新型コロナウイルス感染症の影響や雇用拡大のため、障害者雇用の領域でもテレワークの導入・活用の動きが加速しています。しかし「テレワークに対する社内の理解が得られない」「採用や環境整備の進め方が分からない」「導入したが業務創出やマネジメントがうまくいかない」などの不安や課題を抱える企業も多いようです。
そこで今回は、障害者のテレワーク雇用の導入を阻む課題と、その課題の原因を探り、解決するためのヒント、そして、テレワーク成功のための「業務」「採用」「マネジメント」3つのポイントを紹介します。
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障害者のテレワーク雇用 導入課題に見られる5つの不安
障害者のテレワーク雇用を導入する企業が抱える課題は企業によって異なりますが、主に5つの不安から発生するケースが多く見られます。障害者のテレワーク導入に対する5つの不安を見ていきます。
「出勤前提」の先入観による不安
「出勤前提」のはたらき方を当たり前としてきた多くの企業では、「職場に出勤して仕事をする」「仕事はface to faceで行うもの」という固定観念による不安の声が聞かれます。テレワークではオフィスと違ってお互いの状況がわかりにくいため、「さぼる社員がいるかもしれない」「コミュニケーションが取れない」「テレワークでは効率が落ちてしまうのではないか」と考えてしまうこともあるでしょう。今までの常識を変えることへの不安が「テレワークへの不安」となってあらわれます。「出勤前提」にとらわれない、はたらき方への柔軟性を持てないことが障壁となるようです。
障害者のはたらき方への誤解や偏見による不安
「そもそも、障害者にテレワークは無理なのではないか」という不安の声も少なくありません。具体的には「業務は軽作業や補助業務に限られるのではないか」「身体障害者は安定就業できるが、精神障害者は不安定だから難しいだろう」などの声を耳にします。また、こうした懸念の中には、テレワークに限らず、障害者がはたらくことそのものに対する誤解や偏見が含まれていることもあります。
採用すべき人材の要件や、遠隔での採用活動に対する不安
地方在住の障害者をテレワーク前提で採用する場合、どのような人材を採用すべきか分からないという課題や、本社と物理的に離れた地域で採用を進める方法がわからないという悩みを抱える企業もあるようです。「遠隔での採用活動をどのようにして進めるべきかわからない」「地域の支援機関を一つひとつ開拓し、連携していくのは工数的に難しい」といった不安も、採用に踏み切れない理由の一つとなっています。
マネジメントに対する不安
「障害者は一人でははたらけない」という先入観により、「遠隔ではたらく障害者へのマネジメントをどのように行えるのかわからない」という不安の声もあります。勤怠状況が見えにくいテレワークでは、コミュニケーションが煩雑になったり、業務管理やマネジメントの工数が増えたりすることにより、「配属先の管理者や同僚への負担が増える」ことが懸念されるためです。また、テレワークでは障害への配慮を十分に行えない可能性もあり、労務リスクへの不安もあるでしょう。
コンプライアンス上の不安
テレワークでは、コンプライアンス上での不安も多く聞かれます。「社会的ルールや就業規則を遵守させるには、目の届くところでの管理が不可欠ではないか」との考えが、「情報漏洩があった際にどう対処するのか」「リスクが大きすぎるため、テレワークを本格的に拡大できない」という懸念に繋がることで、テレワーク導入に消極的になってしまう原因になります。
テレワーク導入後にみられる課題とは
テレワーク導入後によくみられる課題は、主に「業務」「マネジメント」「コミュニケーション」の3つにわけられます。業務に関しては「仕事を継続的に提供できない」「仕事の幅や量が限られる」などの課題があります。仕事がなくなり、自宅待機状態になってしまうケースもあるようです。マネジメントに関しては、「業務指示や報・連・相がうまくいかない」「労務管理や評価ができない」など、お互いの勤怠状況を把握しにくいことが課題につながっています。
はたらく障害者側からは「同僚や上司に声をかけにくい、声をかけるタイミングが分からない」といったコミュニケーション上の不安や、「さぼっていると思われていないか」など自身の評価を気にして焦りや不安を感じてしまうという声も聞かれます。また、ミーティングや雑談が減り、業務に集中しすぎることで疲労が蓄積してしまうという課題も見られます。
不安や課題の本質を探る
テレワークに対する不安や課題に対処するためには、その原因や本質がどこにあるのかを整理して考えてみることが大切です。次から、具体的に整理して見ていきます。
その不安や課題はどこから来るものか?
