作成日:2026年7月10日

法定雇用率の引き上げに伴い、多くの企業で障害者雇用のさらなる拡大が求められています。その一方、雇用している障害者人材の定着・安定就労における課題も増えています。
特に、雇用した障害者社員が体調不良などで休職となるケースや、復職後も休職を繰り返す、または退職に至ることも少なくありません。
そこで本記事では、「障害者の休職リスク」の背景や企業への影響、休職対応の難しさを紐解くとともに、雇用現場の負担を抑えながら、高い定着率を実現するための「リワーク(復職支援)」の活用法について、パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」でリワークプログラムを提供する担当者が解説します。

パーソルダイバース株式会社
キャリア開発支援事業部 マネジャー
田中 洋史

高校卒業後、人材派遣会社やNPO法人にてひきこもり自立支援活動にも携わったのち、2019年パーソルダイバースへ入社。就労移行支援事業所「ミラトレ」の支援員やセンター長を経て、現在は首都圏のエリアマネジャーとして従事。復職支援サービス「ミラトレリワーク」を立ち上げ、個人や法人企業の休職課題解決に注力している。

目次

なぜ今、障害者雇用の「休職」リスクが急増しているのか?

企業の障害者雇用が直面する2つの変化

障害者雇用市場はいま、2つの大きな変化が起きています。企業はこれまでの採用・管理手法を見直す必要が生まれています。

一つは 法定雇用率引き上げに伴う「採用対象の拡大」が必要となっていることです。
民間企業に義務付けられる法定雇用率は段階的に上昇しており、2026年7月以降は2.7%、さらに将来は3.0%への引き上げも視野に入れ議論が進んでいます。企業はこれまで以上にスピード感を持って雇用数を増やさなければならず、これまで自社で雇用した実績がない障害特性や、対象としてこなかった層へと、採用対象を広げる必要があります。

もう一つは「精神・発達障害者」の採用、雇用定着推進が求められていることです。
ハローワークにおける新規求職者数の推移を見ると、身体障害者の求職件数は横ばい、または減少傾向にある一方、精神障害者や発達障害者の求職数が急増しています。はたらく身体障害者の高齢化による退職もあり、今後、企業が雇用率を達成するためには、精神・発達障害者の採用と雇用定着を積極的に進める必要があります。

採用対象を広げ、雇用数が急激に増えると、それに比例して潜在的な休職リスクを抱える人材の数も増加する可能性が高まります。今後、企業は安定就業のための雇用管理と、休職が発生した場合の適切な対応により、定着率を高めていくことが大きな課題になるでしょう。

障害者雇用ノウハウの不足が休職リスクを生む

ここで大きな問題となるのが、企業の「雇用ノウハウ不足」による定着面の課題です。
精神・発達障害者の急速な採用拡大に社内の体制構築が追いつかず、定着が進まないという課題を多く目にします。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調べでは、精神障害者の入社1年後の職場定着率は他の障害と比べて低く、50%を下回っています。特性理解や必要な配慮が届かない、企業側に受け入れやフォローのノウハウが蓄積されていない・・・こうしたことが、休職・離職の要因となっています。
しっかりとした雇用の土台(定着・安定就労を支える環境、社内制度、ノウハウの蓄積)を築くこと、休職が発生した際の対応体制と、復職を支援する仕組み(リワーク)の整備が強く求められています。

障害者の復職成功を阻む「3つの壁」と企業(人事・現場)の本当の負担

障害のある社員が心身の不調などで休職に至った場合、さまざまな対応が求められますが、負担も少なくありません。ここでは、休職者の復職を阻む3つの負担について、具体的な数値や事例をもとに解説します。

金銭コストの壁:障害者の休職で発生する金銭的な負担は?

休職者が発生すると、目に見えない大きな金銭コストが発生することになります。
一例として、30代後半・年収約600万円の社員が6ヶ月間休職した場合、どのくらいのコスト負担が発生するのか、内閣府 男女共同参画局の試算をベースに見てみましょう。

休職が発生すると、周囲の社員が残業などでその業務を手伝う必要が出てきます。その残業代や、各種手続きに要するコスト負担は、6ヶ月の休職期間中で約224万円と算出されています。さらに、休職前のパフォーマンス低下期間や、復職後の慣らし勤務期間の効率低下にも、残業対応などが発生しますので、それらを合わせると全体で約422万円もの金銭的コスト(機会損失)が発生するとされています。
さらに、復職できずにそのまま退職(離職)してしまった場合、代替人材の採用コスト(1人あたり100万円前後)や、再び一から行う教育コストが上乗せされるということになります。
休職期間が長引いたり休職を繰り返す場合には、さらにコストがかさむことにもなります。

現場の負担:現場の業務増加と精神的負荷

金銭的なコストと同じく、配属現場の雇用管理者(上長や同僚)にかかる心理的・時間的負担も発生します。
休職者が発生すると、本人と上長、人事、産業医と、さまざまなコミュニケーションラインが発生します。雇用管理者としては、業務調整や代理対応、休職者への定期的な状況確認、人事との連携や復職判断など、慣れない対応を求められることになります。見通しの立たない休職対応は職場全体の負荷を増大させ、モチベーション低下を招く要因にもなります。

