障害者が職場に定着し、活躍できるためには職場での理解と協力が大切です。特に障害者とはたらくことが初めての社員にとっては、日々のコミュニケーションや接し方、問題が起きた際の対処方法などが分からず、不安を感じることがあると思います。そこで今回は、同僚として共にはたらく社員や職場で理解を得るためのポイントを紹介します。
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障害者雇用への職場理解が進んでいない企業は多い
障害者雇用に取り組む上で、社内理解の促進に課題を持つ企業は少なくありません。
厚生労働省の調査によると、精神障害者の離職理由の第1位、身体障害者の離職理由の第2位が「職場の雰囲気・人間関係」という結果になっています。
また、パーソル総合研究所の調査によると、精神障害者の雇用について「できるだけサポートしたい」と答えた上司・同僚は約8割にのぼる一方、約4割が「精神的な負担が大きい」と感じていることがわかっています。
出典:パーソル総合研究所「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[上司・同僚調査]」(2024年6月)
上司・同僚の負担感を特に増大させる課題としては「突発的な業務の肩代わり・サポート」といった業務コントロールの課題、「障害への配慮の仕方がわからない」「感情的に巻き込まれて疲弊する」などといったコミュニケーションや配慮の課題が多いようです。
しかし、精神障害者とはたらくことに対して、「思っていたよりもコミュニケーションはスムーズにとれた」「思っていたより、自分の常識が通じた」など、事前の想定よりもポジティブだったと感じている上司・同僚の割合は、約7割にのぼっています。
精神障害をはじめ多様な障害ある社員とともにはたらくこと、はたらく工夫に関する理解を深めることが大切と言えるでしょう。
障害者と共にはたらく理解を得るための、5つのポイント
障害のある社員が職場で定着し、活躍するためには、職場で共にはたらく同僚や上司の理解を深めることが大切です。
同僚や上司が、障害のある社員と共にはたらき、助け合うというマインドセットや、障害者雇用に対するリテラシーを持ってもらうことで適切なサポートやコミュニケーションが生まれます。それによって、障害のある社員にとってはたらきやすい職場となり、職場全体のモチベーションや期待以上の成果を発揮することに繋がります。
ここでは、職場の理解を得るためのポイントを5つに分けて紹介します。
- 障害者雇用や配属の目的を説明する
- 必要な配慮や「できること」「できないこと」を知ってもらう
- 日々のコミュニケーション方法や留意点を伝える
- 就業管理のためのサポートをお願いする
- 緊急時の対応を定めておく
1. 障害者雇用や配属の目的を説明する
はじめに、自社が障害者を雇用すること、同じ職場で共にはたらく意図や目的を理解してもらうことが大切です。
障害者と一緒にはたらく社員の中には、「なぜ、うちの部門に配属されるのか」という疑問を抱く方もいるでしょう。そのため、障害者を雇用する意義や目的を伝えると同時に、「どのような組織を目指していくのか」「どのような意図で配属先を決めたのか」「一緒にはたらくことで社員自身にどう成長してもらいたいのか」を具体的に伝え理解してもらうことで、障害者雇用への理解と協力を得て、共にはたらく意識を高めることができます。
これは、社内の一部の従業員だけではなく、職場や組織全体で取り組むことが重要です。障害者雇用とそれに伴うサポートは企業組織で取り組む必要がある旨を周知することで、社員の意識は変わってくるでしょう。
2. 必要な配慮や「できること」「できないこと」を知ってもらう
同僚や関係者の不安を軽減するために、業務を行う上で「できること」と「障害特性上できないこと・困難なこと」、「必要な配慮事項(合理的配慮)」について、事前に障害者と企業の間で合意している内容を説明しておきましょう。併せて、雇用された障害者の持つ特性や職務能力、雇用するに至った経緯についても説明することで、実際に一緒にはたらくイメージを持ってもらうことができます。
合理的配慮については、以下の記事で詳しく紹介しています。