原因を探るためには、不安や課題そのものを整理することが重要です。その不安や課題が何に起因するものか・・・具体的には「テレワークに対する誤解・偏見」なのか、それとも「障害者雇用そのものに対する誤解・偏見」なのか、を明らかにすることから始めます。その際に、テレワークに対する誤解・偏見と、障害者雇用そのものに対する誤解・偏見が混ざっているケースもありますので、分けて整理することが大切です。
もし、自社の障害者雇用への取り組みや、障害者と共にはたらくこと自体に誤解や偏見がある場合は、テレワークというはたらき方への理解に加え、自社が障害者雇用に取り組む意義や、障害についての正しい理解を広める必要があるでしょう。
課題の本質は「誤解」や「思い込み」
課題の多くは、はたらき方に対する誤解や偏見、思い込みにあります。
働き方改革やはたらくことに求める価値観の多様化などの影響によって、これまで当たり前としてとらえられていた「オフィス勤務」や「定時での出退社」「対面を前提としたはたらき方」などは、常識や前提条件ではなくなりつつあります。こうした傾向は、健常者の雇用だけでなく障害者雇用にも当てはまります。
また、障害者と一口に言っても、特性や職務能力、はたらく意向や必要な配慮は一人ひとり異なります。障害者の多様性に向き合わず、一括りに考えていることも、課題の本質と言えるでしょう。
障害者の多様性に目を向け、はたらき方に柔軟性を持たせること、その一つの選択肢としてテレワークを位置付けて活用するという考え方が大切です。
テレワークの原理原則は「はたらき方」の発想を変えること
「誤解」や「思い込み」を払拭し、はたらき方に対する「常識」をアップデートすることが大切です。そのためには、テレワークを正しく理解し、導入の必要性と目的、効果に対する社内理解を深める必要があります。加えて、障害者や障害種で考えるのではなく、業務を遂行できる人材要件を検討するという考え方で取り組むことも大切です。
人材要件を設定するためには、その業務に必要な職務能力は何かを明らかにすることが求められます。障害者によって職務能力やはたらく意向、必要な配慮は異なるため、障害者を一括りにせずにわけて考えることで、発想の転換ができるでしょう。
テレワークを成功させる「業務」「採用」「マネジメント」のポイント
それでは実際に、テレワークの導入・活用を成功させるための「業務」「採用」「マネジメント」におけるポイントを紹介します。
業務は「みえる化」と「フローの改善」でつくる
テレワークでは、オフィス雇用と同様に「業務」から考えることが大切です。「テレワークで行える業務がない」と考える理由として、業務の切り出しがオフィスワーク前提になっていることや、企業全体として業務のプロセス分解ができていないことが挙げられます。もちろん、テレワークだけでは完結できない業務も中にはあります。しかし、職種や仕事単位でテレワーク自体の可否を判断するのではなく、一つひとつの業務を見直すことでテレワークに適した業務を創出できるでしょう。
業務の細分化・見直しを行うことは、業務の切り出しを容易にするだけでなく、人材要件を定める際にも役立ちます。
【業務創出・切り出しについてもっと詳しく!】
テレワークに適した業務創出・切り出し方法のポイントを解説しています。
採用はターゲットを明確にして、母集団形成を効果的に行う
テレワークではたらく障害者も、従来のオフィス勤務者と同じく、長く定着し、活躍できる人材であることが求められます。そのため、障害に対する自己理解や、はたらく意欲、テレワークではたらくための準備ができていることが求められます。加えて、従事する業務遂行に必要な職務能力を有しているか、テレワークという就業形態ではたらける自律性があるかを見ていきます。
母集団形成の方法は、ハローワークや支援機関からの募集、人材紹介業者の活用など、さまざまですが、求める人材によって母集団形成の方法は異なります。
求める人材に出会うためには、自治体や民間の支援業者などとの連携が必要となります。業務やそれに応じた人材要件を定めて母集団形成を図る上で、自社での対応が難しい場合には、障害者に特化した人材紹介事業者やテレワーク雇用支援業者を活用すると良いでしょう。
【採用についてもっと詳しく!】
障害者のテレワーク人材に求める要件や、母集団形成のヒントを解説しています。
マネジメントは「指示系統のみえる化」と「帰属意識の醸成」がポイント
テレワークにおけるマネジメントでの不安の多くは「見えないこと」に起因します。はたらく側と管理する側のどちらも、はたらいている様子が見えないことが不安要素となるため、指示系統の「みえる化」により不安を払拭しましょう。見えない不安はITツールをうまく利用することで解消できるケースがほとんどです。また、一つのデバイスに不具合が生じた時でもコミュニケーションを継続できるよう、用途によってデバイスやツールを使いわけると良いでしょう。
また、頻度の高いコミュニケーション等を通じ、一人ではなく部署やチームと共に、会社の一員としてはたらいているという意識を醸成し、孤立感を与えないようにすることも大切です。ただし、管理を徹底しすぎて「監視・統制」にならないように注意しましょう。
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まとめ
障害者のテレワーク雇用成功のためには、テレワークや、障害者がはたらくことに対する誤解や思い込みを取り除くことが大切です。障害者の特性や能力、はたらく意向の多様性を理解すること、テレワークを「障害者が定着し活躍できるはたらき方の選択肢」として導入・活用することが求められます。
テレワークは遠隔ではたらくという特性から、特に採用、業務、マネジメントにおいて留意するポイントがあります。障害者のテレワークを成功させるヒントとして、本記事や関連記事を参考にしていただければ幸いです。