再発の壁: なぜ「主治医の診断書(復職許可)」だけでは、再休職のリスクがあるのか

復職可否の判断と見極めの難しさが、復職後の安定就労・定着の壁となっています。その例として、「主治医が復職可能と診断書に書いているから」という理由だけで、職場復帰を急いでしまう、ということがあります。

医師や医療機関では、主に「朝起きて、食事ができ、散歩に行けるなど、日常生活が安定して送れるか」を復職の判断基準としています。

一方、企業は、決められた始業時間に毎日通勤し、社内の人間関係の中で、与えられた業務を遂行できるかどうか?が重要になります。

医療上の「回復」と、ビジネス上の「業務遂行能力」は必ずしもイコールではなく、このギャップを埋めないまま復職させると、本人は「会社が求めるレベルに追いつかない」と焦り、現場は「思ったより動けない」と困惑し、結果として数週間〜数ヶ月で再び体調を崩し、再休職に至ってしまうケースがあるのです。

障害者が休職した際における「企業対応」の基本5ステップ

厚生労働省では、実際に社内で休職者が発生した際の、企業として行うべき実務対応についてまとめていますので、その内容を紹介します。

ステップ1:休職開始時のケアと連絡体制の構築

本人から診断書が提出されたら、速やかに休職手続きを行います。この際、「安心して療養に専念してもらうこと」を伝え、休職中の会社の窓口を人事に一本化し、定期連絡の頻度や方法をあらかじめ決めておきます。

ステップ2:主治医による職場復帰可否の判断(診断書の受領)

本人から主治医による「就業可能」の診断書が提出されます。ただし、この段階ではまだ日常生活レベルの回復である可能性を念頭に置き、診断書だけで判断せず、次のステップへ進みます。

ステップ3:職場復帰支援プランの作成と産業医面談

産業医等による面談を実施し、主治医の意見も参考にしながら、「本当に業務に耐えられるか」を評価します。人事、産業医、現場管理者が連携し、具体的な「復職支援プラン(勤務時間、配慮事項、業務内容の軽減など)」を策定します。

ステップ4:会社による最終的な職場復帰の決定

策定したプランと、リワークプログラムの通所実績(利用している場合)など客観的なデータをもとに、会社が最終的な復職を判断します。

ステップ5: 復職後のフォローアップと就業制限の緩和

復職後、最初は「段階的な勤務時間」からスタートします。定期的な面談(人事、現場、外部の定着支援員)を行い、状況に応じて就業制限を緩和、または再度制限をかけるなどの微調整を数ヶ月〜1年かけて行います。

企業はこのようなフローで対応することが望ましいですが、障害者の復職対応は、人事と現場のみで完結させるには限界があります。そこで、これらの課題を解決する仕組みとして注目されているのが「障害者のリワーク支援(復職支援)」です。

企業の負担を軽減する「リワーク支援(復職支援)」という選択肢

ここでは、企業単体での対応が難しい休職、復職対応について、専門の事業者が支援を行う「障害者のリワーク支援」について、その支援内容と特徴、効果や実例を紹介します。

リワーク支援(復職支援)とは?内容とメリットを紹介

障害者のリワーク支援とは、主にうつ病や適応障害などのメンタル不調によって休職している方に対し、スムーズかつ安定した職場復帰を目指して提供される専門的な支援プログラムです。

主な支援内容は以下の通りです。

■生活リズムの立て直し:
決まった時間に通所することで、通勤・勤務に耐えうる体力を回復させる。

■模擬業務によるビジネススキルのリハビリ:
軽作業やPC作業、グループワークを通じて、集中力や職場でのコミュニケーション能力を取り戻す。

■自己理解とストレス対処法の習得:
なぜ自分が休職に至ってしまったのかを振り返り、復職後にストレスを溜め込まないためのセルフケア術を身につける。

前章までで、企業自身による休職者の対応の難しい点として、復職後の再休職率が高いこと、休職者対応コストがかさむことをご説明しましたが、リワーク支援を利用することで、再発防止先の整理や段階的かつ集団による通所訓練、訓練状況を含めて客観的に復職判断を行うことができるというメリットがあります。
参加者にとっては、プログラムに参加できているか?通所できているか?が体調・復調の指標となり、主観ではなく客観的な視点で自己理解を深めることができます。
配属先現場にとっては、必要な対応を専門的な支援に委ねることで、職場エンゲージメントやコミュニケーション負荷を最小限にすることができるでしょう。

リワーク支援における就労継続率・・・再休職リスクを抑える

リワーク支援を利用するか否かで、復職後の「定着率」に大きな差が出ます。
精神疾患による休職者を対象とした調査データによると、リワークプログラムに参加せずに復職した人の1年後の就労継続率が50.5%であるのに対し、リワークプログラムに参加してから復職した人の1年後就労継続率は83.2%に達しています。
また、リワークプログラム参加者に比べて、参加しなかった人が再び休職するリスクは約2.9倍にものぼるというデータも出ています。こうした数値からも、リワークプログラムによる復職後の就業継続効果がうかがえます。