配属先に説明するの際に注意してほしいのが、障害名を必ずしも周知させる必要はない、ということです。
職場で知っておいてほしいのは「障害名」ではなく、あくまで「何が出来て、何は苦手なのか」「どのような配慮をどう行う必要があるのか」です。障害名を伝えることで、かえって、本人の特性とは異なるイメージや誤解を想起させてしまうこともあります。
業務遂行上などの理由で、職場で障害名を周知させることが望ましい場合には、事前に本人から承諾を得た上で伝えましょう。
3. 日々のコミュニケーション方法や留意点を伝える
これまでに障害者とはたらく経験がなかった人は「障害者にどう接するべきか分からない」と悩むこともあるため、障害者への日々の接し方のポイントを伝えることが大切です。障害特性は一人ひとり異なりますが、基本的な接し方は変わりません。障害者への接し方として大切なのは、以下の3点です。
- 事前に共有を受けたコミュニケーション方法(配慮)を心がけること
- 遠慮はしないこと
- 健常者と同様に、障害者もそれぞれの個性があることを理解すること
これらのポイントを同僚に伝え、理解してもらった上で、それぞれに適したコミュニケーションの手段が何かを検討するようにしましょう。
障害ではなく、その人自身と向き合う
障害と言っても、その特性や強み・弱みは一人ひとり異なります。正しい知識を持つとともに、一人ひとりに配慮した接し方、コミュニケーションが大切です。
例えば自分の気持ちを表現することや、あいまいな指示を苦手としている方がいるとします。そのような人に対し、威圧的な態度をとったり、大声で接したり、「分からないのは相手のせいだから」「〇〇できないのは障害のせい」という行動を取るべきではありません。
大切なのは相手の気持ちに寄り添ってコミュニケーションを取ること。障害ではなくその人自身を見て、信頼関係を構築することです。
不調のきっかけは、日々のコミュニケーションから発生する
障害者の不調のきっかけは、日々のコミュニケーションから発生するケースが多く見られます。当社がご支援した企業でも「言葉足らずや同僚の遠慮によるコミュニケーション不足で本人が疎外感を感じる」「具体的に言ってもらわないと分からないのにそれを理解してもらえない」といったことから誤解を生み、不調をきたす例を多く目にします。
例えば、対象者を限定している社内研修を案内する際「あなたは対象じゃないから研修に来なくてもいい」と伝えられたことで、障害者だから差別されていると感じ不信感を持ってしまった方がいました。最初から「この研修はこの業務を担当している社員が対象です」と説明しておけば、誤解は生まれなかったでしょう。
また、障害があるからあまりむやみに話しかけない方が良いとの考えから、日常会話だけでなく、業務上必要な情報共有などがなされず疎外感を感じてしまったという例もありました。
障害者が日々のコミュニケーションから不安を抱かないよう、「相手の特性を理解した上での声かけを同僚の方から自発的に行う」「お願いしたいことや作業方法、期限などを明確にして指示する」「指示を出す人を1人に絞り、やってもらいたい業務を具体的に分かりやすく説明する」など、同僚から障害者本人に自発的にアクションを起こすことで、互いに理解を深めていくことができます。
障害者本人も、必要な配慮を認識し、伝える努力を
障害者の中には、「自分からどのような配慮が必要なのかを説明する必要がある」ことを、きちんと理解していない人や、理解していても伝えていない、伝えられない人もいます。
就業上、どのような配慮をどの程度必要とするのかは、企業側が理解しておくと同時に、障害者本人に申し出てもらう必要があります。そのため、採用面接や雇用前に、必要な配慮についての本人の希望を聞く機会を設け、本人から伝えてもらいましょう。
また、その配慮について「実現可能な配慮かどうか」「配置部署に配慮の内容をどこまで、どのように伝えるのか」を確認することも大切です。
4. 就業管理のためのサポートをお願いする
雇用している障害者の状況を、管理者だけですべて把握することは難しいでしょう。そのため、本人の就業状況、特に管理者の目が届かない範囲で把握が必要な項目について、同僚に確認と報告をしてもらうよう依頼しましょう。
