一般雇用における働き方改革やダイバーシティへの取り組みの広がりにより、障害者雇用においてもテレワークによる在宅勤務が注目されています。
オフィスでの勤務が困難な障害者でも、ICTを活用することで就業機会を得られるだけでなく、オフィスにいる社員とも円滑なコミュニケーションを図ることができるようになり、雇用を定着化させ個々が活躍している事例も増えているようです。在宅勤務はまた、法定雇用率上昇に伴い、特に都市圏において特定の障害者層が「売り手市場化」するなど、求める人材を採用することが難しくなっている昨今、新たな人材確保の取り組みとしても期待されています。
今回は、障害者の在宅雇用を検討している企業向けに、導入でのメリットや進め方、雇用事例などをまとめました。
- 目次
-
障害者雇用における在宅勤務とは
一般的に在宅勤務とは「労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ自己の住所又は居所において勤務すること」を言います。国では、障害者雇用率制度などの対象者となる在宅勤務者の要件を、「事業所における通常の勤務日数が一週間当たり一日未満であり、かつ一週間当たりの事業所への出勤回数が二回未満」と定めています。
ただし、下記の条件にあたる身体障害者については、その通勤の困難性を考慮して事業所への出勤回数が一回未満とされています。
- 一級又は二級の視覚障害者
- 一級又は二級の上肢障害者
- 一級から三級までの下肢障害者
- 一級から三級までの体幹障害者
- 一級又は二級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による上肢機能障害者
- 一級から三級までの乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
- 一級から三級までの内部障害者
1. 在宅勤務者の要件
障害者雇用率(法定雇用率)の算定対象となる在宅勤務者は、雇用保険の被保険者となる在宅勤務者のうち、常用雇用労働者に該当する方です。従業員が在宅勤務者として、事業所に勤務している労働者と同じ常用雇用労働者に該当するかどうかは、以下の要件に基づいて総合的に判断されます。
- 事業主の指揮監督系統が明確であること(在宅勤務者の所属事業所及び管理監督者が指定されていること)
- 拘束時間等が明確に把握されていること(所定労働日及び休日、始業及び終業時間等が就業規則等に明示してあること)
- 勤務実績が事業主に明確に把握されていること(各日の始業、終業時刻等)
- 報酬(月給・日給・時給等)が勤務した期間又は時間を基に算定されていること
- 請負・委任的なものでないこと(機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷、通信費光熱費等が事業主により負担されることが雇用契約書、就業規則等に明示されていること。また、他の事業主の業務に従事することが禁止されていることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること)
在宅勤務は、テレワークの一形態
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した、時間や場所にとらわれない柔軟なはたらき方のことを言います。テレ「tele」は「離れた所」を意味する言葉で、最近では「リモート(遠隔)ワーク」と呼ぶこともあります。在宅勤務は、テレワークの一つの形態であり、他には「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務・コワーキングスペース活用」があります。人材不足が大きな課題となっている昨今、テレワークは従業員がはたらきやすい環境を整えるための手段として注目を集めていますが、それぞれの特徴を理解して使い分けることで、障害者の雇用の促進にも繋げられるでしょう。
在宅勤務者雇用のメリットは
障害者を在宅勤務者として雇用することで、企業や当事者だけでなく社会全体に対してもメリットがうまれます。
1. 企業へのメリット
- 通常のオフィス雇用と比べて、既存社員の懸念や影響、負担などを抑えられる
(雇用拡大に必要なオフィス環境の拡張や管理にかかるコストを抑制できる) - 多様なはたらき方の促進に繋がる
(企業内でのダイバーシティの理解、新たな雇用形態の創出、離職率抑制など) - 社会貢献度が高く、対外的なCSR効果にも繋がる
- 地域を問わない優秀な人材の確保が可能になる
(地方人材をターゲットにすることで、競争の激しい都市部での採用を避ける事ができる。また地方の自治体や支援機関からの支援が期待できる)
2. 障害者へのメリット
- 就業や能力発揮の機会が増える
(意志や能力があっても就業機会がなかった人の「はたらく選択肢」が増える) - 就業によって環境が大きく変わるストレスが少なく、勤怠不良の影響が少ない
