障害者雇用促進法は、雇用に取り組む意義と企業が守るべき義務が定められています。企業側の義務とは何か?何をすべきなのか?違反した場合の罰則は?…不安に思っている雇用担当者のために、法律の目的や義務の内容、企業側の雇用に関わる3つのポイント、雇用義務を守れなかった場合の罰則、企業担当者がやるべきことをまとめました。
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障害者雇用促進法の概要
障害者雇用促進法は、障害者の職業の安定を図ることを目的とする法律です。障害のある方に対し職業生活における自立を実現するための職業リハビリテーション推進について、また事業主が障害者を雇用する義務をはじめ、差別の禁止や合理的配慮の提供義務等を定めています。
目的と理念、意義
この法律の背景には、全ての国民が障害の有無に関わらず、個人として尊重されること、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現しようというノーマライゼーションの理念があります。そして、職業生活においても、障害者は経済活動を構成する労働者の一員として、本人の意思と能力を発揮して働くことができる機会を確保されることを目的としています。
障害者雇用促進法が義務付けられた背景
日本の障害者雇用促進政策は、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合う「共生社会の実現」の理念のもとで進められてきました。障害者雇用促進法の変遷や、雇用が義務化された社会的背景を紹介します。
1960年「身体障害者雇用促進法」の制定
第二次世界大戦が終わり、日本国内では「傷痍軍人」と呼ばれる戦争での負傷などによる身体障害者の増加が問題となりました。彼らを雇用するための法整備が急務となり、欧州の「法定雇用率方式」を取り入れた身体障害者雇用促進法が制定され、これが現在の障害者雇用促進法の基盤にあたります。
1976年 法定雇用率制度の義務化
その後1976年には、身体障害者雇用促進法が改正されます。法定雇用率の達成は従来義務ではありませんでしたが、この法改正によって法定雇用率が達成すべき義務となりました。また義務化にともない、雇用給付金制度も設けられています。
1998年に知的障害者、2018年に精神障害者が新たに雇用義務の対象に
障害者雇用の対象は、法制化当初は身体障害者のみでしたが、時代の流れに即して拡大が進みました。1987年には法令の名称が「身体障害者雇用促進法」から「障害者雇用促進法」へと変更。その後1998年には知的障害者も雇用義務の対象に含まれ、2018年には発達障害を含む精神障害者も含まれるようになりました。
近年の障害者雇用促進法の改正について
障害者雇用促進法は、障害者の雇用安定を目的として都度改正が行われています。法改正の主な目的は、障害者を雇用する場合に事業者に課されるさまざまな負担の軽減です。先にご紹介した雇用義務の対象拡大にとどまらず、さまざまな助成金制度を設けるなど多くの取り組みが推進されています。
今後もはたらき方の多様化や情勢変化にともない、法令の改正は都度行われていくことが予測できるでしょう。次の項目からは、2010年代における障害者雇用促進法改正にともなう障害者雇用状況の変化について解説します。
日本の障害者雇用政策の歴史については下記の記事でもご紹介しています。
改正後の障害者雇用促進法はこう変わった
障害者雇用促進法はこれまで何度か改正されています。ここでは、現在施行されている改正障害者雇用法について、雇用する企業側に影響する主なポイントを紹介します。
1. 法定雇用率が引き上げ
2024年4月の改正障害者雇用促進法によって、民間企業は2.3%から2.5%へ、さらに26年7月からは2.7%に引き上げられることが決定しています。
引き上げによって、常時雇用する労働者が40人以上の企業に、障害者雇用義務が発生します。26年7月以降は37.5人以上の企業が対象に。これまで雇用義務がなかった企業も、本格的に雇用に取り組む必要があります。
2. 短時間勤務者も雇用率に算入
2024年4月施行の改正障害者雇用促進法によって、これまでは週所定労働時間が10~20時間未満の精神・重度身体・重度知的障害者は法定雇用率の算定対象外とされていましたが、今回の改正で実雇用率に算入することが認められることになりました。
3. 精神障害・発達障害者も雇用義務対象範囲に
発達障害を含む精神障害者について、2016年の改正前までは雇用義務の対象に含まれていませんでした。しかし2018年4月より新たに雇用義務の対象となり、法定雇用率の算定基礎の対象に加えられています。
※雇用“義務”とは、必ず雇用しなければならない、ということではありません。雇用対象となる障害者の範囲に、発達障害を含む精神障害者も新たに加えられた、という意味です。
