てんかんは、脳の神経細胞が過剰な電気活動を起こすことで発生する脳疾患です。慢性的な疾患ですが、適切な治療によって7〜8割の方が症状をコントロールできると言われています。
安定就業のためには、症状や、発作が起きた時の対応方法など、正しい知識や適切な配慮を行うことが大切です。今回は、てんかんの基本的な知識や就業上の配慮、業務や実際の雇用事例をまとめました。

目次

てんかんとは

てんかんとは、慢性的な脳の病気で、大脳の神経細胞(ニューロン)が過剰な電気活動(電気発射)を起こすことで発生する疾患です。脳の神経細胞の激しい電気活動は、それ単体で「てんかん発作」と呼ばれます。この発作が一度だけではなく、都度何度も繰り返される状態が「てんかん」であると考えると分かりやすいでしょう。
けいれんのような発作や、突然意識を失って反応がなくなるなどさまざまな症状があり、症状の出方は一人ひとり異なります。発作はほとんどの場合数秒間から数分間で終わりますが、時には数時間続く場合もあります。発作を繰り返すことも特徴で、間隔は数年、数ヶ月、数日とさまざまです。

厚生労働省によると、てんかんのある人は人口1,000人あたり5〜8人(日本全体で60万〜100万人)いると言われており、特に小児と高齢者で発症率が高い傾向にあります。てんかんのある人の多くは、適切な治療を受けることで症状をコントロールできています。最終発作から時間が経過すればするほど発作が起きる可能性は低くなり、3年間発作がない場合は、医学的には寛解とみなされます。

てんかんの分類

てんかんは「部分てんかん」と「全般てんかん」の2種類に分けられます。さらに、発症原因によって、明らかな脳の病変が認められない「特発性てんかん」と、明らかな病変がある場合の「症候性てんかん」の2つがあります。この2つ以外にも分類不能のてんかんもあります。

部分てんかん
脳のある部分から始まる、部分発作のある
てんかん
全般てんかん
大脳の広範な領域に過剰な興奮・発作が起こる
てんかん
特発性
  • 脳の損傷はなく、年齢に関係して発症する。
  • 小児によく見られる。年齢に関連して起こる。
  • 脳の損傷がなく、発症の原因が不明。一部に遺伝的要素も含む。
  • 主に小児期から若年期に発症する
  • 他の神経症状がなく、意識を失うことが多い。
症候性
  • 脳の損傷(異常)に基づくてんかん。発症の原因がはっきりしている。
    (脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマーなど)
  • 発症年齢が早く、新生児期または乳児期に発症することが多い。
  • 発作の回数も多く、発病する前から精神遅滞や神経症状が見られる。

てんかんの約8割は、服薬や外科治療などにより発作を予防・抑制することができます。

てんかん発作の種類と主な症状

てんかん発作の種類は、大きく分けて「部分発作(焦点性発作)」と「全般発作」の2つに分類され、発作の症状は、全般発作と部分発作の中でさらに細分化されます。それぞれの発作の特徴について紹介します。

部分発作

部分発作は、脳の決まった部分(焦点)が発作の震源地となって発生するものです。他の病気から見られる症状と区別することが難しく、対処が困難になることもあります。部分発作には意識を失わない「単純部分発作」と、意識が薄れたり、短時間だけ意識を失ったりする「複雑部分発作」に分かれます。

発作の種類 発作の特徴 主な症状
単純部分発作
  • 発作が起きた時に意識がある
  • ・発作中にどのような症状があったかを覚えている
  • 身体の一部がけいれん
  • 身体の一部が勝手に動く
  • 嘔吐や腹痛、動悸
  • 幻聴や幻視といった精神症状
複雑部分発作
  • 意識障害が起こるため発作中の記憶がない
  • 発作は通常1~3分間続く
  • 脳の興奮部位により発作の症状が異なる
  • 前頭葉から起きる発作では、急に大声を出したり、激しく体を動かしたりする
  • 側頭葉から起きる発作では、突然意識を失う

全般発作

部分発作の発信源が脳の一部であるのに対し、全般発作では脳全体が一度に過剰な興奮状態に陥ります。ミオクロニー発作以外は発作時に意識障害を伴い、運動機能が制御できなくなるため、周囲から見てもてんかん発作とわかりやすいのが特徴です。発作の症状は以下の4種類があります。

発作の種類 発作の特徴 主な症状
強直間代発作 全身が硬直し、意識を失う
  • 全身が硬く突っ張る
  • 全身の筋肉がガクガクとけいれんする
欠神発作
  • 一時的に意識を失う
  • 意識障害は数秒から数十秒間続く
症状は2種類ある