- 対面コミュニケーションが苦手な方にとって有効なはたらき方となる
- (地方在住者)通勤困難な都市部求人へ応募・就業する機会が得られる
- 地元自治体、支援機関より、在宅勤務の訓練と支援を受けることができる
在宅雇用へのニーズと、地方の優秀な人材採用の可能性 -当社の在宅雇用支援から-
2019年2月から3月にかけて、厚生労働省主催・当社運営にて「障害者の在宅雇用の可能性」に関する法人企業様向けのセミナーを実施しました。3日間で企業の採用やダイバーシティ推進を担う担当者など約400名が参加され、3割以上の参加者から「自社でも取りみを始めたいと思った」「テレワークでの障害者雇用に可能性を感じた」などの感想をいただきました。
また7月には、地域を問わず優秀な障害者人材を採用したい企業と、はたらく意志と能力があるものの地元では就業機会を得られない地方在住の障害者を支援する「就職合同説明会」を、福岡県と高知県で実施しました。
来場した障害者は2県で約200名、1回あたりの来場数は昨年実施した前回から1.5倍となりました。障害種別では福岡県・高知県ともに精神障害が最も多く(4割以上)、次いで身体障害、またその他の難病の方も多く参加いただきました。
総務庶務から人事業務(採用業務や給与計算など)をはじめ、WEB 開発、システムエンジニア、プログラマーといった専門領域の業務まで、障害者雇用領域としては比較的難易度の高い業務の求人も多かったのですが、30%近くの方から応募があり、うち半数以上が書類選考を通過する結果となりました。
参加した企業の従業員規模や業種は様々ですが、企業規模の大小やブランド力、給与額といった要素は、障害者が求人応募する上ではほとんど左右されないようです。障害者が企業を選ぶ際に重視する条件としては、仕事の難易度、評価制度や昇給の可能性があるか否か、短時間勤務からスタート可能か、業務サポート方法や健康への配慮有無、業務習得やスキル向上のための教育・訓練の機会があるか・・・などで、それらが求人票に明記されていることが重要です。
当社は、障害者の在宅勤務は今後の障害者雇用拡大を見据えた効果的な取り組みの一つと考えています。中でも、簡単なPC作業を担う人材だけでなく、一定以上の職務能力を持つ人材の母集団形成も十分可能であることも、当社の取り組みからわかっています。これは都市部で「売り手市場化」し採用難易度が増す中、一定以上の職務経歴と業務スキルのある障害者を採用したい企業にとって、今後さらに有効な採用施策となると考えています。
在宅勤務の雇用事例
それでは、実際にどのような方が在宅勤務を希望し、就業しているのでしょうか。当社がこれまでご支援してきた方と、当社ではたらく在宅勤務社員の事例を紹介します。
1. パーソルダイバースでの在宅雇用
当社で、在宅勤務ではたらく社員の例をご紹介します。
当社では筋痛性脳脊髄炎という難病を抱える社員がおり、リモートワーク用ロボットを活用して就業しています。
筋痛性脳脊髄炎は日常生活のささいな動作でも体力を大幅に消耗し、睡眠障害、頭痛や筋肉痛、思考力や集中力の低下、筋力低下などの症状が長期にわたって持続します。そのためオフィスに通勤することができず、在宅で勤務しています。
この社員は現在、週4日・1日3時間、自宅から卓上のリモートワーク用ロボットを使って、業績管理や支払い申請のアシスタント業務に従事しています。ロボットを使うことで、ミーティングの参加やオフィスにいるメンバーと円滑にコミュニケーションをとることができています。
この社員にとっては、筋痛性脳脊髄炎という難病を抱えていても就業機会を得られたことが大きく、また会社にとっては既存社員の「在宅勤務の障害者とはたらく」ことの意識や理解が広まることに繋がりました。
リモートワーク用ロボットを使って
オフィスにいる社員と業務内容を確認する
また、障害のある社員の在宅勤務に取り組んだことがきっかけで、障害のない社員の完全在宅勤務も可能になりました。
家族の地方転勤を機に退職を考えていたある女性社員は、現在、自宅のある仙台から就業を続けています。遠隔操作で移動可能なリモートワーク用ロボットを使い、オフィスにいる上司や同僚とコミュニケーションを図りながら、オフィスに在籍していた時とほぼ同じ業務に従事しています。
当初は障害のある社員を雇用するために取り組んだ在宅雇用制度が、障害のない一般社員の完全在宅雇用導入に繋がることとなったのです。
在宅雇用は、障害の有無だけでなく、はたらく上で支障や制限のあるすべての従業員にとって、就業機会を提供する「選択肢」になります。そしてそれは、障害者の就業定着だけでなく、企業文化や制度を見直すきっかけになると考えています。
在宅雇用希望者が求めること
在宅勤務にあたり、障害者はどのようなことを求めているのでしょうか。下のグラフは、先に紹介した福岡県と高知県で実施した就職合同就職説明会に参加した方(障害者本人と支援者)に対し、「仕事を継続するために重視すること」について聞いたものです。
仕事を維持するために最も重視すること<支援者・被支援者>
