特例子会社とは、障害者の雇用促進と安定を目的として設立される子会社のことです。認定を受けると、親会社およびグループ全体の障害者雇用分として実雇用率を算定することができます。
この記事では、特例子会社による雇用を考えている企業担当者向けに、制度の概要やメリット、どのような企業が向いているのか、設立までのステップなどについてまとめました。また実際に特例子会社として設立され、事業を行っている当社パーソルダイバースの事例もご紹介します。

目次

特例子会社とは

特例子会社とは、障害者雇用の促進と安定を図るため、障害者の雇用において特別の配慮をする子会社のことです。
特例子会社になるためには、一定要件を満たし、厚生労働大臣から認定を受けることが必要です。特例子会社で雇用された障害者は、親会社やグループ全体の雇用であるとみなされ、実雇用率を算定することができます。これが「特例子会社制度」の概要です。

企業グループ算定特例(関係子会社特例)、事業協同組合等算定特例について

特例子会社を設置しなくても、グループ会社の実雇用率の通算が可能な制度があります。それが企業グループ算定特例(関係子会社特例)です。
2009年4月に創設された制度で、一定の要件を満たし、厚生労働大臣から「グループ認定」を受けると、親会社が運営するグループ会社全て(特例子会社・子会社)の従業員が、親会社で雇用しているとみなされるものです。
(ただし認定には前提条件や制約が多いため、この制度を利用する企業は少ないのが現状です)

この他、中小企業が事業協同組合などを活用し、この組合のもとで障害者を雇用する事業を協同で行い、それに対して厚生労働大臣から認定を受けた場合に、事業協同組合と組合員にあたる中小企業の間で実雇用率の通算が可能になる「事業協同組合等算定特例(特定事業主特例)」という制度もあります。

特例子会社と一般企業の障害者雇用枠の違いは?

障害者を雇用しているのは特例子会社だけではなく、一般企業の障害者雇用枠もあります。特例子会社と、一般企業の障害者雇用枠とは、企業にとってどのような違いがあるのでしょうか。

特例子会社の場合

障害者に合わせて設備や制度が整えている点が、大きな特徴です。また、全従業員のうち障害者が占める割合も、一般の企業と比較して高くなります。業務内容についても定型業務が中心となっており、チーム単位でこなす分業型の場合が多いです。障害に対する配慮も一般企業より手厚いことから、定着率が高い傾向にあります。

一般企業の障害者雇用枠の場合

一般企業の障害者雇用枠の場合、特例子会社ほど設備などの整備が障害者に合わせて進められておらず、従業員中の障害者割合も特例子会社と比較した場合に低めです。
また一般部署での障害者採用は、基本的にそのポジションで求められる職能要件を満たす人が、一般採用の社員と協働する形で就業しています。特例子会社と比較して職能要件が高くなる傾向があり、採用競争上も難しくなることが一般的です。

特例子会社による障害者雇用のメリット

特例子会社の設立には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
簡単に説明すると、「法定雇用率の安定達成・維持と、障害者の活躍・戦力化が可能になる」という点が大きなメリットとなります。また、さらに具体的なポイントを以下にまとめました。

1. 設備投資や業務・コストを集中させ効率化を図ることができる

障害のある方を複数の会社や部署に分散して雇用するのではなく、1箇所に集約して雇用・管理することができます。業務自体も集約されるため、適切にスケールメリットを生かすことが可能です。
複数の部署に分散して雇用すると、障害者に対しての指導員の配置が多くなりますし、雇用管理に対するコストも大きくなります。一方で特例子会社による雇用の場合、障害者に対する業務や管理、資源配分を一元集中できます。このため、各部署やグループの他の会社が負担していた施設改修費などのコストも抑えられます。

2. 多様な障害者に合わせた雇用管理や職場環境、人事評価制度の構築が可能

障害のある方を多数雇用する場合、さまざまな特性を考慮して雇用条件や配慮、雇用管理を行うことが大切です。特例子会社の場合、親会社とは別に設立される企業となるため、ひとつの企業として雇用管理の仕組みを柔軟に設計したり、必要な配慮を行うための職場環境を構築することができます。
また、障害の特性や職務能力を前提とした人事評価制度の制定も可能です。これらの取り組みにより、適正な評価やスキルアップの機会提供も行えるようになります。

