新型コロナウイルスの影響により、障害者雇用でもテレワークを導入・活用し、在宅勤務ではたらくケースが増えています。そこで今回は、当社パーソルダイバースでの取り組みをもとに、在宅勤務ではたらく障害者のマネジメントや体調管理、支援の仕方について紹介します。
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はじめに コロナ禍で在宅勤務が進む一方、就業変化による不安も
パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース)の調査によると、新型コロナウイルスの影響によって在宅勤務ではたらいた障害者は約半数に上り、今後も在宅勤務を望む人が5割を超えています。
しかし、在宅勤務という就業の変化によって「体調、健康面への不安」を感じた人が36.7%、「上司やメンバーとのコミュニケーション、人間関係の不安」を感じた人が24.7%、他に「就業場所や環境の不安」「障害に対する配慮の不安」を感じた、などの声も挙がっています。
今後も新型コロナウイルスによる影響が続くと同時に、法定雇用率引き上げに向けて更なる雇用拡大が求められる中、テレワークによる在宅勤務の導入・活用は必須となるでしょう。しかし、はたらき方の変化によって様々な不安や課題が生じ、定着率に影響する可能性も少なくありません。そのため、企業は在宅勤務に対応した雇用管理や配慮、健康支援が求められそうです。
出典: パーソルチャレンジ(現:パーソルダイバース)「新型コロナウイルス感染拡大による障害者の就業、就職・転職活動への影響」
調査概要: 実施期間:2020年6月23日~7月1日
調査対象: 全国の障害のある方男女で、就職・転職検討中、または就業経験のある方 763名
では具体的に、どのような支援や対応が有効なのでしょうか?次項より、当社で実際に起こった社員の変化や具体的な取り組みなどを紹介します。
在宅勤務ではたらく障害者が抱えやすい不安とは?
アンケート結果の通り、障害のある社員の中には在宅勤務によって様々な不安を抱えることがあります。当社パーソルダイバースでも、新型コロナウイルスの影響により在宅勤務が推奨され、多くの社員がオフィス勤務から在宅勤務に移行しました。社員からは、はたらき方の変化によってさまざまな声や相談が寄せられましたが、ここでは、実際に社員から多く寄せられた不安を5つ紹介します。
コミュニケーションが取りづらい
在宅勤務では上司や同僚の様子が見えにくいため、「コミュニケーションが取りづらい」と感じる社員が少なくありません。
当社ではチャットツール(skype)やOutlookの予定表を活用し、一人ひとりのスケジュールや「連絡可能」「一時退席中」などの状態を表示し、稼働状況を把握できるようにしています。社員はこうした情報を頼りにコミュニケーションを取ることになりますが、相手の姿が見えないため、「連絡可能」であっても気軽に声をかけて良いか分からず、いつ相談すればよいのかわからず悩む社員もいるようです。
孤立しているように感じる
在宅勤務によって「孤独だ」「孤立している」と感じるという相談がありました。
一人で作業を進めていると、オフィス勤務のようなコミュニケーションが生まれないため、疎外されているような気持ちになりやすいと言われています。自分が進めている作業内容や手順が本当に正しいか、不安になるという声も挙がっています。特に、気分障害のある社員にとっては、不安が大きくなりやすいという特性から、不安やストレスを抱えやすい環境であると言えるでしょう。
健康面での不調
在宅勤務の環境が整っていないことにより、健康面での不調を感じている人もいます。
床やベッドにパソコンを置いて作業したり、長時間椅子に座り続けたりすることで、腰や肩を痛めたという声が多く寄せられました。また、在宅勤務になってから「オンとオフの切り替えが難しい」「通勤時間などの接続時間が短くなることで頭をクールダウンしにくい」「運動不足」「世の中のニュースなど情報過多になり不安が募る」などから、夜に眠れなくなったと感じる人も一定数おり、「眠れないこと」自体が不安につながるケースもありました。
また、兄弟など家族との関係性が不調要因になっている社員の中には、一日中、家族のいる自宅で業務を進めることがストレス要因となり、不調を訴える社員もいます。このようなケースでは、場合によっては出勤を認めているケースもあります。
「正しく評価されていないのではないか」という不安
トイレ等の休憩で離席する際に、skypeで「離席中」と表示するものの、「本当は仕事をサボっていると思われるのではないか」と不安になったり、自分の成果に焦りを感じたりするケースもあるようです。中には「休憩を取りにくい」「トイレに立つ回数を減らすために水分を控える」など、パソコンの前から離れられないと感じる人もいました。
また、業務量が低下したことで「自分は必要とされていないのでは」と感じ、「この先も会社で雇用し続けてもらえるのか不安になった」という声も聞かれました。
業務に集中しすぎてしまう
会議や雑談が減ったことで、作業に集中し過ぎてしまうケースもあります。また、在宅勤務中は自宅でいつでも仕事ができる環境のため、退勤後や週末などの業務時間外にパソコンを開いて仕事をするなど、はたらきすぎてしまう人もいるようです。オンとオフの切り替えができず、自分自身の健康管理が二の次になってしまったなどの声も挙がっています。
在宅勤務での不安を解消するために、マネジメントで必要な対応とは?