出典:パーソルダイバース(旧:パーソルチャレンジ)「障がいのある人のための就職合同説明会」参加者アンケート
有効回答数:
・福岡:支援者25名、被支援者39名
・高知:支援者23名、被支援者43名
設問:
<支援者>被支援者様が就職した後、仕事を継続するために最も重視することはなんだと思われますか?(3つまでお答えください)
<被支援者>あなたが就職した後、仕事を継続するために重視することはなんですか?(3つまでお答えください)
障害者を含む被支援者が最も重視するのは「職場の雰囲気・人間関係」であると答えています。次いで「自分の障害に対する適切な配慮が継続的に提供されること」が高くなっています。
いずれも在宅・オフィス勤務に関わらず就業継続にあたって重要な要素ですが、特に在宅勤務の場合は一人で作業し、メンバーと顔を合わせる機会が少ないため、コミュニケーションの機会を積極的につくることが大切です。TV会議システムなどのコミュニケーションツールを活用して朝礼・夕礼や報告・連絡・相談を頻繁に行うなど、疎外感を感じることなく「チーム」としてはたらく意識を醸成するようにしましょう。
在宅勤務の障害者を雇用する企業への助成金
在宅で就業する障害者を雇用する企業に対する助成金を紹介します。
特定求職者雇用開発助成金
ハローワーク等の紹介により、就職困難者を継続して雇い入れを行う事業主に対して助成される。対象期間は1年~3年で支給額は30万円~240万円。障害の程度により支給額が異なる。
障害者作業施設設置等助成金
雇用開始または継続する障害者の就労上の課題を克服するために、配慮された作業施設の設置及び整備を行う事業主に対して助成される。作業施設等の設置・整備に要する費用に2/3を乗じた額が支給。※限度額あり
障害者介助等助成金(職場介助者の配置又は委嘱助成金)
障害者のために職場介助者の配置・委嘱を継続して行う事業主に対して助成される。支給対象費用に3/4を乗じた額が支給。※年間限度額あり
障害者介助等助成金(職業コンサルタントの配置又は委嘱助成金)
重度身体障害者を5人以上雇用する事業主が、雇用管理のために必要な職業コンサルタントを配置・委嘱する場合に発生する費用に対して助成される。支給額は助成率3/4。限度額は配置の場合1人につき15万円/月。委嘱の場合1回1万、1人につき150万円/年。
障害者介助等助成金(在宅勤務コーディネーターの配置又は委嘱助成金)
在宅勤務の障害者を雇用する事業主が、雇用・業務管理及び、制度の設計や就業規則などの整備のために必要な在宅勤務コーディネーターを配置・委嘱する場合に、必要な費用の一部を助成される。支給額は、助成率3/4。限度額は、配置の場合障害者1人あたり月5万円(コーディネーター1人あたり月25万円まで)、委嘱の場合障害者1人あたり1回3千円(コーディネーター1人あたり年225万円まで)
まとめ:在宅雇用にあたって最初に取り組むこと
最後に、在宅勤務者の雇用をはじめるにあたってまず取り組むべきことをまとめました。
1. 業務や採用要件を明確にしておく
オフィスで雇用する場合と同じく在宅勤務希望者の面接を行う前に、まずは業務を用意し、自社が求める採用要件等を明確にしておきましょう。求める能力とマッチしているかどうか、自身の障害を受け止め自己管理がしっかりできていることに加え、基本的なPCスキルがあること、コミュニケーションを使った意思疎通が取れることなども、採用の基準となるでしょう。
2. 社内に取り組み姿勢や方針を周知・理解させる
障害者の在宅勤務の取り組みを始める際には、社内方針を社内に周知する必要があります。導入の意図や業務の進め方などについては、研修や勉強会を通じて理解することから始めましょう。
在宅勤務を障害者だけが利用できる制度にしてしまうと、会社全体に十分なメリットが出ない可能性があるため、多くの社員が利用できる制度を目指して準備を進めると良いでしょう。
3.トライアルで雇用してみる
他社の事例を参考にしながら、まずはトライアルで雇用を進めるのもよいでしょう。在宅勤務のルールや制度、システム、ツールが準備できたところでトライアルを行えば、導入においての課題を洗い出し、本運用に向けて対策を練ることができます。また、本運用の前にトライアルしておくことで、関係者の不安を取り除き、安心して在宅勤務が開始できる態勢を整える効果も期待できます。
4.ハローワークや、在宅雇用のノウハウを持っている企業に相談する
在宅雇用を目指し始めてみると「在宅雇用の準備を進めているが分からない事が出てきた」「雇用を始めたが上手くいかない」など、雇用前にも雇用後にも問題や課題が出てくることがあります。そのような時は、在宅勤務のノウハウを持っている業者やハローワークに相談するようにしましょう。
パーソルダイバースでは、採用にあたっての人材確保や説明会を行っています。各障害に専門のキャリアアドバイザーがいるため、企業と障害のある方のマッチングがよりスムーズに行えます。詳しくはこちらをご覧ください。