新型コロナウイルス感染拡大の影響や、法定雇用率引き上げによる障害者雇用拡大の動きを受け、障害者の就業にテレワークを導入・活用する企業が増えています。しかし、企業からは「テレワークに適した業務がない」「今後、テレワークを活用したいが業務を増やせない」など、業務に関する課題が多く聞かれます。そこで今回は、テレワークでの業務切り出しにおける課題や業務創出・切り出し方法、業務例について紹介します。

目次

はじめに 障害者雇用のテレワーク増加で増える業務の課題

パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース)の調査によると、新型コロナウイルス感染拡大によって、障害のある社員に実施した雇用施策の変更や特別措置として最も多かったのは、「テレワークを導入し、在宅勤務とした」で、27.3%となりました。

一方で、今後見直しや再精査が必要と考える雇用課題について、勤怠状況や健康状態の確認・把握、不安や問題発生時の対応などの「労務管理の課題」(48.1%)に続き、「業務を与えられない」「業務性質上、就業環境が用意できない」といった「業務の課題」(39.7%)が2番目に多い結果となりました。テレワークの導入を積極的に進めていかなければならないという企業の意識は高まっているものの、業務の切り出しや創出が重要課題になっていることがわかります。

出典:パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース)「新型コロナウイルス感染拡大による障害者の就業、就職・転職活動への影響」

調査概要:実施期間:2020年6月2日~6月5日

調査対象: 障害者雇用を実施している企業の人事担当、雇用担当者/有効回答数:355

「障害者が取り組めるテレワーク向けの業務がない」と考える理由

アンケート結果にもある通り、テレワーク導入・活用への意識は高まっているものの、業務創出に課題を抱えている企業は少なくありません。実際に、在宅勤務としながらも、テレワークで従事できる業務がないため「自宅待機」や「有給休暇取得」を推奨しているケースも多く見られます。では、障害者のテレワーク業務がない、業務の創出は難しいと考えてしまうのはなぜか、4つの理由を紹介します。

「新しいはたらき方」のための意識改革ができない

新型コロナウイルス感染症予防の観点から、新しい生活様式が浸透しつつある中、テレワークなどITツールを活用しながら時間や場所にとらわれずに仕事をする「新しいはたらき方」も広がってきています。ところが、「上司・部下はオフィスで顔を見あわせてはたらくべき」「全員が同じ時間に出社・退勤すべき」「仕事で成果を出すためには長時間はたらくべき」といった旧来型の「はたらき方」の意識をぬぐい切れていない企業が多いのも現状です。そのような意識では、テレワークでの業務の進め方をイメージすることが難しいため、旧来型の意識から「新しいはたらき方」へと意識改革をする必要があります。
「テレワークでは業務を進められない」といった思い込みを取り払うことが重要と言えるでしょう。

業務が「オフィスワーク」前提になっている

テレワーク向けの業務がないと考えてしまう理由として、オフィスや工場に出勤して行うことを前提として事業運営をしていることも挙げられます。
特に、製造業やサービス業などでは、出社をしなければできない業務もあるでしょう。しかし、業態に関わらず、多くの場合で、適したITツールを導入することにより、テレワークでの業務管理が可能となります。また、伝票作成や捺印など「紙の書類」にこだわる場合も、テレワークが進みにくいと考えられています。場所を選ばず業務ができるよう、環境を整備することが求められます。

会社全体として業務のプロセス分解ができていない

企業全体として、業務プロセスの分解ができていないことも、テレワーク業務が切り出せない理由の一つです。
業務をテレワーク化するためには、一つひとつの業務プロセスを分解し、テレワークが可能な業務とそうでない業務を振り分ける必要があります。しかし、アウトプットや成果のみを重視して業務プロセスを問わないマネジメントを行っていると、テレワークのためのプロセス分解は難しいでしょう。一方で、実務者本人も「仕事の無駄が明らかになってしまうのでは?」「生産性の悪さを指摘されるのでは?」と考え、業務プロセスの開示を快く思わない場合もあります。企業全体として業務プロセスの分解に取り組むことが、テレワークを推進し、ひいては業務効率化にもつながるという意識を浸透させることが重要です。

セキュリティ面での懸念

テレワークを導入する際に懸念されることの一つに情報セキュリティが挙げられます。
オフィス以外で仕事をすることで、情報漏えいやマルウェア感染が発生してしまうのではないかと懸念する管理者や経営者も多いでしょう。大切なのは、テレワークを導入することでどのようなリスクが発生しうるのかを事前に把握し、対策を行うことです。社員向けのセキュリティに関する啓蒙活動やルールの整備、また「VPN(仮想プライベートネットワーク)」経由でアクセスログを取るなど、ハード面での整備が求められます。

テレワークの業務は「切り分け」ではなく「みえる化」と「フローの改善」でつくる

上記で紹介した、テレワークの業務創出、切り出しの障壁となる理由を踏まえた上で、テレワークに適した業務をつくる具体的な方法を考えていきましょう。
業務創出においては、「業務のみえる化」「業務フローの改善」という2つの方法が有効です。コストや難易度などから総合的に判断し、取りかかりやすいところから業務創出を行うとよいでしょう。