-【定型欠神発作】
突然意識が途切れ、素早く回復する

-【非定型欠神発作】
意識障害に加え、他の症状も現れる

ミオクロニー発作 発作が起きた時に意識がある
※小児期~思春期発症のてんかんに多く見られる発作
全身あるいは身体の一部がびくっとけいれんする
脱力発作
  • 突然意識を失う
  • 意識障害は1〜2秒間と短い
全身の力が抜け、崩れるように倒れる

けいれん発作とてんかん発作の違い

「けいれん」とは、自分の意志とは関係なく勝手に筋肉が強く収縮する状態のことです。けいれんは、てんかん発作以外でもさまざまな原因で発生します。例えば発熱や感染症、薬物への反応、腫瘍、外傷、低酸素脳症等によって症状が起こることがあります。
これらの疾患によって発症する「けいれん」と「てんかんによる発作」では、発生原因も治療法も異なります。「けいれん発作」は、さまざまな原因で起こる「けいれん」という発作性の運動症状全体の呼び名です。それに対し「てんかんによる発作」とは、脳の過剰な電気活動が原因となり引き起こされた発作のみを指しています。

てんかんのある人に向いている仕事・向いていない仕事

てんかんは、服薬などの治療で症状をコントロールできるため、治療を受けながらはたらくことが可能です。てんかんのある人は、どのような業務や仕事を担うことができるのでしょうか。従事できる仕事や、就業上必要な配慮について紹介します。

てんかんのある人が従事できる業務内容

てんかんのある人は、他の精神障害と変わらず、幅広い領域で活躍することが可能です。

【てんかんのある人が従事できる主な業務】
・パソコンを使ったデータ入力業務
・情報管理などの事務作業
・システム開発
・ライティングやデザインなどのデスクワーク
・店舗での接客、商品の陳列、加工など

一方で、運転を伴う業務は注意が必要です。2014年から施行されている道路交通法では、「てんかん」に関する内容も含まれており、運転免許を取得・更新するための条件が新たに定められました。発作が起きた時のことを考慮し、ミスの許されない業務は制限することが推奨されます。

てんかんのある人が従事するのが難しい業務内容

先にも少し触れていますが、てんかんの人には向いていない業務もあります。てんかんの人におすすめが難しい仕事内容としては、以下のようなものが挙げられます。

【てんかんのある人が従事するのが難しい主な業務】
・運転を伴う業務
先に述べた通り、道路交通法では免許の取得や更新に際しててんかんに関する条件が定められています。急な発作が予測できないてんかんの方は、常時車や機械の運転をしなければならない仕事には適していないと言えます。

・高所での作業や身体の危険を伴う機械操作など
転落の危険がある高所作業や、操作を誤ると作業者などの命にかかわる機械の操作なども、発作時に意図しない身体運動が起こってしまう可能性があるてんかんの人には向いていないと言えます。

・ミスの許されない業務
操作を誤ると多大な損失につながってしまう精緻な作業を伴う仕事や、停止が難しい連続的な作業を伴う仕事も、てんかんの人にはおすすめできないと言えます。

てんかんの人の仕事選びは職業能力だけにとどまらず、仕事を続けることで生じる生活への影響などを考慮しながら、職種などを検討する必要があるでしょう。

知っておくべき発作時の対応と就業上必要な配慮

仕事に従事しているタイミングで、てんかんの発作が起こってしまうこともあり得ます。その場合、職場で周囲にいる人たちはどう対応すべきか、また平時にもどのような配慮が必要であるかについて知っておきましょう。

発作時の対応

発作時

てんかんのある人が急に意図しない行動を起こしてしまうことで、周りの人もパニックになってしまうかもしれません。しかしそんなときこそ、慌てず落ち着いて必要な対応を行わなければなりません。
発作の度合いを迅速に把握し必要な行動をとるためにも、発作時の対応マニュアルを作成しておくと良いでしょう。

発作後

発作が起きてしまったご本人には休憩をとってもらう、早退してもらう、欠勤としてもらうなど、状況に応じた臨機応変な対応を行いましょう。

発作時の記録

発作が起こった状況や原因、発作前後の様子、そのとき起こった発作の度合いなどを、詳細に記録しておきましょう。

就業上必要な配慮

安定就労のために必要な配慮は、「業務負荷軽減を目的とした環境調整」「業務面でのフォロー」「病気の管理」「周囲の理解」「配属先の上長や同僚への共有」の5つにまとめることができます。それぞれ具体的な内容を表にまとめました。