出典:

・うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究(リワークプログラム利用者と非利用者の就労予後に関する比較効果研究 五十嵐良雄、大木洋子)

・大うつ病エピソード後に職場復帰した日本の労働者における追加の病気休暇のリスク要因(BMJ Open. 2019, 9(9)Hori, H. ; Katsuki, A. ; Atake, K. et al )

・リワークプログラム利用者の復職後 1 年間の就労継続性に関する大規模調査(精神障害者の就労移行を促進するための研究 五十嵐 良雄、大木 洋子、林 俊秀 )

【比較】知っておきたい3つのリワーク運営機関の違い

では、リワーク支援はどのような種類があるのでしょうか。主に3つの機関で運営されており、それぞれ特徴が異なります。

地域の障害者職業センターは各都道府県に1つずつ拠点があり、職種に応じた模擬業務、コミュニケーション等が行われます。利用が無料であること、障害者支援事業者との連携があることが特徴ですが、その一方で、数が少なく人により立地的に通所が難しいケースや、通所まで待機となることがあります。企業との連携は行っていますが、復職後の定着支援は状況に応じて実施しています。

医療機関による医療リワークは主治医がリワークの必要性を認めた患者 障害福祉サービス受給者証を持つ休職者を対象にしています。認知行動療法、集団精神療法などの医療的アプローチを中心としたプログラムを実施しています。医療費による提供となっており、各種保険、自立支援医療の対象になっています。主治医との接続や、デイケアに併設されていることも多くスムーズな通所につながりやすいメリットがありますが、企業での就業を前提としたプログラムはなく、企業との連携や、長期定着フォローは薄い傾向があります。

就労移行支援事業所によるリワーク支援は、各事業所がその特色やノウハウを活かし、事務職等を想定したPC作業、ビジネス模擬業務、ストレス管理などを行っています。費用は前年の世帯収入を基に決定されますが、多くは無料で利用可能です。また、企業連携や就業を前提とした支援を得意としており、
企業・現場への定期訪問、復職後の定着支援(最長3年間など)が手厚いのが特徴です。
障害者雇用における定着に不安がある場合、復職後の環境調整や長期の定期面談まで並走してくれる就労移行支援事業所が運営するリワークプログラムが、企業のノウハウ不足を補う上で有効と言えそうです。ただし、支援の質が均質でなく、事業所によってはリワークの経験が少ないところもありますので、よく見極めて選定する必要があるでしょう。

パーソルダイバース「ミラトレリワーク」の支援事例:模擬業務を経て、企業・本人のギャップを埋めて定着実現

パーソルダイバースでも、運営する就労移行支援事業所「ミラトレ」にて、精神・発達障害のある方への復職を支援するリワークプログラムを提供しています。
自身が特例子会社として、これまで培った豊富な就労支援実績に基づくビジネス模擬業務やストレスマネジメント講義を通じて、休職者の「業務適応力」を客観的に評価し、人事担当者様へ詳細なレポートをご提供いたします。復職後も、専門の定着支援員が定期的に貴社を訪問し、現場での面談や環境調整をサポートするため、社内に障害者雇用のノウハウが少なくても、職場復帰を進めていただくことが可能です。

ミラトレリワークでの支援実例として、製造業の人事担当者Aさんの会社ではたらく発達障害と適応障害のある社員が休職された際にご支援した実例を紹介します。

Aさんの会社では、復職を希望した際、条件として「外部の就労移行支援事業所が実施するリワークプログラムに3ヶ月間通所すること」を提示しました。

休職された方はプログラムを受ける中で、「自分はマルチタスクになるとパニックになりやすい」「体調が崩れる前には、必ず睡眠不足になる」という自身の特性とストレスサインを客観的に理解することができました。
ミラトレリワークからは、人事担当のAさんに対し、「単一の事務作業であれば、集中して高い成果を出せる」「テキストで指示を出すとスムーズに業務ができる」という、模擬業務を通じたレポートを提供しました。

このレポートをもとに、Aさんは現場の受け入れ環境を調整。ご本人の復職後は作業マニュアルを徹底し、定期的な三者面談を実施した結果、復職から1年が経過した今も、安定してはたらき続けることができています。

第三者(専門家)の目で「はたらける状態か」を見極め、職場とのギャップを埋めるための配慮事項(レポート)を事前に手に入れたことが、復職成功の要因と言えるのではないでしょうか。

【まとめ】リワーク支援を活用し、休職対応のリスクに備える

2026年以降の法定雇用率上昇に対応し、障害者雇用を成功させるためには、採用の拡大と同時に、休職・離職対応による定着推進が不可欠です。

休職者の発生による雇用の負担は少なくありません。しかし、専門機関によるリワーク支援を活用することで、企業は復職ノウハウ不足を補いながら、確実性の高い復職・定着ルートを確立することができます。
雇用推進のために、外部の専門機関との連携体制を整え、雇用安定の土台を作っていくことをおすすめします。