「業務のみえる化」でつくる

テレワーク業務を創出するためには、どのような業務をどのような流れで行っているのかを細分化し可視化する「業務のみえる化」を行う必要があります。作業手順や業務プロセスの流れが、誰が見てもわかるようにマニュアルになっており、業務における問題点や課題がハッキリと把握できる状態が理想でしょう。

業務をみえる化するためには、まず業務において発生するタスクを洗い出します。そして、それぞれのタスクのプロセスを明確にしましょう。その際、タスクの種類や量に対し、いつまでにどのくらいの時間が必要なのか「時間軸」を意識して可視化することが重要です。ただし、それだけではタスク同士の関係性がバラバラになってしまい、上手く機能しない可能性があります。誰がどのタイミングで行うのか、誰と誰が連携するのかなど、タスク間の相互関係も見えるようにしましょう。大変手間のかかる作業ではありますが、これらの作業をシートなどに落とし込むことが重要です。その上で、どの作業をテレワークで行えるのかを選別します。「業務のみえる化」により、一人ひとりの業務量や、チームでの業務内容・進め方などを見直すことにもつながります。

「業務フローの改善」でつくる

「業務のみえる化」以外の方法として、「業務フローの改善」も有効です。業務フローの改善とは業務全体をリデザインすることで、「企業全体の抜本的な業務改善」と「特定業務のリデザイン」の2つの方法があります。

企業全体の抜本的な業務改善とは、ペーパーレス化やITツールの導入など、根本的な仕組みの変更を指します。オフィス依存型業務の在り方を変えるためには、システムや業務自体の仕組みを変える必要があります。例として、経理・稟議決裁・出退勤などの基幹システムのバラツキが業務をペーパーレス化する際のネックになるため、基幹システムを統一するのも1つの方法です。ペーパーレス化によって、テレワークでの勤怠や業務の管理が行いやすくなるでしょう。また、ITツールとしては、会議や面談はWeb会議システム、業務上のコミュニケーションではチャットツール、業務をクラウド上で管理するグループウェアなどがあります。これらを活用することで、複数人で同時に業務を進めたり管理したりがスムーズになり、テレワークで行う業務の切り出しも可能になります。

もう1つの方法である「特定業務のリデザイン」とは、例えば「外注していた仕事をテレワーク業務に変更する」など、特定の業務の進め方を根本的に見直すことで業務創出をする方法を指します。まとまった単位で外注している仕事は、障害者が従事する業務に変更しやすいと言えます。全社でアウトソーシングしている業務がないかを一度洗い出し、自社で雇用している障害者の業務としてリデザインできるかを検討してみましょう。この方法は抜本的な業務改善まで取り組む必要はなく、特定業務から始められるのがメリットでもあります。

テレワーク業務創出、切り出し実例

ここでは、パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース)で実際に行った、テレワーク業務実例を紹介します。

業務例(1)バックオフィス業務の切り出し

当社では、勤怠の管理は自己申告で行っていますが、労働時間の確認・調整は給与計算担当者が行います。これらの業務は在宅でもできるため、普段デスクワークに従事している障害のある社員に任せています。
また、意欲や能力は限定的でも、できる範囲のことはやり遂げる力のある社員には、「エクセルのフォーマットに従ってデータ入力する」「複数のデータを比較して誤りのあるデータ・誤差をチェックする」「説明会やセミナーのアンケートデータをルールに従って打ち直す」といった、バックオフィス業務をテレワークで行ってもらっています。この作業では表記統一も重要な作業になりますが、障害特性によっては、このような細かい作業に対し力を発揮するケースもあります。他にも、法人向けクラウド名刺管理システムのデータ入力業務をテレワーク業務として切り出しています。

業務例(2)コンプライアンス室から切り出したテレワーク業務

当社では、業務創出ができないと思われている部門に挙げられるコンプライアンス室からも、障害者のテレワーク業務を切り出しています。具体的な業務内容としては、「各部署からの通報の一次受付」「弁護士などへの連絡」「SNS上の誹謗中傷チェック」などです。コンプライアンス情報を扱う部署は、法令チェックは難しいものの、膨大な資料の整理やファイリング、配送作業などが発生します。専門知識や判断が必要な業務が多い一方で、それ以外に発生する業務も多くあり、マニュアルさえ整えればテレワークで行うことも難しくありません。

【業務創出、切り出しについてもっと知りたい!】

障害者雇用における業務創出、切り出しのポイントや方法について、実例を交えて紹介します。

まとめ

障害者のためのテレワーク業務は、企業の意識次第で創出することができます。業務フローの改善や業務のみえる化に取り組むことで、切り出せるタスクや作業を見つけることができるでしょう。今回の記事を参考に、どのようなことが自社の障害者のテレワーク業務を創出する課題になっているのかを知り、テレワーク業務の創出に取り組んでみてください。