管理者の把握が必要な項目の例として、本人の健康や勤怠状況の変化といった「体調面」、作業のスピードや判断力などの「仕事面」、挨拶や報連相、仕事への意欲や取り組む姿勢といった「対人面」が挙げられます。同僚にはこうした点で、日常で何か変化があった際はすぐに報告してもらうよう依頼します。
障害者本人の特性から、業務遂行上で通常とは異なる動きや変化が想定される場合には、その旨を同僚へあらかじめ説明し、「どういった対応をしてもらいたいか」または「何も対応する必要がないか」を伝えておきます。
同僚へサポートをお願いする際は、対応すること・してほしいことと、する必要がないことを決めておくことが大切です。具体的には、就業規則や業務上ルール化されている相談は同僚で対応し、ルール化されていない事項は同僚から管理者へ対応を依頼する、障害特性や生活に関わる相談の対応も管理者が行う、といったように対応範囲を定めておくと良いでしょう。
また、社員の中で指導や管理者への連絡を行う際の役割分担を定めておくことも必要です。例えば実務指導は先輩社員が行い、就業態度に関する指導は管理者が行う。勤怠は同部署の社員に連絡し、有給休暇の取得や通院のための遅刻早退などは管理者に連絡する、といった形で定めておきます。
周囲からの声がけも大切
障害のある社員からの相談や質問がない時も、就業面で気になることや変化が見られる時には、周囲の同僚や上司から声をかけるなどの対応も大切です。
障害者の中には、仕事や日常生活のストレス、季節の変わり目の気温変化、世の中のニュースなどに影響を受けて体調が変化しやすい人もいます。その要因はさまざまなので、変化にすぐ気づけるように気を配ることが大事です。
また「迷惑をかけたくない」といった考えや「考えを自分の中で整理するのに時間がかかる」などの理由から、仕事に関する相談や連絡事項があるときでも周囲へ声をかけるのが苦手な人もいます。仕事が進んでいなかったり悩んでいたりする様子があれば、気を遣わずに直接声をかけてみてください。困っていることがあれば解決方法を一緒に考えるなど、状況に応じて柔軟な対応を心がけることが大切です。
5. 緊急時の対応を定め、周知する
不測の事態が発生した際の対応方法についても、事前に定めて説明しておくことが重要です。災害時に、「誰が」「どのように」障害者を誘導するのか、役割分担やフローを決めておきましょう。
例えば、車いすを使う障害者を非常口に誘導するケースでは、「誰がストレッチャーを操作するのか」などを決めておきます。事前にしっかり相互認識しておくことで、万が一対応が必要となった場合に落ち着いて適切な行動をとることができるようになります。
また障害特性によっては、災害が引き金となって不調が現れる可能性があります。そうした事態に備えるため、同僚・本人・管理者の3者で、不調が現れた場合の「管理者への報告」や「本人への対応事項」を予め検討し、同意を得ておきましょう。
まとめ:障害者と一緒にはたらく同僚は、職場への定着に向けたキーマン
雇用した障害者が職場に定着し、活躍するためには、一緒にはたらく同僚の理解が不可欠です。理解を得るために、障害者の雇用や配属の目的、障害特性、業務遂行上できることとできないこと、必要な配慮事項を周知することがまず重要です。配慮事項の周知とともに、協力をお願いしたい就業上のサポート内容を説明しておきます。
同僚にサポートをお願いする際は、対応してほしいこと・する必要がないことの範囲を定めておくこと、誰が何についての指導・確認を行うかの役割や、どういった状況で誰にどのような情報を共有するかを明確にしましょう。
大切なことは、障害があることや障害名だけに捉われず、障害者自身の個性や特徴、能力を知り、必要に応じて協力する体制をつくることです。
企業と配属部署の責任者、ともにはたらく同僚、この三者が連携を行うことによって、障害者も同僚も共にはたらきやすい環境を作ることができ、障害者の定着につながるでしょう。
パーソルダイバースでは、社内の障害者雇用に対する理解を促進し、定着のための職場づくりを実現させる研修サービスを提供しています。また、障害者雇用で課題に挙げられている早期離職を防止するために、障害のある社員と雇用管理者の双方に対して、職場定着・活躍に向けた支援もあわせて提供しています。障害者雇用を検討している企業さまはぜひご活用ください。