更新日:2025年12月26日/作成日:2019年4月5日

「障害者雇用納付金制度」は、障害者を雇用するすべての企業に関わる重要なルールの一つで、事業主はその内容を正しく把握しておく必要があります。
しかし、「納付金は罰金のようなもの」「納付金さえ納めれば、障害者の雇用義務を果たしたことになる」など、制度を誤解している人も少なくありません。そこで、障害者雇用納付金制度の概要とその趣旨、具体的内容、注意点について紹介します。

目次

障害者雇用納付金制度とは

障害者雇用納付金制度とは、障害者の雇用促進と安定を図るために設けられた制度です。 この制度は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」が定める、「障害者雇用率制度(法定雇用率)」が前提となっています。

2025年現在、民間企業の法定雇用率は「2.5%」です。これは、企業は常時雇用している労働者数のうち、2.5%以上の障害者の雇用が義務付けられていることを指します。なお、法定雇用率は2026年7月には2.7%へ引き上げられる予定です。
ここでは、障害者雇用納付金制度の目的や背景、納付金の金額や対象となる企業について解説します。

制度の目的と背景

障害者雇用納付金制度は、「障害者の雇用は企業が連帯して果たすべき社会的責任である」という理念に基づいています。
 

企業が障害者を雇用する際には、設備の整備や改良、相談員の配置、合理的配慮の提供や雇用管理などが必要です。それらに際しては、一定の経済的負担も発生します。
しかし、すべての企業が法定雇用率以上の障害者を雇用しているわけではなく、未達成の企業も一定数存在します。その結果、両者の間で経済的負担にアンバランスが生じているのが現状です。

このアンバランスの調整と、障害者雇用の促進・安定のため、事業主が共同で拠出する形で障害者雇用納付金制度が設けられています。

納付金の金額

法定雇用率が未達成の企業は、障害者雇用納付金制度に則って納付金を納めなければなりません。具体的には、法定人数よりも不足している人数分×50,000円を月額として納入する必要があります。徴収した納付金を主たる財源とし、法定雇用率を達成している企業に調整金や報奨金、助成金が支給されています。

納付金制度の対象となる企業

障害者雇用納付金制度の対象となるのは、常用労働者が100人を超える月が5ヶ月以上ある事業者です。対象となる期間は、前年4月から申告する年の3月までとなります。

障害者雇用率制度の対象となるのは、従業員を40人以上雇用している事業主ですが、100人以下であれば障害者雇用納付金の対象にはなりません。

「常用労働者」の意味と対象人数の考え方

常用労働者とは、期間の定めなく雇われている労働者、もしくは1ヶ月を超える期間を定めて雇われている労働者を指します。労働時間についての決まりはなく、短時間労働者も上記の条件を満たす場合は、常用労働者になります。

常用労働者数のうち、週所定労働時間が30時間以上の労働者を1人につき1カウントとします。また、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は、0.5とカウントします。

そのため、常用労働者数は下記のように計算できます。

  • 常用労働者数=(週所定労働時間が30時間以上の労働者)+(週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者数×0.5)

なお、雇用している障害者数を計算する場合は、週所定労働時間以外にも障害の種類や程度によってカウント方法が異なります。

例えば、重度の身体障害者と重度の知的障害者の場合、週所定労働時間が30時間以上の場合は2とカウントされます。また、重度の身体障害者・重度の知的障害者・精神障害者は週所定労働時間が10時間以上20時間未満の場合に0.5とカウントできます。

障害者雇用率制度や雇用率の計算方法については、下記記事でも詳しく紹介しておりますので、ぜひご参考下さい。

障害者雇用納付金制度の内容と計算方法

障害者雇用納付金制度は、以下の4つから成ります。

  • 法定雇用率未達成の事業主から障害者雇用納付金を徴収
  • 法定雇用率以上の障害者を雇用する事業主に対して調整金、報奨金を支給
  •  在宅就業障害者・在宅就業支援団体に業務を依頼した事業主に対して特例調整金、特例報奨金を支給
  • 各種助成金を支給

それぞれの内容について見ていきましょう。

法定雇用率未達成の事業主から障害者雇用納付金を徴収

常用労働者の総数が100人を超える事業主において法定雇用率を満たさない事業主は、不足1人につき50,000円の障害者雇用納付金が徴収されます。

常用労働者100人超の企業 月額50,000円×不足人数分

例えば、障害者雇用義務が10人の企業が、実際には7人分にあたる障害者しか雇用できていなかった場合、不足人数である3人分について障害者雇用納付金を支払う必要があります。徴収される金額は、下記のように計算できます。