3. 職場定着率や生産性が向上する

特例子会社ではない一般企業ではたらく障害者の方は、職場内での孤立や仕事にやりがいを感じられなくなるなどの理由で、短期間で仕事を辞めてしまうこともあります。これは障害者の雇用における、大きな課題の1つと認識されています。
特例子会社では、多くの障害者の方が一緒にはたらけるため、孤独を感じづらい点が特長です。また作業目標を他の同僚と同レベルに設定できることで、仕事に対するモチベーションも高い状態に保ちやすくなります。
このような環境で、適正な制度や管理の下での業務が続けば、社員の職場定着率が向上していきます。それらがスキルの向上や、リーダーの役割を担う社員の育成、業務範囲の拡大など、会社やチーム全体の生産性が向上するというメリットが期待できます。

4. 障害者雇用のノウハウを蓄積、活用できる

特例子会社では、業務創出や母集団形成、採用、雇用管理、人事評価など、障害者雇用における豊富な知識や経験が蓄積されます。グループ全体の障害者雇用を推進する立場として、親会社やグループ内の別の子会社に助言が行え、グループの他企業でそれを活かせます。
企業が負う雇用責任を果たすための重要な役割を、特例子会社が担うこととなるのです。

特例子会社の設立を検討している企業で、設立に向けてのノウハウを求めている場合、このような特例子会社を見学することも有効な手段です。

どのような企業に向いているの?

下記のような企業は特例子会社による雇用を検討すると良いでしょう。

  • 雇用すべき人数が多く、安定就業、定着化を目指す必要がある企業(中・大規模企業、または企業グループなど)
  • 特定の障害だけでなく、一般部署でのサポートが困難な障害者や、多様な障害者を雇用していく必要がある企業
  • 一般部署への配属をこれ以上増やすことが難しい企業
  • 一定割合の業務がある企業(外部にアウトソースしている業務が多い企業など)

例えば従業員規模が1,000人以上の企業で法定雇用率2.5%を達成するためには、単純計算で25人分の雇用を行う必要がありますが、毎年25人分の雇用を同じ配属先や業務、管理手法の中で創出し続けることは簡単ではありません。雇用すべき障害者の数は企業の成長とともに増加するため、継続的に多くの雇用や業務を創出し、かつ安定的に働ける仕組みを構築し続ける必要があります。

特例子会社による雇用状況

特例子会社の認定企業や雇用数は例年、増加傾向にあります。厚生労働省が発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」では、特例子会社の認定を受けている企業は前年より17社多い579社、雇用されている障害者は前年の41,718.5人より2138.5人増え、43,857.0人となりました。
特例子会社による障害者雇用は10年前の2.7倍、全雇用数にしめる特例子会社雇用数の構成比は10年間で1.6倍増加しています。

また、民間企業の法定雇用率は2024年4月より2.5%、2026年度2.7%に引き上がることや、これまで民間企業で雇用が進んできた特定の障害者は“売り手市場”化し、雇用が難しくなっていることから、多様な特性の障害者を雇用する必要性が高まってきています。そのため、規模の大きい企業では、特例子会社のような集合配置型での雇用を進める企業が増えていくと思われます。

チャレンジラボを運営するパーソルダイバースは、自らが特例子会社である知見を活かし、これまで多くの法人企業の特例子会社設立支援に携わってきました。特例子会社の設立だけではなく、集合配置型の部門を立ち上げという選択も可能です。
\当事者だからわかる現実的かつ具体的な支援が可能/→パーソルダイバースの《障害者雇用に関する部門づくり支援》

特例子会社設立のための条件とステップ

特例子会社の設立をご検討中の企業も、多いのではないでしょうか。ここでは、特例子会社設立の条件や、設立までのステップについてご紹介します。

特例子会社設立の認定要件

【親会社の要件】

親会社が、当該子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること(具体的には、子会社の議決権の過半数を有することなど)

【子会社の要件】

まず、特例子会社を設立するには、以下の全ての雇用条件を満たす必要があります。

  1. 具体的には、親会社からの役員派遣などが行われており、親会社との人的関係が緊密であること
  2. 障害者を5人以上雇用していて、全従業員に占める割合が20%以上であることと同時に、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること
  3. 障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置などが適切に実施されていること
  4. その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること
  5. 株式会社であること