4. 合理的配慮の提供が義務化
合理的配慮とは、障害者が他の人と平等に生活できるよう、一人ひとりの特性や場面に沿った、過度な負担にならない程度の変更・調整のことです。現在、障害者雇用促進法と障害者差別解消法によって、障害者の合理的配慮の提供は企業の義務と定められています。
合理的配慮の具体的な内容や程度については、明確に定められているわけではありません。障害の内容や周囲の環境、配慮をする側の状況により変わるため、具体的にどんな配慮が必要で実現可能かは、障害がある人と、事業者や周囲の人たちと相談の上で決めるものとされています。選考活動や入社時、どのような配慮が必要かを確認・検討すること、雇用後も必要に応じて都度、見直していくことが大切です。
※合理的配慮の考え方や配慮のポイント、提供事例を別記事で詳しくまとめています。
対象となる障害者は
障害者雇用促進法の条文では、障害者を「身体障害や知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身の機能の障害により、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける者、あるいは職業生活を営むのが著しく困難な者」と定めています。
この条文から、障害者を下記のようにA~Eに分類してみます。
A:身体障害者(身体障害者手帳保持者。重度身体障害者も含む)
B:知的障害者(療養手帳など、各自治体が発行する手帳の保持者。および知的障害者と判定する判定書保持者。重度知的障害者も含む)
C:精神、発達障害者(精神障害者保健福祉手帳の保持者)で、症状安定し、就労ができる人
D:精神障害の特性・疾患があるが、症状安定し、就労ができる人(手帳を持たない人)
E:A~D以外の心身機能の障害があるが、手帳を持たない人
このうち、次の章で詳しく触れる「障害者雇用率(法定雇用率)」の算定対象となるのは、A〜Cとなります。
つまり、障害者手帳を所持していない障害者は算定対象外となります。一方で、障害者手帳がある方だけを対象に雇用推進するのではなく、手帳を持たず、様々な困りごとを抱えた個人や企業を支える仕組み、そしてその延長に誰しもが働きやすい職場づくりが「ノーマライゼーション」の観点からは求められます。
障害者雇用率(法定雇用率)に相当する障害者の雇用義務
障害者雇用促進法で定められている義務のうち、企業にとって重要になるのが、障害者雇用率(法定雇用率)です。全ての事業主に、算出された雇用率に相当する人数分、障害者を雇用することが義務付けられています。
障害者雇用率(法定雇用率)の算出方法
雇用率は上記の式で算出することとされています。2024年4月時点の民間企業の法定雇用率は2.5%です。
実雇用率と、雇用すべき障害者数の算出方法
企業が、自社で雇用すべき障害者の数は何名になるのか、雇用率を達成しているかどうかを確認するには、以下の計算式で求めます。
- 実雇用率=障害者である労働者数+障害者である短時間労働者数×0.5 / 労働者数+短時間労働者数×0.5
- 法定雇用障害者数(障害者の雇用義務数)=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×障害者雇用率(2.3%)
※障害者雇用率制度や計算方法、雇用数をカウントする際のルールなど詳細は、別記事で詳しく紹介しています。
※雇用状況についての紹介は下記記事をご覧ください。
企業の雇用に関わる4つのポイント
(1)障害者雇用率が未達成の事業主は納付金を収める
障害者の雇用促進と安定を図るための制度として「障害者雇用納付金制度」があります。障害者雇用率(法定雇用率)が未達成の企業などから納付金を徴収し、そのお金を主たる財源として、法定雇用率を達成している企業に調整金や報奨金、助成金を支給するという仕組みです。
障害者雇用の納付金とは
法定雇用率を満たさない事業主は、不足1人につき50,000円の障害者雇用納付金が徴収されます。従業員数や時期によって金額が変動するので注意が必要です。
この納付金を「罰金」と捉えている方もいるかもしれませんが、障害者雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の経済的な負担を調整するために支払うものであり、罰金ではありません。
(2)障害者雇用率を達成している事業主には調整金・助成金が支給される
障害者雇用の調整金とは
法定雇用率を達成している事業主は、一定の調整金が支給されます。支給額は以下の通り、常用労働者の人数によって異なります。
- 常用労働者100人超の企業:月額27,000円×超過人数分の調整金
- 常用労働者100人以下で、障害者を常用労働者の4%、または6人のうち多い数を超えて雇用している企業:月額21,000円×超過人数分の報奨金
