新型コロナウイルス感染拡大の影響や法定雇用率の引き上げに向けた雇用拡大の動きを受け、障害者雇用領域でもテレワークの導入・活用が進んでいます。その一方で、「テレワークに適した人材要件を定めるのが難しい」「母集団と質を確保しにくい」といった課題を感じている企業も少なくないようです。そこで今回は、テレワークではたらく障害者を採用する際の採用要件設定や母集団形成のポイントを詳しく紹介します。
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障害のあるテレワーク人材の採用における主な課題
障害のあるテレワーク人材の採用に取り組む企業には、どのような課題があるのでしょうか。採用における主な課題を紹介します。
テレワークに対する先入観や誤解から、採用要件がわからない
これから障害者のテレワーク雇用をはじめる企業から多く聞かれるのが、テレワークに適した人材要件がわからないという課題です。採用にあたっては、必要なスキルや職務能力を明確にする必要がありますが、障害者がテレワークではたらくことに対する偏った先入観や不安から、採用要件が設定できないという課題や、採用ターゲットを狭めてしまう企業も見られます。
企業側に見られる、障害者のテレワーク雇用に対する先入観
- 「障害者にテレワークは無理。仕事がなく、障害ケアやマネジメントもできない」
- 「障害者は一人でははたらけないのではないか?」
- 「精神障害は不安定なのでテレワークは難しいのではないか?」
- 「テレワークでは個人情報などの業務上の機密保持が困難」
- 「法令遵守だけでなく、社会的ルールや就業規則を遵守させるには、目の届くところでの管理が前提」
- 「障害者のテレワーク雇用に必要な機器やシステムがわからない」
テレワークや障害者雇用に対する先入観や誤解をなくし、正しい理解を持つことが大切です。
求人応募の数と質の確保が難しい
障害のあるテレワーク人材の採用母集団形成時に、応募の「数」と「質」に課題を抱える状況も多く見られます。前述した企業側のテレワークに対する偏った先入観に加え、障害者本人や支援者、家族など周囲の理解が十分でなく、応募数を確保できないケースが見られます。これとは逆に、「数」は集まっても、求める要件にマッチした人材が少ないという「質」の課題も少なくありません。
障害者本人や支援者、家族など周囲の人による、障害者のテレワークに対する先入観
〈障害者本人〉
- 自宅で自分の都合のよい時間に自由にはたらける
- 人とのコミュニケーションが苦手だが、テレワークなら大丈夫だろう
〈支援者や保護者〉
- 内職のような仕事ならできそう
- 通勤する必要がないから楽そう
- 家で一人きりで仕事をするのは孤独で、病状の悪化を招くのではないか(特に精神障害)
- 障害者を在宅で勤務させるなんてありえない
テレワークではたらく障害者に必要な要件とは
自社のテレワークに適した人材であるかの判断基準となる、テレワークではたらく障害者に必要な要件について解説します。
テレワークではたらく準備と社会性、自発的なコミュニケーションができること
テレワークではたらく障害者も、従来のオフィス勤務者と同様に「自社の企業活動に貢献してくれる人材」「長く安定的にはたらき続けられる人材」であることが求められます。そのためには「職業準備性」が備わっていること…障害に対する自己理解や、はたらく意欲、テレワークではたらくための準備ができていること…が重要です。
また、テレワークであっても、同僚や上司などと一緒に仕事をするため、チームではたらくための「協調性」や「素直さ」「正直さ」といった社会性が欠かせません。さらに、対面であれば顔色や様子から周囲が変化に気づくことができますが、テレワークの場合は「業務上の不明点を質問できる」「体調が悪いときに相談できる」など、自発的なコミュニケーションが求められます。
PCスキルはどこまで必要か?