在宅勤務での不安を解消するために、企業や雇用現場での支援担当者はどのような対応が求められるのでしょうか。当社が在宅勤務を本格導入する中で感じた対応策を紹介します。
社員自身の自律を促し、相談しやすい関係性の構築を図る
障害者雇用におけるマネジメントでは、障害特性に配慮しながらも、一人ひとりが自己管理できるようになることがとても重要です。特に在宅勤務の場合は、管理側のフォローが行き届かない可能性があるため、社員自身が業務管理・健康管理を行えるようにならなければいけません。そのためパーソルダイバースでは、社員自身の自律を促すために、変化が発生した際に「自分から発信する」ことを推奨しています。一方で、従業員からの発信を待つだけではなく、できるだけ現場の管理者や定着支援担当者からも声かけをすることで、社員が相談しやすい環境づくりに努めています。社員の自律を促しながらも状態を把握し、必要な支援を適切に行うために「相談しやすい関係づくりの構築」が欠かせません。
リーダー層を育成し、フォロー体制を強化する
在宅勤務の場合、オフィス勤務と比べてマネジメント層の工数が多く発生するため、フォローが行き届かなくなる可能性もあるでしょう。そのため、マネジメント層をフォローするリーダーを増やすことも重要です。リーダーはメンバーに最も近い存在となるため、自身の業務管理だけではなく、メンバーの体調や場合によってはプライベートに関する相談など、あらゆることに対応しなければなりません。そのため、リーダーの育成では精神的・業務的サポートが欠かせません。リーダーの育成が、障害のある社員へのフォロー体制の強化につながるでしょう。
在宅勤務における支援の在り方を見直す
在宅勤務の活用継続のためには、在宅勤務を前提とした支援の在り方へと見直しが必要となるでしょう。多くの企業では通常、オフィス勤務を前提とした雇用施策が実施されていますが、そのまま在宅勤務にあてはめようとするとフォローしきれない部分が生じます。「採用方法の見直し」「在宅勤務でのはたらき方訓練」「目標設定・評価制度の見直し」など、在宅勤務のはたらき方に沿った支援を検討する必要があります。当社でもafter/withコロナのはたらき方を見据えて、在宅勤務制度の適用範囲や、健康面でのはたらき方の変化を考慮した支援の在り方や雇用施策の検討を進めています。
在宅勤務による不安を解消する具体的な取り組み例
ここでは、当社パーソルダイバースで実際に行った、在宅勤務の社員に対する支援の取り組み例を紹介します。
オンラインでの面談時間を設ける
当社では定期的にオンラインでの面談時間を設け、インタラクティブ(双方向)のコミュニケーションがとれるようサポートしています。先述した「社員自身からの発信」という基本的な考えは変わりませんが、現在のコロナ禍においては健康支援担当から積極的に声がけし、対面で話す機会を持ち続けることを大切だと考えています。不調をきたしてから面談時間を設けるのではなく、不調者を出さない、不調を悪化させない「予防」という観点で、社員との接点を増やしていくことに努めています。
健康管理アンケートで社員の状態を把握
横浜オフィスでは、社員の状態を把握するために、健康管理アンケートを毎週実施しています。アンケートの内容は、社員自身の現状に関する項目に数字をつけて回答するもので、その結果をマネジャーと健康支援担当が確認します。週ごとに数値で状態を可視化することで、社員は過去の数値から自分の状態の変化に気づくことができ、管理側は数値を元に様子を確認できます。健康管理アンケートのような共通ツールは双方にとって伝わりやすく、管理側の理解度の向上も期待できます。
業務外のことを話す場を設ける
業務以外の雑談や気軽なコミュニケーションを目的とした「オンライン講座」や「オンラインランチ会」を実施しています。オンライン講座は主に健康に関する内容がテーマとなっており、これまで「在宅勤務中の健康管理」や「今後のオフィスワークを意識した生活管理」について伝えてきました。自身のちょっとした変化について雑談を交えて共有する場として、また、チームのコミュニケーションを活性化する場として活用しています。
【当社の雇用現場での取り組みを詳しく紹介しています!】
当社でジョブコーチとして働く社員が、新型コロナウイルスによって在宅勤務が推奨された当社の雇用現場でどのような支援や工夫を行っていたかを、現場目線で紹介しています。
まとめ
新型コロナウイルス感染拡大による影響や働き方改革の一環として、障害のある社員への在宅勤務導入・活用を実施した企業も多いようです。今後、在宅勤務は障害者雇用における「はたらき方の選択肢」として確立する一方、在宅勤務を前提としたマネジメントや配慮、支援が求められるでしょう。当社の事例を参考に、在宅勤務におけるマネジメントや支援方法を検討してみてください。