<1>認定要件を確認する

先にご紹介した要件を満たしていることを確認し、<2> 以降の準備に進んでください。

<2>申請書類を準備する

公共職業安定所長に提出する「子会社特例認定申請書」や添付書類・確認資料などを用意する必要があります。申請書類についても、事前にチェックしておくと良いでしょう。

申請書類一覧

様式等 記載内容等
子会社特例認定申請書 公共職業安定所長に提出する書類
親事業主および子会社の概要 親会社と特例子会社の概要などを記載する

添付書類、確認資料の例

様式等 記載内容等
親会社の直近の有価証券報告書(写)または付属明細書(写) 親会社が子会社の意思決定機関を支配していることを示す書類
子会社の株主名簿または出資口名簿 同上
親会社の「障害者雇用状況報告書」 直近の6月1日時点のもの
申請日現在における親会社(当該子会社含む)の障害者雇用状況報告書
定款
法人登記簿謄本
親会社から派遣されている子会社の役員名簿 氏名、年齢、所属、役職、入社年月日(親会社からの主な略歴)
子会社の社員名簿
子会社の障害者受け入れ通知書 個人ごとに雇い入れ条件のわかるもの
子会社の就業規則・給与規定等
障害者の職業生活に関する指導員の配置状況 障害者職業訓練生活相談員の選任届など
子会社の図面、案内図
子会社の勤務中(または実習中)の写真 職場の仕事内容が確認できるもの
その他 子会社が行う事業において障害者雇用促進および安定に関する資料

<3>設立プランを定める

役員に承認を得るために必要な設立プランを作成します。
具体的な企業内容や設立の理念などを決めていくプロジェクトを社内に設け、詳細に作成するようにしましょう。
ハローワークや障害者職業センターで相談を受け付けており、サポート体制も整っていますので積極的に利用すると良いでしょう。

<4>定款の作成、認証

次に、定款を作成しましょう。絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項など、それぞれの内容を記載する必要があります。
定款の作成が終了したら、必要書類と共に公証人役場へ持っていき認証を受けましょう。
定款は、作成や認証が代理人でも可能となっているため、行政書士や司法書士・弁護士などに相談することが望ましいでしょう。

<5>会社設立登記申請

設立登記は、出資金の払い込みから2週間以内に必要書類を登記所に提出し審査を受け、通過することで行えます。
審査結果が出るまでには数日かかるので、できるだけ早く動くようにしましょう。困ったときには、行政書士や司法書士・弁護士のサポートを受けるとスムーズです。

<6>官庁への諸手続き

会社運営に関係の深い官庁へ届け出をします。届出書類や届出先によって提出期限が違ってくるため、漏れのないよう注意しましょう。

提出先 届出書類 提出期限
税務署 法人設立届出書 設立から2か月以内
税務署 給与支払事務所などの解説届書 設立から1か月以内
税務署 青色申告の承認申請書 設立から3か月以内、もしくは事業年度末のいずれか早い日の前日まで
都道府県税務事務所 法人設立届出書 自治体によって異なる
市町村役場 法人設立届出書 自治体によって異なる
日本年金機構 健康保険・厚生年金保険新規適用届書 適用事業者となったら速やかに提出
日本年金機構 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届書 適用事業者となったら速やかに提出
労働基準監督署 労働保険の保険関係成立届 速やかに提出
労働基準監督署 適用事業報告書 速やかに提出
労働基準監督署 時間外労働時間に関する協定書 速やかに提出
ハローワーク 雇用保険適用事業所設置届 雇入れ日の翌日から10日以内
ハローワーク 雇用保険被保険者資格取得届 採用した日の属する月の翌月10日まで

<7>業務、就業規則、人事評価制度、人材要件

業務内容や就業規則は、雇用を予定している障害がある方に合わせた内容となるよう工夫しましょう。
従業員の賃金・労働時間・休日数・契約期間などを予め決めておくようにしてください。

<8>母集団形成、採用選考活動

面接や実習などを行う、採用選考活動を行います。悩んだ場合は、ハローワークの障害者雇用担当者に問い合わせると、従業員の募集~採用までのアドバイスを受けられるので、採用活動をスムーズに行えます。

<9>入社、特例子会社認定申請

障害のある方を採用したら、親会社の所在地を管轄するハローワークで特例子会社の申請をします。あらかじめ用意した必要な申請書類をもって行きましょう。

特例子会社の事例:パーソルダイバース

当社パーソルダイバースはパーソルグループの特例子会社として2008年に認定を受け、雇用に取り組んでいます。従業員数は2024年4月時点で2,690名。うち障害のある社員は1,873名で、その半数以上が精神、発達障害のある社員となっています。