  •  50,000円×不足数3名×12ヶ月=1,800,000円

納付金の計算方法をわかりやすい具体例で解説

実際の計算は各月毎の集計になります。2026年7月に法定雇用率が2.7%に引き上げられますが、2026年度の場合は以下のような記載です。

  • 障害者雇用納付金の計算例
  • 申告時期:2027年4月1日〜5月15日
  • 算出時の期間:2026年4月~2027年3月末

具体例:障害者雇用納付金の計算例(2026年4月~2027年3月末)

計算例の年間納付金 = {【法定雇用人数(必要な障害者数)年間合計値 46ポイント 】− 【障害者雇用人数年間合計値41.5ポイント】} × 50,000円 = 225,000円

法定雇用率以上の障害者を雇用する事業主に対して調整金、報奨金を支給

法定雇用率を達成している事業主は、一定の調整金、もしくは報奨金が支給されます。支給額は以下の通り、常用労働者の人数によって異なります。

常用労働者100人超の企業 月額29,000円×超過人数分の調整金
常用労働者100人以下で、障害者を常用労働者の4%、労働者の数の4%の年度間合計数、または72人のいずれか多い数 月額21,000円×超過人数分の報奨金

※調整金:支給対象人数が年120人月を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人当たり月額23,000円に減額されます。
※報奨金:支給対象人数が年420人月を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人月当たり16,000円に減額されます。

在宅就業障害者・在宅就業支援団体に業務を依頼した事業主に対して特例調整金、特例報奨金を支給

在宅就業障害者や、または在宅就業支援団体を介して仕事を発注し、支払いをした事業主に対し、特例調整金、または特例報奨金が支給されます。
在宅就業障害者の支援のためのもので、自社の雇用でない発注に対する制度。金額などは厚生労働省や各都道府県の窓口に確認して下さい。

各種助成金を支給

事業主が障害者雇用にあたって、設備の整備や雇用管理のために必要な介助をつける措置などを行った場合、内容に応じて助成金が支給されます。助成金には、例えば次のようなものがあります。

障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金

エレベーターの設置など、障害者の雇い入れや継続雇用に必要な施設、福利厚生施設を設置した場合に支給。

障害者介助等助成金

職場介助者を配置する、手話通訳を雇用する、障害者相談窓口担当者を置くなど、適切な雇用管理のための配慮を行った場合に支給。

重度障害者等通勤対策助成金

通勤用バスの購入や会社に通いやすい住宅の賃借、バスの運転手の雇用など、重度障害者の通勤対策を行った場合に支給。

重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金

重度障害者を多数雇用する事業主が、必要な設備の整備や施設の設置を行った場合に支給。

障害者雇用納付金の申告申請書類の手続き

常用労働者が100人を超える企業は、障害者雇用納付金の申告を行う必要があります。また、常用労働者数が100人以下でも報奨金を申請する場合は申告が必要です。
※特例給付金は廃止となりました。経過措置に関しても、2025年(令和7年)4月1日をもって終了しています。

申告は以下の2種類の方法で行うことができます。

  • 電子申告申請システムでの手続き
  • 送付または持参による手続き

それぞれの申告方法について解説します。

電子申告申請システムでの手続き方法

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者雇用納付金 電子申告申請システム」から電子申請を行うことができます。

申告申請書の作成はシステムにログインせずに可能ですが、電子申告を行うには、電子申告申請システム上でIDの新規発行申請を行う必要があるので、注意が必要です。

申告申請書は、システム上で一から作成する方法とデータを利用して申告申請書を作成する方法があります。申告申請書を作成後、取得したIDでシステム上にログインし、データを送信します。

その後審査結果メールが届き、申請内容にエラーがないか確認できます。

送付または持参による手続き方法

書類を送付または持参することでも申告できます。事業所を管轄する各都道府県申告申請窓口に、申告申請書および報告書1部を提出します。各都道府県の申告申請窓口から申請内容について問い合わせがある場合もあるため、控えは各事業所で大切に保管しておきましょう。

また、受理日(受理印)の確認を希望する場合は、別途書類を提出する必要があるため、申告申請書と併せて提出するようにしましょう。

申請書類作成にあたっての注意点

高齢・障害・求職者雇用支援機構のサイトでは「Excel様式」が公開されていますが、このExcelフォーマットをダウンロードし直接編集する方法はおすすめできません。
理由として、Excelの表示形式が整数に設定されている箇所があり、入力した数値が正しく反映されない箇所があるためです。