テレワークには高度なパソコンスキルが必要だと考え、さまざまな資格取得に向けて訓練している障害者も少なくありません。業務内容によっては高いスキルや経験、資格が必要になるケースもありますが、障害者雇用で多くみられる事務系職種に従事する場合、最低限必要な要件は下記の4点です。
- Web会議ツールなどのコミュニケーションツールを使うことに抵抗がない
- 報告・連絡・相談に適切な手段を選択できる(チャット、メール、電話、Web会議など)
- 適切な方法でファイルの受け渡しができる
- パソコンやインターネット接続などのトラブルが起きたときに落ち着いて対処できる
職務能力は業務で決まる
テレワークでどのような仕事に従事させるかによって、必要な業務スキルや職務能力が異なります。そのため、採用要件を定めるには、まず業務の創出・切り出しから着手することが重要です。具体的には、「業務のみえる化」や「業務フローの改善」という2つの方法で、業務の創出・切り出しを行います。
【業務創出・切り出しについてもっと詳しく!】
テレワークに適した業務創出・切り出しの方法のポイントを解説します。
テレワーク人材の採用要件と母集団形成手法のポイントは「分けて考える」こと
障害者の職務能力は人によって異なります。そのため、障害者を一括りにして考えるのではなく、職務能力をはたらく意欲によって、分けて考えることが大切です。
下の図は、職務能力や配慮の内容、はたらく意欲によって、障害者を3つの層に分けたものです。
- 第1層:はたらく意欲や職務能力が高い層
- 第2層:一定の配慮が必要だが、生産性に貢献可能な層
- 第3層:職務能力に制約があり、障害配慮が重視される層
テレワーク雇用の主なターゲットは「第1層」と「第2層」の人材です。一方、「第3層」の人材は、報告・連絡・相談などのコミュニケーションや健康管理など、一定の自律性が求められるテレワークでは難しい場合が多くなります。
ここからは「第1層」「第2層」の傾向と母集団形成について解説します。
第1層の傾向と母集団形成
第1層に分類される障害者は、「就業中だが転職を考えている障害者」または「都市圏の一般企業ではたらいた経験があり、病気や障害によって離職した後に再就職を目指している障害者」が多いことが特徴です。就職・転職活動では、支援機関などの福祉サービスを利用するより、ハローワークや人材紹介会社に登録して活動する方法を選択する人が多くなっています。そのため、第1層の人材を採用するためには、就職意欲に応える求人票を作成してハローワークに公開求人を出すか、障害者専門のエージェントを活用すると良いでしょう。
第2層の傾向と母集団形成
第2層には、「就労移行支援や就労継続支援A型・B型を利用しながら一般就職を目指している障害者」または「生活相談支援などの福祉サービスを利用している障害者」が多いという特徴があります。第1層と第3層の中間層である第2層に該当する障害者が多数を占めることから、法定雇用率達成のためにまとまった人数を雇用したい企業にとって有効な母集団層と考えられています。
第1層より業務難易度や採用要件が下がるため、ハローワークに求人票を出すと応募が集まりやすい一方、応募の「数」は確保できても「質」の面でミスマッチが起こることがあります。応募数が殺到することを防ぐためには、ハローワークの非公開求人を活用することが効果的だと考えられます。また、テレワーク人材の紹介を行っている業者を活用し、採用要件に合致した人材を中心に紹介してもらうことも有効でしょう。さらに、採用したい地域で雇用支援を行ってくれる業者を活用することで、その地域の支援機関の開拓や連携強化、自社の認知理解を深めることができる可能性もあります。
テレワーク人材採用の更なるポイント
テレワーク人材の採用を成功させるために、さらに押さえておきたいポイントを2つ紹介します。
オンラインセミナーや説明会、就労前研修を実施する
テレワークへの適性を判断する方法として、採用活動を開始する前に、本人や支援者を対象としたセミナーや説明会、応募希望者を対象にした就労前準備研修を実施すると良いでしょう。現地集合型だけではなくオンライン型のセミナーも開催することで、「はたらく本人がテレワークを正しく理解しているか」「入社後にイメージしているはたらき方とギャップはないか」などを確認できます。
当社がご支援した企業で、ある地域で現地集合型とオンライン型のセミナーを開催したところ、オンラインでの参加人数が減ってしまったケースがありました。しかし、オンライン開催によって、参加者が「テレワークではたらくためのITリテラシーがある障害者や支援者」「テレワークを本当に必要としている就労意欲の高い障害者」に絞られたため、結果として、自社が求める人材に効率良く出会えることに繋がりました。
同じ地域で継続して採用活動を行う
テレワーク雇用は新しいはたらき方のため、就労移行支援や就労継続支援A型・B型では、在宅訓練や支援があまり行われていないのが現状です。また、就労支援機関側の「テレワークでのはたらき方」に対する理解が十分でないことから、企業が求める人材像と就労支援機関の訓練内容とにギャップが生じているケースもよく見られます。このギャップを埋めるためには、同じ地域で採用活動を継続的に行うことが有効です。地域で雇用支援を行う業者を活用しながら、特定の地域で中長期的に採用活動を続けることで、テレワークのはたらき方や自社が求める人材への理解が広がり、母集団形成や採用の成功に繋がるでしょう。
まとめ
障害のあるテレワーク人材の採用を成功させるためには、テレワークというはたらき方に対する正しい理解を深めると同時に、採用要件を明確にしていきます。
障害者がテレワークではたらく上で大切なことは、「職業準備性」と「自発的なコミュニケーション」が備わっていることです。この2点に加えて、業務に必要なPCスキルや職務能力を鑑みて、採用ターゲットを定めます。
また、障害者を一括りにして考えず、職務能力や必要な配慮、はたらく意向によって分けて考えること、その上で、自社のテレワークではたらける障害者が誰か、その障害者を集めるにはどのような求人施策が有効かを見極めることが大切です。
当社パーソルダイバースでも、障害者のテレワーク雇用を活用したい企業様向けに、人材の紹介や採用活動、テレワーク雇用体制の構築などの支援を行っていますので、ご興味のある企業様はお問い合わせください。