職し、その退職から3年以内に、元の事業主と同じ事業主に再雇用された場合。
- ■3年以上前に精神障害者として雇入れられたが、2年前に住所変更により手帳の再交付を受けた(現在は短時間勤務)場合。
- →新規雇入れから3年以上が経過しているため対象外となります。
特例措置の今後:企業の雇用状況・特例措置活用状況と、はたらく障害者の意識調査から
精神障害者の短時間労働者を対象とした特例措置は2023年3月末日までと定められており、それ以降も継続されるかどうかは、措置の効果や課題などを踏まえたうえで検討されることになっています。
企業の、短時間ではたらく精神障害者の雇用と、特例措置の活用状況
厚生労働省「第105回 労働政策審議会 障害者雇用分科会」において、「短時間労働ではたらく精神障害者の雇用実態に関する調査結果」が発表されました。調査によると、特例措置の対象となる短時間労働者を雇用する事業所は、精神障害のある労働者を雇用する事業所全体の約2割(5,371社)で、医療・福祉が30%、卸売・小売業が19%、製造業が13%と続いています(精神障害者を雇用する企業全体の比率は製造業が最多ですが、製造業はフルタイムの労働者のみを雇用する企業割合が高い背景があることから、差が生じていると見られます)。
また、雇入れにあたって、4割程度の事業所が特例措置制度活用を「考慮した」と回答。従業員規模の多い事業所の方が制度を認識・活用する傾向があり、1,000人以上の事業所では、8割弱(76.7%)が特例措置を認識し、6割(60.0%)が活用しています。また、特例措置制度の活用について、「雇用率達成のしやすさ」「定着の見通しの立てやすさ」「無理のない労働時間」という点でメリットを感じる事業所が半数を超え、特に「雇用率達成のしやすさ」で7割超となりました。
はたらく精神障害者は、労働時間を伸ばすことが難しい人も
特例措置が適用されている、はたらく当事者(354名)に対する調査では、職務と労働時間について「とても満足」「満足」と答えた人がともに70%以上、はたらきがいを「とても感じる」「感じる」と答えた人も80.8%を占めました。今後の就労継続については「今の職場で働き続けたい」が60.7%と多数を占めるものの、フルタイムへの移行については「現状では難しい」が33.3%、「短時間勤務を続けたい」が25.1%という結果に。フルタイムに「移行したい」と回答した22.6%を上回っていることから、労働時間を伸ばすことの難しさが見て取れます。
特例措置が2023年4月以降も継続されるかは、労働政策審議会内の障害者雇用分科会を中心に議論が進められ、検討されることになっています。特例措置は精神障害者の雇用機会創出や定着向上に繋がる一方、フルタイムへの移行が難しい状況や、短時間勤務の求人ばかり増えるという懸念の声も上がっています。このため分科会では、雇用企業の属性による雇用環境や管理、配慮事項などとの関係の違いなどの分析を深め、議論を進めていく必要があるとしています。
まとめ
民間企業の法定雇用率は2021年3月に2.3%に引き上げられ、今後も段階的に上昇する見込みです。障害者の労働市場では、身体障害者の雇用数が伸び悩む一方、精神障害者の雇用数が増加傾向にあり、企業は更なる精神障害の雇用拡大に取り組む必要があります。
今回の記事では、精神障害者の短時間労働者に対する特例措置として、2023年3月末日まで雇用数を「0.5人」から「1人」に算定できることを紹介しました。これまで精神障害者の雇用経験がない企業や雇用ノウハウが少ない企業、精神障害者の定着率を高めたい企業、精神障害者雇用に対する社内理解を広めたい企業は、この特例措置を活用し、社内理解や雇用ノウハウ、定着実績を蓄積していくと良いでしょう。