2018年4月より、精神障害者が障害者雇用義務の対象に加えられてから、精神障害者の雇用は年々増えています。しかし一方で、職場定着率が他の障害より低いことや、障害に対する偏った見方や誤解、正しい理解が得られないことから雇用が進まない課題も見受けられます。
そこでこの記事では、精神障害の特性や職種、仕事内容、必要な配慮について紹介いたします。
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精神障害者の雇用状況
障害者雇用の現状
2018年4月より、精神障害者が雇用算定の対象に加わりました。
厚生労働省が発表した「令和5年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」によると、精神障害者の就職件数は 対前年度比12.1%増となる60,598 件でした。
新規求職申込件数の増加とともに、法定雇用率の引上げ等を見据えて障害者雇用に取り組む企業が増えたこと等により、求人数や就職件数が増加したことが影響していると考えられます。
しかし、精神障害者の職場定着率は他の障害と比べて低くなっています。
出典:障害別にみた職場定着率の推移と構成割合(2017年4月障害者の就業状況等に関する調査研究 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センターより)
厚生労働省が発表した「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、精神障害者の平均勤続年数は5年3月で、これは身体障害者(12年2月)や知的障害者(7年5月)と比べて最も低くなっています。
障害者雇用の今後
厚生労働省は、企業に義務付けられている障害者の法定雇用率を、2026年に2.7%へ引き上げる方針を決定しています。
また、求職者の側から見ると、精神障害や若年層の発達障害者は今後も増加すると見られています。これらを背景に、障害者の多様な就労ニーズを踏まえたはたらき方の推進が引き続き必要となるでしょう。
現在、週20時間以上30時間未満の短時間ではたらく精神障害者の雇用促進を目的とした「精神障害者の算定特例」が延長されているほか、週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度の身体障害者・知的障害者及び精神障害者も実雇用率の算定対象に加えることになりました。
今後も、精神障害者雇用促進の傾向は進むでしょう。
精神障害とは何か?
精神障害とはどのような障害なのでしょうか?
「精神障害」と聞くと、「うつ」や「統合失調症」など、ニュースなどでよく耳にする程度しか知らないという人や、「安定して働けないのではないか?」「任せる仕事がないのでは?」といった見方もあるのではないかと思います。
しかし、その認識は正しくありません。精神障害には実に多様な障害があり、障害がある方でも整った環境下で特性に合った業務をアサインすれば、安定した就業が可能です。
精神障害者の雇用について理解するため、まずは「精神障害とはどのようなものなのか」について正しい知識を身に着けていきましょう。
精神障害の種類
精神障害とされる障害には、以下のようなものが挙げられます。
統合失調症
幻覚や妄想といった症状が特徴的な精神疾患。以前は「精神分裂病」と呼ばれていたが、2002年8月に病名変更された
双極性障害
躁うつ病とも呼ばれ、気分が高まっている躁状態と、気分が落ち込むうつ状態を繰り返す精神疾患
気分障害(うつ病)
ストレスや病気など、様々な要因によって脳のエネルギーが足りなくなり、気分の落ち込みやイライラ、集中力の低下などの機能障害が起こる状態
てんかん
脳の神経細胞によって、突然意識を失うなどの症状(てんかん発作)を引き起こす疾患
不安障害
パニック障害やPTSDなどの、緊張すると発汗や赤面、動悸などが起こり、その不安が大きいことで生活に悪影響を及ぼしてしまう疾患
高次脳機能障害
事故による外傷や脳卒中などにより脳にダメージを受けたことが原因で、失語症や集中力の低下などの症状が起きる疾患
何よりも理解していただきたいのは、疾患の程度や症状は個人によって様々だということです。
障害それぞれの特性を正しく理解することも大事ですが、症状があらわれる状況や頻度、重さには個人差があるため、特性を知っていても雇用の現場では対処しきれないばかりか、その人に合った対処ができていないケースもよく見られます。
精神障害者の雇用におけるポイントは
それでは、雇用定着・活躍を見据えた採用を進めるうえで、押さえておくべきポイントをご紹介します。
求める職業能力との一致
一般求人の場合と変わりませんが、業務に必要な職務能力を持っているかどうかは必ず確認しましょう。本人の職務能力と業務のアンマッチは、就職者にとっても企業にとっても望ましくないので、面接や実習、必要に応じた試験・テストを通して確認しましょう。
求職者の方自身が、自分の特性を把握・理解した上で、自身のできること・できないことを分かっているかどうかも確認しなければなりません。また、多少の失敗があったとしても、それ克服しながらはたらき続ける意思を持っているかどうかも重要です。
安定就労要素
「安定就労要素」も、職務能力と同様に重要なポイントです。安定就労要素とは、障害者自身に備わる以下のような習慣・特徴です。
- 自身の障害を理解し、受け入れられている
- 通院・服薬などの自己管理がしっかりできる
- 必要なサポートを得ながら前向きに働きたいと考えている
上記のような要素が、求職者自身にあるかどうかを確認しておきましょう。同時に生活基盤が安定し、行政や福祉機関と適切な連携ができているかどうかも重要です。
安定就労要素も十分に備わっていないと、職務能力はあっても長期的に継続した就労が難しい場合もあります。職務能力だけでなく、上記の安定就労要素も合わせて採用を検討しましょう。
精神障害者の職場定着に必要な配慮は?
