ADHD(注意欠陥多動性障害)は発達障害の1つです。障害者雇用の推進に伴い、ADHDの特性のある発達障害者の雇用も増加傾向にあります。それでは、ADHDの特性のある方を雇用する場合、職場ではどのような配慮や工夫が必要なのでしょうか。
この記事では、ADHDの特性を紹介するほか、ADHDの特性のある方に向いている職種や苦手な業務、定着・活躍にあたって必要な配慮や工夫をご紹介します。

目次

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?大人のADHDの特徴

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは、「集中力がなく不注意である」「じっとしていられない」「思い立ったら衝動的に行動してしまう」などの特性をもつ発達障害の1つです。
これまで発達障害は子どもの発達段階で見つかることが中心でしたが、近年では子ども時代に看過されていた特性が大人になってから顕在化して、診断を受けるケースも少なくありません。
ここでは、大人のADHDの主な特徴について簡単にご説明します。まず、ADHDの特性は「不注意優勢型」と「多動・衝動優勢型」の2つに大別されます。

不注意優勢型

ケアレスミス(不注意による微細なミス)が多いことや、何かと気が散ってしまい何かに集中することが苦手であるなどの特性が中心です。

多動・衝動優勢型

同じ場所にじっとしていられず落ち着きがない、静かにしていられず声を出したり私語をしたりしてしまうなどの特性が中心です。

混合型

ADHDには上記2つの特性のいずれかにとどまらず、不注意型と多動・衝動型が混合した特性を持っている人もいます。

大人のADHD診断数は増加傾向、精神障害者の雇用も拡大中

先述のとおり、以前はADHDとは子どもの発達段階で見つかる特性であると考えられてきました。しかし、近年では大人(成人)になってからADHDの診断を受ける人も増加しています。

大人になってからのADHDの診断数が増えている

日本でADHDと新たに診断された人数は大人も子どもも大きく増加しています。
信州大学の研究グループによる、全国の医療データを集約したデータベースを用いた調査では、2010~2019年の10年間においては、合計83万8,265人が日本でADHDと新規に診断されたとの結果が出ています。特に20歳以上の大人は、前回調査と比較し21.1倍の増加となっています。

障害者雇用市場における精神障害者の雇用数も伸びている

厚生労働省が発表している「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の障害者雇用は、雇用障害者数と実雇用率ともに過去最高値を更新しています。
その中でも、ADHD・発達障害を含む精神障害者の雇用は150,717人で対前年比で15.6%の増加、身体障害者(対前年比2.4%増)、知的障害者(同4%増)と比較しても雇用数の増加が顕著です。

出典:厚生労働省 各年度「障害者雇用状況の集計結果」を集計

これまではADHD・発達障害を含む精神障害者の雇用は、身体障害者と比べて「就労管理に労力とコストがかかる」「上司や同僚の負担が大きいのではないか」「安定就労は難しそう」という先入観を持たれてきました。しかし実際には、企業側の適切な理解と配慮があれば、定着・活躍することができます。また、その特性を強みとして、事業を担う業務で高い成果を発揮する事例も生まれています。

法定雇用率の引き上げやはたらき方の多様化、障害者に対する社会的認知・理解の拡大によって、ADHDを含む精神、発達障害者の求職や就職はさらに増えるでしょう。では、ADHDの特性や強み・弱みとは何かについて、次項より詳しく紹介します。

ADHDの強みとは

ADHDは先述の通り、不注意・多動性・衝動性などの特性がありますが、その特性こそが「強み」や「武器」にもなりえる要素をいくつも併せ持っています。ここでは、特に「強み」となる具体的な特徴を解説します。

フットワークが軽い

思い立ったらすぐ行動に移せる決断の早さや、気持ちの切り替えが上手で時間を置かず次の目標に向かっていけるフットワークの軽快さは、ADHDの代表的な強みと言えます。

感受性が豊か

表情豊かで情緒的なコミュニケーションが得意な「打てば響く」人柄を持ち合わせている方が多い点も、ADHDの方の長所の1つでしょう。

興味のあることはとことん追求する

興味や関心のあることに対し、高い集中力を発揮し、並外れたスピードと勢いで追求できるところも、ADHDの特性がある方の強みと言えます。このような強みを活かして活躍できる可能性を持っています。採用する企業は強みを理解し、その強みを極力生かせる業務や環境を用意することが大切です。

ADHDの方に向いている仕事・業務

ADHDの方の強みを生かせる業務には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、一般的にADHDの方に適していると言われている仕事や業務をご紹介します。

興味関心があることに没頭できる仕事・業務

前述のADHDの強みでも触れた「興味のあることはとことん追求する」という特性を活かせる研究職などは、一般的にADHDをはじめとする発達障害の方に向いていると言われます。なかでも特にADHDの強みが生かせるのは、本人が好きな分野や興味のある分野に関する研究ができる職場と言えるでしょう。