配慮の種類 具体的な配慮内容
業務負荷軽減のための
環境調整
  • 業務に関する相談ができるメンターを決める
  • 夜間勤務、長時間労働を避けるなど業務時間と量を配慮する
  • フレックスタイム制や在宅勤務制度を整える
  • 定期的な休憩を入れる
  • ジョブコーチを活用する
業務面でのフォロー
  • 写真や図などを活用した業務マニュアルを作成する
  • 作業内容がわかるチェックリストを作成する
  • 1つずつ業務指示を行う
  • 作業を書面で指示する
  • 習熟度に応じて業務量を徐々に増やす
病気の管理
  • 服薬時間や病院への通院日を確保する
  • 治療や体力回復あるいは薬に慣れるために必要な休暇を与える
  • 発作の誘発因子を避けるよう配慮する(光・熱・睡眠不足など)
周囲の理解
  • 周囲がその症状や発作時の行動などを理解しておく
  • 発作時にはどのような状況が予測されるか、把握する
配属先の上長や同僚への共有
  • 配属先に障害特性に関する情報を共有する
  • 本人の承諾のもと、事前に配属先の上長や同僚に対して、てんかんに関する正しい知識や、発作の症状、対処方法を伝える

適切な配慮を行うためにも、発作の症状や起きやすい時間帯や予兆などを知っておくことが重要です。本人にヒアリングし、どのような配慮が必要となるのかもすり合わせるようにしましょう。職場内で相談窓口を設けておくことや、相談しやすい雰囲気を醸成することも、定着のために大切なポイントと言えるでしょう。

【配属先の同僚への共有についてもっと詳しく!】

障害者の職場適応や定着のために、同僚の理解と協力を得るためのポイントを紹介します

就業定着のために採用時に確認すべきこと

てんかんのある人も、職場で周囲の人と同じように生き生きとはたらくことが可能です。てんかんのある人を採用する際は、就業定着のために企業側で以下の点を必ず確認しておきましょう。

  • てんかんのある人本人が障害に対しどの程度自己理解ができているか(症状の度合い、発作の頻度などの自覚)
  • 最近発作を起こしたのはいつごろか
  • 発作が起こったときご自身でどのような対処を行えるか、行っているか
  • 周囲に対してどのような、どの程度の配慮を必要としているか

など

上記の事項について採用にあたり必ず本人に聞き、事前確認をとっておきます。また、採用側もそれらについてしっかりと理解しなければなりません。また、ご本人と周囲の間に認識のずれがないようにしておくことも重要です。
加えて、本人の同意を得た上で障害者手帳と医師の診断書を提出してもらうと良いでしょう。その上で、通院状況や緊急時の連絡先を必ず確認し、職場側で把握しておきます。

てんかんのある人の場合も、他の障害者の方と採用面接の場で聞いておくべきことは大きく変わりません。まず、他の障害と同じく「どのようにはたらいていきたいのか」という本人の意向を必ず確認しましょう。その上で「自社が提供できる環境や業務、配慮の中で定着・活躍が可能か」を検討し、採用を進めていきます。

てんかんのある人とのはたらき方と雇用中の配慮事例

ここでは、てんかんのある人の採用や、雇用中の配慮事例を紹介します。

発作が起きた際の連絡先や対応を周知しておく

大手金融機関に勤務するAさんは、全般性発作のてんかんがあります。採用時には、発作が起きた時の対処方法をあらかじめ配属部署に共有し、就業上では特に問題がないことを伝えました。Aさんも服薬管理を徹底され、睡眠時間など日常生活へのケアもされていたため、入社から現在に至るまで発作も無く、安定して就業できています。
また、この企業では社員全員が緊急連絡先を記したカードを持参しているため、Aさんに発作が起きた際にも、すぐに周囲が対応できるようになっています。実際に発作が起きた時は、周囲の人が声掛けをして、反応がない場合にはそばに付き添うなどの配慮を行うことで対応しています。

発作が起きた際の状況を記録しておき、配慮に活かす

旅行会社に勤務するCさんは、意識をなくす発作があるてんかんがあります。この企業では、入社当初はデータ入力や資料封入などの簡単な業務からスタートし、発作の症状や勤務中の発生状況を見ながら、少しずつ担当業務の範囲を拡げていけるようサポートしています。また、発作が起きた時の業務内容や場所、時間帯や天候などを記録に残すことで、発作の予兆や条件を整理しておくとともに、体調が悪いときは無理をしないよう配慮がなされています。

まとめ

てんかんは適切な治療を続けることで発作を抑え、安定して就業を継続することができます。発作以外は必要最低限の配慮で、幅広い領域で活躍することが期待できます。てんかんのある人を雇用する際は、症状や発作を把握しておき、職場での適切な対処法を定めておくと良いでしょう。