精神障害者が定着している企業は、職場が相談しやすい雰囲気であることや、人事や上司との面談を定期的に実施している傾向があります。また、業務の難易度が適切かということも、職場定着のポイントと言われています。
精神障害者に対する雇用上の一般的な配慮について、いくつか紹介します。
入社当初はこまめに休憩を取る
入社当初は、どんな方でも職場で緊張してしまうものです。休憩時間の過ごし方もどうして良いかわからず、上手く休憩を取れない方もいるでしょう。このため、入社当初は1時間に5~10分程度の小まめに休憩を取ってもらうようにしましょう。
安心感を与える
入社当初はストレスに敏感になっている方も多いと思われます。入社直後は“最初は失敗してもいいよ”と安心感を持たせてあげましょう。結果的に自信がつき、本人の能力を発揮させることにつながります。
業務量や業務進捗を確認する
一般的な傾向として、精神疾患は「真面目な人や責任感が強い人ほどなりやすい」と言われています。このような本人の元々の特性と合わせ、不安感が強くなるといった症状があると、過剰に責任を感じたり、完璧に物事をこなしたいと考えたりする気持ちが出てくることがあります。
責任感は業務遂行に必要なものではありますが、その気持ちが過剰になることでオーバーワークに陥り、体調や業務品質に影響が生じることがあります。
このような事態を防ぐためにも、「業務の調整をはかる」「進捗確認を行う」などの配慮をし、適切な業務量であるかを確認しましょう。また体調安定のため、適切な睡眠時間の確保や服薬管理ができているかどうかも確認し、規則正しい生活リズムの維持を促すことも大切です。
体調変動のサインを見逃さない
精神障害の症状は人により大きく異なりますが、体調変動のサインはある程度共通しています。下記のような行動の変化が見られた場合、「頭痛・腹痛」「不眠」「不安感・イライラの強まり」などの症状が出てきているサインかもしれません。
- 業務スピードが低下した(残業時間が大幅に増えた)
- 遅刻当日欠勤することが増えた
- 身だしなみを気にしなくなった
- 表情がくもって見える
- 雑談の頻度が減った
このような行動変化が見られた場合に体調や近況のヒアリングを実施することで、大きな不調につながる前に業務の調整などを行うことができます。
精神障害者の「不安が大きくなる」特性に着目する
代表的な配慮をいくつか紹介しましたが、精神障害のある人と共に働く上で最も大切であり、知っていただきたいことがあります。それは、「精神障害は、人より不安が大きくなる特性がある」ということです。
目に見えない、判断できない、どう対処すべきか分からない、など、一つの不安を感じることで大きくなり、そのことがストレスやメンタル面での不調を大きくすることがあります。
例えば、顧客名簿一覧データをエクセルに入力し、まとめるという業務を行うときに、「数ある名簿からどれから先に手を付けるべきなのか?」「企業名や担当者名の文字が読めない場合はどう対処すればよいのか」「この作業をいつまでに終わらせれば良いのか」「隣に座っている人に質問して良いのか」といったことが分からないとします。そうすると、そのような一つひとつの疑問が不安に変わり、いくつかの不安が絡まって大きくなり、精神状態に影響を及ぼす、といったことに繋がってしまうケースがあるのです。
共にはたらく精神障害者の不安を取り除くには
雇用側、一緒に働く現場においては、「不安」という特性を理解し、その不安を取り除いてあげることが大切です。業務指示やマネジメントや日々のコミュニケーションで、不安に思っていることはないかを把握し、早めに対応することが、安定就業の第一歩です。
- 業務の進め方をマニュアル化する
- 分からない場合は誰に聞けば良いのかを、口頭ではなく文書で明示する
- タスク管理ツールなどを導入し、業務の進捗報告・確認をしやすくする
上記のような対策を行った上で、都度不安に気づくための働きかけを行い、不安に対して速やかに誠実に対処する、といった対応が大切です。
精神障害者が活躍できる業務
データ入力や情報管理、システム開発などのデスクワークや、店舗での接客業など、精神障害のある人が従事できる業務は様々です。中でも、以下のような仕事内容は適しているといえるでしょう。
- ノルマが少ない仕事
- 一人で黙々と進められる業務
- 集団行動を必要としない仕事 など
障害名に関わらず、自分自身で障害を理解・受容し、通院・服薬により自己管理ができている人は、正しい配慮やマネジメントによって様々な仕事を担うことができるのです。
パーソルダイバースでは精神障害のある社員が活躍しています
当社パーソルダイバースは、全社員の2/3が障害のある社員です。また、その半数以上は精神障害のある社員です。それらの社員がデータ入力から名刺管理、人事書類管理や原稿制作など、パーソルグループ各社より受託した200以上の幅広い業務に従事しています。
会社の雇用担当部署、就労現場、支援機関などの外部機関の3者と連携し、安定就労や定着に向けたサポートを行っているほか、不安を与えないようなマネジメントを日々実施しており、成果に対してはチームで取り組むこと、個々の生産性を高めることを目標に活躍しています。その結果、9割以上の高い定着率を実現しています。 このような例は、当社に限らずどのような企業でも実現可能であると考えています。
まとめ:精神障害者の特性を理解して、安定雇用を目指しましょう
本記事では、精神障害者の雇用の現状や今後の見通し、精神障害のある人を雇用する際のポイントなどをご紹介しました。
身体障害や知的障害と同じく、精神障害のある方に対しても障害への理解や配慮を深め、職場への定着のために工夫を凝らしていくことが重要です。
精神障害のある方の採用や定着でお悩みの点があれば、ぜひパーソルダイバースまでお気軽にお問い合わせください。