※納付金や調整金の詳細は別記事で詳しくまとめています。
障害者雇用の助成金とは
雇用を推進するため、企業は国から様々な助成金を受け取ることができます。以下の3つの分類があり、それぞれに様々なコースがあります。
- トライアル雇用に対する助成金
- 継続雇用に対する助成金
- 継続して雇用する障害のある方への配慮に対する助成金
※障害者雇用に関する助成金は種類が多いため、どのような時にどの助成金を申請できるのか、わかりにくいと感じる方も多いようです。助成金の種類や支給にあたっての要件、注意点などを別記事でまとめています。
(3)在宅就業者特例報奨金が支給される
自宅などで就業する障害者の方(在宅就業障害者)に、従業員が100名未満の企業が仕事を発注する場合、障害者雇用納付金制度において、企業には報奨金の支給が行われます。業務の発注には2つのパターンがあり、企業が在宅就業障害者へ直接仕事を発注する場合と、 企業が在宅就業支援団体(在宅就業障害者に対する支援を行う団体として厚生労働大臣に申請し、登録を受けた法人)を介して在宅就業障害者に仕事を発注する場合があります。
特例報奨金の金額算出方法は、以下の計算式で行います。
- 報奨額(17,000円)×(年間の在宅就業障害者への支払総額÷評価額350,000円)=在宅就業者特例報奨金
(4)在宅就業者特例調整金が支給される
在宅就業者特例調整金とは、従業員が100名を超える企業が在宅就業障害者に対して仕事を発注した場合、企業に支給される調整金です。特例報奨金・特例調整金のいずれも、障害者雇用納付金制度において行われ、法定雇用率未達の企業から徴収した納付金によって支給が行われています。こちらについても業務の発注には、企業が在宅就業障害者へ直接仕事を発注する場合と、 企業が在宅就業支援団体(在宅就業障害者に対する支援を行う団体として厚生労働大臣に申請し、登録を受けた法人)を介して在宅就業障害者に仕事を発注する場合の2パターンがあります。
特例調整金の金額算出方法は、以下の計算式で行ってください。
- 調整額(21,000)円×(年間の在宅就業障害者への支払総額÷評価額350,000円)=在宅就業者特例調整金
なお、(3)在宅就業者特例報奨金 と(4)在宅就業者特例調整金 において障害者の就業する場所が「在宅」とされていますが、仕事をする場所は「自宅など」となっています。つまり、就業場所は自宅だけと限られているわけではありません。自宅でなくても、事業所以外の業務可能な場所が提供されていれば、この報奨金・調整金制度の対象となります。
障害者雇用義務を違反した場合の企業側のデメリット
法律に定められている雇用義務を順守しない場合、どのような措置が取られるのか気になる方も多いのではないでしょうか。違反した場合に受ける罰則を大きく分けて3つにまとめました。
納付金が徴収される
前の章でも触れましたが、基本的に不足1人につき50,000円の納付金が徴収されます。従業員数や時期によって金額が変動します。
改善指導が入る
ハローワークより「障害者の雇入れに関する計画」の作成・提出が求められますが、それでも改善が遅れている企業に対しては、企業名の公表を前提とした労働局・厚生労働省からの指導が入ることがあります。
企業名が公表される
雇入れ計画の適正な実施に関し勧告を受け、一連の指導を受けたにも関わらず改善が見られない企業があった場合、企業名が公表され社会的な信頼性を失うことになります。
企業名公表までの流れ
ハローワークは、各企業が提出する「6月1日時点の障害者雇用状況報告書」(通称:ロクイチ報告)をもとに、改善命令や、先に紹介した「障害者の雇入れに関する計画」の提出を求めていくことになります。
企業名公表までの大まかな流れとしては以下の通りです。
1. 事前の告知
原則として、「期日までに不足分の人数を雇用しなければ、雇入れ計画書の作成命令が発令する」という主旨の事前告知があります。ただし、雇用の期日はおおよそ1~2ヶ月間と短期間であり、採用活動をスムーズに進められる体制がなく間に合わない場合、次の2. へと移行してしまいます。
2. 雇用計画命令、「障害者の雇入に関する計画書」の提出指導 (2年間の経過観察)
この期間は“雇用経過の観察と雇用改善の実施中”という位置づけになります。
この間、ハローワークが主催する、障害者雇用に関する合同面接会参加への案内があります。
参加は任意で強制力はありませんが、雇用達成のために参加されることをおすすめします。
3. 特別指導 (社名公表直前の猶予9か月間)
雇入れ計画書通りに改善が進まず、実雇用率が、最終年の前年6月1日現在の全国平均実雇用率を下回る場合、もしくは雇用不足数が10名以上の場合、特別指導となります。
4. 企業名公表(3月31日まで)
障害者雇用促進法第47条に基づき、雇用状況に改善が見られない企業の企業名が公表されます。