想像力を生かせる仕事・業務

意外性に富むアイデアを自由な発想で形にできることもADHDの長所です。Webデザイナーや広告ディレクターなど、発想が生きる業務も適しています。

専門的な知識・技術を必要とする仕事・業務

エンジニアやプログラマーなど、高い専門性が求められる仕事も、得意分野に対する集中力を発揮できるADHDの方に向いている職種の1つです。

IT、デジタル領域で、DX推進人材として活躍

ADHDに向いている業務を紹介してきましたが、デジタル分野で活躍できる仕事内容が多いことにお気づきでしょうか。ADHDの特性がある方は、企業のデジタル・IT領域の職務においても大きな戦力となる可能性を秘めています。
IT人材の不足を感じている企業は、ADHDの特性がある方をIT・デジタル領域の職務で採用し、特性を活かした活躍をしていただくことを検討してみてはいかがでしょうか。

パーソルダイバースでは日本初(※)の先端IT領域に特化した就労移行支援事業所Neuro Dive(ニューロダイブ)を運営しており、ADHDをはじめとする発達障害の強みや能力を活かして先端IT領域で就職・活躍できるよう支援しています。全国5拠点で、毎日約100名の利用者がDX推進に必要な先端ITスキルとセルフコントロールを学んでおり、卒業後はニューロダイバース人材としてデータアナリストや機械学習エンジニア、デジタルマーケティングなどの職種へ就職しています。
障害者雇用とDX推進という、今後企業が向き合うべき2大課題にマッチした人材採用を検討してはいかがでしょうか。
※日本初:「先端IT特化型就労移行支援事業所」として、2019年11月「Neuro Dive秋葉原」開所当時、当社調べ

ADHDの方が活躍しづらい仕事・業務は

ADHDの特性がある方には適職と言われる業務がある一方で、強みが活かせない、向いていないと言われる業務もあります。ここでは、一般的にADHDの特性には向かないとされる業務についてご紹介します。

マルチタスクが求められる業務

経理や人事、電話応対や接客対応をともなう一般事務など、1度に多くの対応や処理が求められる業務は、マルチタスクが不得意とされるADHDの方には向いていないと言われています。

少しのミスも許されない仕事

看護師や医師、保育士など、1つのケアレスミスでも取り返しのつかない事態を招きかねない業務についても、ADHDの方にとっては負担が大きいと言えるでしょう。


適性とマッチングを考慮すると、上記のような仕事でのADHDの方の採用には慎重な検討が必要と言えそうです。

ADHDのある方でも安定就労と活躍は実現可能、企業が行いたい配慮とは?

それでは、ADHDの特性がある方が安定してはたらき、活躍するうえで、企業としてどのような配慮が必要なのでしょうか。いくつかのポイントをご紹介します。

ADHDは比較的勤怠が安定しやすい障害

ADHDをはじめとする発達障害は、複数ある精神障害のなかでも他の気分障害(統合失調症、双極性障害やうつ病など)や適応障害と比較し、勤怠が安定しやすい傾向があります。
企業側が本人の障害特性をよく理解し、適職にアサインして合理的な配慮が行えれば、安定した就労の継続が可能と言えるでしょう。また、本人の社内での活躍・貢献も十分に期待できます。

ADHDの強みを活かし、弱みに配慮する具体的な配慮例

ADHDの特性がある方が安心してはたらき、活躍するためには、適切な業務指示やコミュニケーションが大切です。いくつかのポイントを紹介します。

口頭だけでなく業務指示を明文化して伝える

ADHDの方はその障害特性から、思考が多動で、すべき仕事に集中できない、段取りよく作業ができない、どこから手を付けてよいのか分からなくなる、といった傾向がみられます。
業務上の指示やタスク内容は口頭で説明するとともに、用紙やホワイトボードを活用し、できるだけ具体的かつ明確に伝えるようにしましょう。

複数の作業を同時に依頼しない

先にも述べたとおり、ADHDの特性がある方はマルチタスクの作業が苦手な傾向があります。そのため、同時に多くの作業を求めるのではなく、1つを完了させたあとに次の作業に着手する…というように、順序だてて依頼すると良いでしょう。

休憩時間になったら声をかける

ADHDの方が集中して作業に取り組むと、休憩や終業の時間も忘れてしまうことがあります。作業の区切りのタイミングでひと声かけ、休憩を取るよう意識させることをおすすめします。

まとめ

雇用側が障害特性と強みをしっかり理解し、適した業務と合理的な配慮を整えられれば、ADHDの特性がある方の安定就労と業務貢献・活躍は十分に可能です。

障害者採用は今後、法定雇用率の引き上げなどにより、競争が激しくなることが予想されます。身体障害者は高齢化などで母数が減る一方、精神・発達障害は20~30代の若年層を中心に増加している傾向にあります。今後の障害者採用における主なターゲットは精神障害・発達障害者となるでしょう。

ADHDなどの発達障害を含む精神障害者雇用を成功させるためには、強みや弱みを理解すること、強みを活かせる業務と雇用環境を整えることが大切です。それによって強みを活かし、企業活動を担う主力人材として活躍することも可能です。
ADHDをはじめとする発達障害者の活躍は、社会における障害者雇用拡大の推進力となります。法定雇用率の達成のみにとどまらず、戦力人材としての活躍や事業貢献も見据え、雇用推進をぜひご検討ください。