申請書類作成時のおすすめの方法

申請書類は、「電子申告申請システムでの手続き方法」でも記載している通り、電子申告申請システム上で作成することをお勧めします。なお、申告申請書の作成にあたっては、システムへのログインは不要で作成が可能です。

障害者雇用納付金の納付期限と納付方法

障害者雇用納付金を納付する場合は、期限内に指定の方法で納付する必要があります。ここでは、納付期限と納付方法について解説します。

納付期限

障害者雇用納付金の納付期限は、4月1日〜5月15日(※)までです。納付金の金額が多く、まとめての支払いが難しいケースでは、納付額が100万円以上の場合であれば延納できます。3回に分けて支払うことができ、各期の期限は下記の通りです。

  • 第1期:5月15日
  • 第2期:7月31日
  • 第3期:12月1日

ただし、納付額が100万円以上の場合でも延納の申請をしなければ、5月15日が期限になるため、延納希望をする場合は忘れずに申請するようにしましょう。

※土日祝日の関係で年度によって納付期限が異なるケースもあります。

納付方法

納付方法は、指定の納付書を使用し各金融機関(都市銀行や地方銀行、外資系金融機関および信用金庫)で納付する方法と電子納付(ペイジー)する方法があります。振込による納付やATMを利用した納付はできないため、注意が必要です。

障害者雇用納付金の申告申請における注意点

障害者雇用納付金制度の対象となる企業は、納付金の申告申請を行う必要があります。スムーズに申告を完了できるよう、申請時の注意点を事前に確認しておくことをおすすめします。
障害者雇用納付金を申告申請する際の主な注意点は、以下の2つとなります。

障害者雇用納付金の申告期限

申告内容によって、申告の期限が異なる点にも気をつけなければなりません。

常用労働者数100人を超える事業者の障害者雇用納付金の申告期限は、4月1日〜5月15日までです。また、常用労働者数100人以下の事業者が報奨金等を申請する場合の期限は、4月1日〜7月31日までになります。土日祝日の関係で年度によって期限が変わる可能性があるため、申請が必要な場合は、記入説明書を確認しておきましょう。

調整金や報奨金などの支給金については、申告期限を過ぎてしまうと申請しても支給されなくなるため注意しましょう。

障害者雇用納付金の申告申請書の様式

申告申請書の様式や内容は、定期的に改正されています。古い様式の申請書で提出してしまうことがないよう、年次の申告申請に際しては必ず現在のバージョンを確認しましょう。誤って旧様式で提出してしまった場合は、再提出を求められる場合もあります。

障害者雇用納付金を納付しない場合はどうなる?

納付金の申告の有無や未納・滞納の状況などによっては、事業主が処分を受ける場合があります。障害者雇用納付金制度において受ける可能性のある2つの処分の内容についても知っておきましょう。

障害者雇用納付金の申告を行わなかった場合

障害者雇用納付金制度の対象であっても、申告をしなかった事業者に対しては納付金の納入時に追徴金が加算されます。納付すべき額(その額に千円未満の端数があるときは端数切り捨て)に百分の十を乗じて得た額、つまり約1割の追徴金が加算されることとなります。

徴収金(納付金)の納付を行わない場合

納付金が発生しているにも関わらず期限までに納付を行わなかった場合は、その事業者に対して督促状が発行されます。督促を受けた事業者は、指定された期限までに納付金やその他の徴収金(追徴金など)を完納しなければ、財産差し押さえなどの滞納処分を受ける可能性もあります。

上記のように、申告申請や納付金の納付を正しく行わないと、法令に則ってペナルティが課されてしまう可能性があります。特に注意したいのは、障害者雇用納付金制度の対象となる従業員数です。
2025年現在、従業員数100人を超える事業者が対象となっています。自社が対象にあたるかどうかをあらためて確認しておき、申告申請に備えておきましょう。

納付金だけでは済まない?障害者雇用率未達成のリスク

障害者雇用率が達成できない場合に障害者雇用納付金を支払うことになりますが、未達成による影響やリスクは納付金だけではありません。障害者雇用率未達成によって生じる可能性のある主なリスクは以下の3つです。