下記いずれかに該当する場合、1. や2. の流れに移行し易いという基準があります。
a 実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5ポイント以上の場合
b 実雇用率に関係なく、不足数10ポイント以上の場合
c 雇用義務数が3ポイントから4ポイントの企業(労働者数150人~249人規模企業)で あって雇用障害者数0人
上記を鑑みると、全国平均の雇用率(2022年度の場合は2.25%)を超えているか?不足数が5ポイント以上でないか?を意識する必要性があるでしょう。
実際に、多くの企業で不足数が5ポイントになった時点で、採用活動を積極的に行われる傾向が見られます。
障害者雇用専門の民間事業者を活用する
「1. 事前の告知」・「2. 雇用計画命令」のフェーズになり、慌てて活動を開始する法人企業も少なくありません。「障害者雇用担当を初めて任された」、「短期間での採用を指示された」場合は、障害者雇用専門の民間事業会社に相談してみると、今後の活動の見通しを立て易くなります。また「採用活動を行っているものの、ポイントの純増に繋がらない」場合、複数のボトルネックが混在しているケースも散見されます。まずは、お気軽にお問い合わせください。
まとめ~企業担当者がやるべきこと
◆理念・意義、社会的責任と法的義務に対する社内理解を深める
障害者雇用促進法の根底には「社会連帯」と「共生社会の実現」、つまり障害者も社会の一員として様々な分野に参加して能力を発揮できるように事業主の理解と協力が必要である、という考えがあります。まずは人事部や配属現場、経営層に対し、研修や勉強会を通じて、雇用の理念や意義、社会的責任と法的義務を説明し、理解を深めてもらいましょう。
◆現状を正しく把握し、雇用計画を立てる
2021年3月より、法定雇用率が2.3%に引き上がりました。企業は2.3%雇用率達成を念頭に置いた採用計画を立てることが不可欠です。まずは、自社で必要な雇用はどの程度か、雇用が不足している場合は何人雇用する必要があるかを算出します。また、利用できる様々な助成金を把握し、計画に織り込んでおきましょう。
現状の計画のままでは雇用率を達成できない場合は、新たな業務の創出や切り出し、雇用形態や人材要件、雇用する障害者層の拡大、配属先や受け入れ体制、採用手法などを見直し・検討する必要があります。
◆採用後の定着状況や問題点を整理する
既に雇用している障害者の定着状況を把握しましょう。自社の雇用定着率や離職率はどれくらいか、もし定着に課題がある場合はどこに原因があるのかを整理してみましょう。
障害者が定着しない原因は企業によって様々ですが、一例として
- 予め定めている人材要件と、実際に採用した障害者の職務能力、意欲に乖離がある。
- 採用時に、必要な合理的配慮について確認できておらず、配慮が不十分である。
- 社内での障害者雇用に対する理解が不足しており、差別的な発言や行動がある。
- 現場の負担が多く、雇用管理・マネジメントが行き届いていない。
- 本人の職務能力と、業務内容や成果・目標が合っていない、または必要な業務が与えられていない。
- 健康面で問題があった際のサポート体制が確立できていない。
- 障害者を適正に評価する人事評価制度に課題がある。
…などが考えられます。これらのうち自社に当てはまる原因はないか、見直してみましょう。
◆障害者雇用の助成金や公的相談窓口を利用する
2024年4月から新たに「障害者雇用相談援助助成金」の支給が始まりました。これは企業が、障害者の新たな雇い入れや雇用の継続が図られるよう、一連の雇用管理に関する相談援助事業を実施した事業者に助成金を支給するというものです。
企業規模は問いませんが、特に中小企業の雇用支援拡充を意図して設定されています。雇用経験が限られ、個別性の高い課題を抱えている中小企業は、幅広い知見と実績を持った業者の支援を活用してみるのも良いでしょう。
他にも、各都道府県が行っている障害者雇用に関するセミナーや事例集ハンドブック、ハローワークの「障害者トライアル雇用」、「障害者雇用事例リファレンスサービス」などがあります。障害者雇用のノウハウがない企業や、進め方が分からない企業は、こうした公的サービスを利用すると良いでしょう。
◆民間の障害者雇用支援サービスを活用する
障害者雇用についてサポートやアドバイスを行っているのは、公的機関だけではありません。民間にも障害者雇用についてのコンサルティングを行っている事業所があるため、そちらの利用もおすすめです。
パーソルダイバースでは、障害者雇用に取り組む人事・採用担当者や経営者に向け、障害者雇用に関するさまざまな支援サービスを提供しています。企業のニーズや雇用経験に合わせ、6つのソリューションをご用意していますので、自社の雇用に課題を感じている企業様はぜひお問い合わせください。