グループから事務系業務を受託 雇用ノウハウをサービスに展開

パーソルダイバースの特徴はグループから数百の事務業務を受託していることや、地域連携として農福連携や伝統産業などに従事していることです。また、自社の雇用経験をノウハウに変え、転職や就職を目指す障害者や雇用に取り組む企業を支援するサービスを展開しています。

<主な業務内容>

  • 営業支援系事務(求人原稿制作、契約書作成、発送、各種データ入力・集計など)
  • ミドル・バックオフィス支援系業務(経理業務、人事総務業務)
  • 執務エリア、談話室、会議室などの清掃
  • グループ各社オフィスにあるカフェの運営
  • 養蚕、農業
  • 食品、販促品製造

徹底した業務標準化や独自の定着支援で安定就業、生産性を向上

事務アウトソーシングでは、仕事を委託するお客様の満足度向上のため、すべての業務を細分化し、業務フローとマニュアルを導入する「業務標準化」を徹底しています。また、所属部署と定着支援担当の2軸によるフォローアップを行うほか、独自開発システムを活用し、社員一人ひとりの健康管理と即時対応に努めています。
その結果として、障害のある社員の入社1年後の離職率は5%以下となっています。

<雇用のための取り組みの例>

  • 業務標準化の徹底
  • 所属部署と定着支援担当の2軸による定着支援
  • 独自に開発したシステムを活用した健康管理
  • 業務から体調管理までカバーする独自の教育研修
  • 強みを見極めた人材育成/能力開発

まとめ:特例子会社の設立準備で検討すべきことは

最後に、これまで特例子会社として自社の雇用を促進しながら、企業に特例子会社設立を含む雇用支援を行ってきた当社が考えるポイントをご紹介します。特例子会社による雇用を検討している方は、参考にしていただければと思います。

1. 設立準備前に、自社の雇用方針と戦略を再確認し、設立形態の要件を整理

障害者の雇用、就業の形はさまざまで、特例子会社による集合配置雇用もその一つです。どのような雇用を目指すかは、各社の雇用方針と戦略によって異なります。すでに特例子会社による雇用を前提に考えている企業も、これから検討する企業も、以下を振り返ってみてください。

  • そもそも障害者を雇用する理由の確認
  • 障害者雇用に期待するものは何か(会社に何をもたらすものか)
  • 達成すべき雇用数と、そのための計画(中長期)

その上で、現在の雇用状況を見直し、雇用人数や雇用している社員の属性、配属先、就業状況や定着率、雇用がもたらしている成果などを整理します。特例子会社による集合配置型で雇用を進めるか、または一般部署への配属で進めるのかを再検討しましょう。

雇用方針や戦略、現状確認とともに組織としての特例子会社の使命、ミッションを定め、必要要件を整理します。
法的義務としての雇用率達成は大前提ですが、組織として運営していく上でのコスト(雇用コスト)は発生し、企業の成長に比例して増え続けます。雇用コストを必要最低限に抑え続けるのか、あるいは企業全体のCSR活動、ダイバーシティへの取り組みへの影響や、経営面への直接・間接的貢献(業務の効率化、売上・利益貢献など)といったプラスの効果を求めるのかを、定めておかなければなりません。

それにより組織体制や人事部のかかわり方、親会社やグループとして雇用コストはどう負担するのかも変化します。また、創出・受託する業務内容や雇用する障害者の人材要件、雇用後の育成、人事評価制度の整備などの必要要件も変わるでしょう。

2. ハローワークや支援機関、民間の支援業者に相談する

全国のハローワークや高齢・障害・求職者雇用支援機構、地域障害者職業センターで、特例子会社の設立準備相談を受け付けています。設立要件や必要な手続き、設立によって受けられる助成金などについて、相談してみると良いでしょう。

また設立にあたっては、設立計画から行政への各種申請、制度の整備や体制構築を支援してくれるコンサルティングサービスを行っている業者がありますので、積極的な利用がおすすめです。
当社パーソルダイバースでも、設立から採用、雇用後の定着までを支援するコンサルティングを行っていますので、お気軽にご相談ください。