  • 行政指導・企業名公表の可能性がある
  • 企業ブランディングの低下が懸念される
  • 納付金による負担が増加する

それぞれのリスクについて詳しく解説します。

行政指導・企業名公表の可能性がある

障害者雇用納付金を支払っても、障害者雇用義務を果たしたことにはならず、未達成状態が続くとハローワークの雇用率達成指導を受けたり、企業名を公表されたりすることがあります。

なお、雇用率を達成できなければ、すぐに指導が行われたり、企業名が公表されたりするわけではありません。まずは「障害者雇入れ計画作成命令」が行われ、企業は2年間の障害者の雇入れ計画を作成することになります。

計画を作成後も障害者雇用が進まない場合は、特別指導が行われ、それでも状況が改善しない場合に、初めて企業名の公表となります。

一定の猶予期間はあるものの、企業名公表による影響は大きいため、未達成の状態は早めに改善する必要があります。

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企業ブランディングの低下が懸念される

障害者雇用率の未達成が続き、企業名が公表されることで、企業ブランディングの低下が懸念されます。企業ブランディングの低下により、株価に影響が出れば、株主への説明責任も生じます。また、イメージの低下により、採用活動にも影響が出る可能性もあります。

納付金による負担が増加する

障害者雇用納付金は、いわゆる罰金には当たりません。しかし、納付金が発生することで企業にとっての負担が増加することも事実です。納付金は不足人数1人につき1ヶ月で5万円ですが、1年間この状態が続くと60万円の負担になります。未達の人数や年数が増えればそれだけ負担も増え、事業にも影響しかねません。

障害者雇用納付金に関するよくある質問

ここからは、障害者雇用納付金に関するよくある質問について紹介します。

申告書の他に添付書類の提出は必要?

障害者雇用納付金について申告する場合は添付資料は不要です。ただし、障害者雇用調整金や報奨金などの支給金を申請する事業者で、常用労働者数が300人以下の場合は添付書類が必要になる場合があります。

添付書類についてもPDF化すれば、電子申告申請システムで提出可能です。

納付期限を過ぎてしまった場合どうすれば良い?

納付書に印字された期限が過ぎてしまった場合でも納付は可能です。金融機関によっては期限が過ぎてしまった点について指摘されるケースもありますが、問題なく使用可能であることを伝えて下さい。また、電子納付(ペイジー)についても納付期限後でも納付可能です。

納付する際は、下記の情報が必要です。

  • 収納機関番号
  • 納付番号
  • 確認番号
  • 納付区分

確認番号については、有効期限が切れている場合がありますが、その場合は納付金部管理課収納係に連絡してみましょう。

障害者雇用に関する相談先は?

障害者雇用に関する主な相談先として、下記が挙げられます。

  • ハローワーク
  • 高齢・障害・求職者雇用支援機構
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 地域障害者職業センター
  • 障害者雇用支援サービス

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制度を理解し、前向きな雇用と経営判断につなげよう

障害者雇用納付金制度は、「障害者雇用は社会全体で考えるべき問題であり、企業が共同で果たしていくべき責任である」との考え方が基本になっています。事業者は、障害者を雇用する側として制度の意義を正しく理解し、雇用を推進していくことが大切です。

障害とひと口に言っても、その特性や症状はさまざまです。それと同じく、障害者一人ひとりの得意なことや課題も人それぞれであると考えましょう。中には障害の特性を活かし、高い能力を発揮する人もいます。
障害者を雇用することは、これからの多様性重視の社会に対応していくことにとどまらず、人材発掘の幅を広げることにもつながると考えて良いでしょう。

もし、適した人材を見つけるのが難しい場合は、障害者雇用に特化した人材紹介サービスの利用を検討することもおすすめです。また、社内の障害者雇用への理解促進や定着支援など、多様なご支援も可能です。障害者雇用に際してお悩みがある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。

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◆監修者
パーソルダイバース株式会社
法人マーケティンググループマネジャー
安原 徹

◆経歴

新卒でベンチャー系コールセンター会社に入社し、営業およびスーパーバイザー業務に従事。その後、株式会社エス・エム・エスにて看護師の人材紹介業務および医療・社会福祉法人の営業を担当。2016年にパーソルダイバース株式会社に入社し、キャリアアドバイザーおよびリクルーティングアドバイザー(RA)として勤務。関西エリアにおける精神障害のある方のご支援先の開拓に注力。2021年に関西RAマネジャーに着任。2023年より中部・西日本RAマネジャーを経て、現在は法人マーケティンググループのマネジャーとして勤務。